食べるギリシア人――古典文学グルメ紀行 (岩波新書)/岩波書店
¥756
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ダッチさんが読まれていて、気になっていた本。

結論から言うと、かなり面白いキャー


う―――ん、やっぱり古代ギリシャ、そして古代ローマって好きだな。


文学、いえ、正しくは小説における食。

それはとても重要なものだと言われています。


なぜならば、小説家は、必要がなければそんなつまらないシーンを書かないから。


食事というのはメニューを羅列して、登場人物に食べさせるというわけで

それを面白くするというのは非常に難しいんだとか、そりゃそうですよね。


だから、なにか意味がないと書かない、んだそう。


ヘミングウェイやヘンリー・ミラーみたいにひたすら飲んでー食ってーさせる作家もいますけどね。

活力を生み出す行為だから、たとえばポーの「アッシャー家の崩壊」のような話で、物を食べさせたら変でしょ、という指摘を何かの本で読んで

妙に納得した記憶があります。


しかし、今回取り上げられているのは古代ギリシャなので、演劇や叙事詩。

そういったものの、「食」は、どんなものがあるのか?


それを追っていく本となっています。


それなりに古代ギリシャの作品は読んでいるほうではあると思いますが、


「古代ギリシャと食・・・・?食べるシーンなんて、あったっけ?」


というのが、正直な感想でした。


文学における食っていうのが重要なものだってことが分かっているつもりでも、

いざ、単に趣味で読むとなると

そのことを忘れちゃう、ってのが現状(苦笑)


では、まず古代ギリシャでもっとも偉大であると誰も異論がないと思われる

ホメロスから!


ホメロスの食、って、ペネロペへの求婚者がひたすら食べてるくらいしか思い出せない・・・・のですが、

結構食べるシーンってあるみたいですね。


ただ、面白いのは「ホメロスは魚を食べさせていない」ということ。


ギリシャだから山ほど魚はとれたはずだし、よく食べられていたのに

さらに、オデュッセイアなんて漂流していたのだから

魚を食べないわけなんてわけないはずなのに

オデュッセイアが食べるのは、いつも肉とパンだけ。

『イリアス』に登場する英雄たちも、魚は食べていないのだそう。



食だけでなく、ワインについても載っています。

古代ギリシャに限らず、古代ローマでもそうでしたが、ワインを水で割って飲んでいました。

それはよく出てくるし有名な話だけれど、それはなぜか?いつごろなのか?という考察。


やはり、古代ローマよりも古代ギリシャの方が先のようで

ホメロスのころから既に出てきています。

ホメロスより前、となると、探すのが大変そう・・・・。


割り方にもいろいろあったようで、話し合う時のワインと水の割合はこれくらいがベスト、なんてのもあったとか。


当時からキャベツが二日酔いに効く、と分かっていたそうで

キャベツを勧める場面も引用されていました。


ただ、二日酔いが出てくるのは喜劇のみで、叙事詩にはお目にかかれないそう。

ですよね(笑)


食卓の賢人たち (岩波文庫)/岩波書店
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アテナイオスは、ホメロスの時代から1000年近くあとの人らしいですが、

ホメロスの食についても言及しています。



気付きもしなかったけれど、よく出てくるのがウナギ。

うなぎは、甜菜と共に出てくることがとても多いそうで・・・・どんな味がするんだろう。

蒲焼だって甘いから、似たようなもんかな。



逆に、「食べない」ことも載っていました。

それはすなわち、絶食による自殺。


ふつう文学に書かれる自殺というと、剣を突き立てるか縄で首をくくるか・・・・ですが、

絶食で自殺をしようとした人物が一人います。いや、他にもいるのかもしれませんが。


それは、パイドラ。

義理の息子に恋してしまってどうにもならず、もう死ぬしかないと思いつめて

絶食して死のうとするのですが、結局死ねず・・・・・

最終的に、首を吊って死にます。


著者が指摘しているように、飲食が出てくるのはきわめて喜劇が多く、

悲劇ではそれが極端に少ないのです。


それは、何もギリシャ神話に限らなくとも、シェイクスピアだってそうだし、なんでもそうでしょうけどね。


それで、その悲劇の例外がパイドラなのです。


ギリシア悲劇〈3〉エウリピデス〈上〉 (ちくま文庫)/筑摩書房
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このパイドラの話は『ヒッポリュトス』。これ↑に収録されています。

