- リア王年代記 (1978年) (北星堂イギリス古典選書)/北星堂書店
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シェイクスピア『リア王』の種本の一つと言われているものです。
リア王の物語は非常に有名で、この本以外にもホリンシェッドの『年代記』(読んだけど、リア王のところは未読。なんせ物凄く長い。日本語訳はありません)、ジョン・ヒギンズの『為政者の鑑』(既読。おそらく日本語訳はない)、エドマンド・スペンサーの『妖精の女王』 (既読。日本語訳あり。レビューも書いています。)があったり、
おそらくもっとも古くて本として残っているものは、ラテン語で書かれたジェフリー・オヴ・マンモスの『ブリタニア列王史』(既読。日本語訳あり。)
でしょうが、シェイクスピアが読んだのかは不明。たぶん、直接は読んでなくって
これを基にしたホリンシェッドを読んだのだろうというのが主流です。(ホリンシェッドを読んだことはほぼ確実)
まあ、とにかく、当時は超有名な話だったリアと三人の娘の物語を
シェイクスピアは最高傑作に仕立てあげました。
たま―――――に、シェイクスピアは創作を全然していなくって、殆どの作品を誰かの作った物語から持ってきてるから大したことないんだ、なんてことを言っちゃう人がいますが
じゃあまず種本を読んでみろ!!!\(*`∧´)/
と言いたくなるわたくしです。
違うから~~~、全然違うから~~~。
翻訳を読んでも、ストーリー以前に
「美しさ」が月とすっぽんなことは伝わるはずです。
『リア王年代記』は、戯曲です。
そして、匿名で出されたため、今でも作者不詳。
イギリス人であることは間違いないだろうからイギリス文学に分類しましたが・・・
たぶん、クリストファー・マーロウ、トマス・ロッジ、トマス・キッド、ジョージ・ピール、ロバート・グリーンあたりの、まぁかなり有名なエリザベス朝劇作家の作ではないか、と言われているようですね。しかし、結構根拠はないみたい。
個人的には、少なくともマーロウではないと思います。
マーロウだったら、もっと面白いはず!!! ←
エドマンドらのエピソードや、リアの狂気などは載っていません。
では、内容に入りましょう。
ご存知の通り、リア王には、ゴノリルとレイガン、そして姉二人よりもはるかに美しいコーデラという三人の娘がいました。
王妃を亡くしたばかりのリア王は、三人の娘に自分をどれくらい愛しているかを語らせ・・・・・
姉二人は媚び諂うのだけれど、コーデラは
「わたしは自分の孝心を言葉で画きだすわけにはまいりません。(略)子供が父親にたいしてどんな愛情を持っているかをお考えください。それと同じ愛情を、陛下、わたしはそちらにいだいているのです。」
と言い、リアは激怒する・・・・・のですが、
上記の台詞、別にそんな怒るもんじゃないですよねぇ?
どうしてもシェイクスピアの 'nothing' と「愛して、黙っていよう」と比べてしまいます・・・・。
もともと、コーデラがかなりの美人で、優しく、モテモテ。
姉二人の容姿については特に書いていませんが、妹に対してかなりのじぇらしーを感じているご様子。
シェイクスピアの『リア王』と比べてしまうと月とすっぽんなのは当然なのですが、
結構いいな、と思えたのが使者とゴノリルとの会話。
簡単に言うと、ゴノリルが父リアに言ったのと似たような媚び諂いを使者→ゴノリルにしているわけで、
その中身のなさが何とも面白い。
使者 「やさしい女王陛下、たとえわたしが百の命をもっていましょうとも、その言葉のお礼に、そちらのために九十九の命をささげてもいいくらいの気持ちです。」
ゴノリル 「そう。それにしても、お前には命がまだひとつ残っていて、命というものは、ふたつ以上はもてないものなんですよ。」
使者 「ご親切な女王陛下のためでしたら、そのひとつの命も惜しくはありません。この剣、この円盾、この頭、この手、腕、脚、内臓に臓腑、ほかのからだのどんなとこでも、そちらのおおせどおりにご用にたてます。」
じゃあ、あんたの首が欲しいわ、なんてサロメみたいなことを言わないゴノリルですが(笑)
驚くべきは、なんかぱっとしないめでたしめでたし的な結末を迎えているということ。
リアとコーデラ、死にません。
ゴノリルとレイガンも死にません。更に、別に反省もしない。
彼女たちが謝って→リアとコーデラが許す結末 なら喜劇として終わることが出来るし
むしろテイトの悪名高い改作版『リア王』みたいにしちゃえばいいのに
リア王の最後の台詞「さあ、わしの地位を高いところに勧めてくれた息子と娘よ(コーデリアとその夫)、わしといっしょにしばらく休息をとり、ついでフランスにもどることにしよう。」
で、幕を下ろすことに・・・・・。
コーデラとリアは確かに和解してはいるのだけれどね。
う~~ん、なにこの腑に落ちない結末・・・・・。
このあと、どうなるの。
人が死なないのだから悲劇ではないため、自動的に喜劇となるはずなんだけど
喜劇・・・・と思えない後味の悪さ。
後味の悪い喜劇には「問題劇」というようなものもあるのですが、
『尺には尺を』、『終わり良ければすべてよし』というような後味の悪さでもなくってね・・・・。
え、これでいいの????
シェイクスピアの『リア王』は、
リアもコーディリアも、散々苦労してきたのだから、死ななくても!!!!あまりにも残酷な!
と思えたりもしてしまうのですが・・・・
これを読んでみると、やっぱりこの二人は死なないとだめなんだと改めて痛感しました。
私の大好きなトルストイは、シェイクスピアが、特に『リア王』が嫌いで嫌いでしょうがなかった人ですが、
トルストイもこれと読み比べてみたらシェイクスピアの素晴らしさが分かったような・・・・?
って、いくら良くても合う、合わない、があるのが文学ですけれどね。
←ついでに「リアとトルストイと道化 ジョージ・オーウェル
」。こちらはトルストイに対する反論です。・・・おもしろい(*´∀`*)
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