「ふへへ、やった。せんにゅう成功です」
得意満面でフウマはえへんと胸を張った。
「なるほど、マサキからの伝言は分かった。風呂は許可しよう。私とジュンもすぐに戻る」
「え、ちょ、待って待って、それだけなの?
独断でこんな危ないとこ来て……殿下からもっと厳しく叱ってやってくれないと!」
ジュンに叱責され神妙に俯いていたフウマは、ショウをチラリと盗み見て怒ってないらしいことを察すると途端に元気をとり戻した。
「だいじょうぶです。おれたちそのへんの大人より使えますよ?」
「ははっ、言うようになったじゃないか」
「ほんっと口ばっかり達者になって……」
マセているというか、調子がいいと言うか。
最近ちょっと生意気なんだよな…
肩を落として唸るジュンは、ちびたちの成長ぶりを感じて眉間にシワを寄せていた。
数歩先では真面目くさった顔のケントがお客相手に神酒を次々と注いでいる。
「これはこれは可愛らしい」「お膝においで?」
伸びてくる手もにっこり笑ってあしらって、すっかり一人前の宮仕えの振る舞いだ。ジュンは再び天を仰ぎぐうと唸った。
「まぁ、フウマたちだっていつまでも小さな子どもじゃないんだ。ダイゴも……あいつは特殊だが、似たような仕事をこなしている。
それにこいつらの面倒は女官長に任せてあるからな。無論、許可はとったんだろう?」
「はい。せんにゅう用の服も、おば…おねえさんたちが準備してくれました」
ほらな、と、微笑したショウの顔は誰が見ても最高潮にご機嫌で、ジュンは激しい脱力感に襲われた。
愛しいお妃殿の元に、ようやく会いにいけると思うと顔がにやけて仕方がないのだろう。
わかる。わかるが兄さん、わかり易すぎないか?
「いい作戦だった、よくやったな二人とも。撤退の準備も抜かりはないな?」
「はい!」
ショウに褒められたフウマは余程嬉しいのか鼻の穴を膨らませ、飛び跳ねる代わりにその場でぴこぴこ背伸びをしている。
潜入中につき、喜びの舞も控えめらしい。
「ついでにもうひとつ頼まれ事をしてくれないか? ああ、そんなに大変なことでは……
いや、とても重要なことだ。お前たちにしか出来ないことだからよく聞けよ?」
わざわざ子どもたちが張り切るような言い回しに変えてショウは小声で指令をだす。
耳打ちされたフウマはつぶらな瞳をまん丸にしてこくりこくりと頷くと、人波を縫うようにして相方の元に走っていった。
「……で、なにを命令したの?」
「ん? ”マサキ” の回収と、あとちょっと個人的に頼みたいことがあってな」
「頼みたいことっていうのは?」
「それは言えない」
即答に気分を害したジュンの渋い顔を見て、いたずらっ子みたいにクスクス笑う。
「言ったらジュン、怒るだろ?」
「言われなくても怒ってるけど」
上機嫌な兄ほど美しく、恐ろしいものはない。
全員無事に離宮へ帰れますようにと、なんだか皮肉に感じながらもジュンは頭を垂れて神に祈った。
つづく