悲劇に飲食が極めて少ない理由。

まず、その雰囲気なのではないかと思います。

物を食べながら、復讐を誓う、とか、やっぱりおかしいですもの。


食事って団欒で、平和的なものだし

食事といっても毒殺に使用するだとかであれば十分使えるけど―ー

悲劇に食事を入れると、蛇足になりがちな気はしますよね。


逆に、ニコラス・スパークスや、ノーラ・ロバーツのようなハーレクインなんかは

手料理で愛を深めるなんて場面が異様に多くて

それもまたとても気になっているのですが―――。


著者は、野外劇場という環境がネックになっているのでは、と指摘しています。

そうなると「室内」を表すのに難しいから。

ううむ、それもあるかもしれません。


現在の悲劇だと・・・・どうなのかな。

普通に飲食ってあるものかな。



では、一旦食を離れましょう。


お次は「椅子」。


古代ギリシャ、そして古代ローマでは食事時に寝椅子が使われていました。

さて、それはいつからいつまであった習慣だったのか?


なんだか忘れたけれど、古代ローマの文学作品で「座ったまま食べた」という記載があり、

注釈で「寝椅子を使って食べるのが正式なので、現在で考えると立ったまま食べた、のようなニュアンス」と記してあったことがあります。


最後に、手拭きパンを。


言うまでもなくナイフやフォークなんてものは存在していませんので、

当時は主に手づかみで食べ、汚れた手をパンで拭きました。


そして、そのパンはというと。。。。犬に食べさせる、という、合理的な方法。


しかし、手づかみではとても食べられないスープや煮込み料理はどうするのか、というと

これまたパンです。匙パンを使います。


スプーン風に、パンをへこませて使うもの。

で、でも、著者の言うように、すぐにふやけて使えなくなりますよね・・・・・?


なぜ、道具を発明しなかったのか。そこが不思議です。

文学と食。これは人気のあるテーマですし、本もたくさんあります。


角川学芸ブックス 名作の食卓 文学に見る食文化/角川学芸出版
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これは日本文学の食についてのもの、未読。

危ない食卓―十九世紀イギリス文学にみる食と毒/新人物往来社
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19世紀イギリス文学にみる食と毒。レビューもあります。→こちら

食に着目した文学研究はなぜかアメリカの方が多いのですよね。

パンをおいしそうに白く見せるためにはミョウバンを加えたり、オースティン作品の拒食症患者を考察したり、ヴェジタリアンや、禁酒についてなど、盛りだくさん。かなり興味深い内容です。

一応専門書にはなっているけど、かなり読みやすい内容。

世界文学「食」紀行 (講談社文芸文庫)/講談社
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先日借りてきたけど読めずに返却。

日本&世界の食だそうです。


“食”で読むイギリス小説―欲望の変容/ミネルヴァ書房
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既読。レビューもあり。→こちら


専門書、というか論文集ですが、特に面白いと思います♪

シリーズの、『衣裳で読むイギリス小説 』も面白いです。

前者のほうが面白かったけど、『インテリアで読むイギリス小説』もあります。

シェイクスピア食べものがたり/近代文芸社
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食物史専門家が書いた、シェイクスピア劇に登場する食物について。

ディケンズとディナーを―ディケンズの小説中の食べもの散歩/モーリス・カンパニー

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未読。これも面白そう。

シェイクスピアのワイン/丸善プラネット
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既読。ワイン界ではとても有名な人が書いた本らしいです。