監督と打ち合わせをし、作品のビジュアルを元から作っていくポジションの人と、現場と密にコミュニケーションする、作画でいう所の作画監督的なポジションの人です。
今回は前者の、大元を作るポジションのCGディレクターをメインにしたお話です。
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よく雑誌とかのCGディレクターのインタビュー記事で
「監督のこだわりを表現するのに6ヶ月もかかってしまいました」とか
CGディレクターが、いかに監督の要望に応えるための努力が大変だった的な記事が書かれてあると、ああ、現場大変だったんだなあ。。と思うのはみなさんと同じなのですが、
私の場合、まず、現場の混乱のイメージが先に立ち、美談に仕立て上げられてしまう事に違和感を覚えてしまいます。
その時、CGアニメの現場では一体、何が起こっているのか?
終ってしまえば、良い思い出になってしまいがちの現場の苦労を再度、洗い出し、キーパーソンである「CGディレクター」とは一体、何をすべき人間なのか紐解いてみたいと思います。
今回の記事は、「若い現役CGディレクター」向けですが、CGディレクターになりたい、またはその上の監督を目指したい、といった、ちょっと高尚(とかいってみたりする)な目標を持っている人向けです。
★CGアニメはゴールから作る?
質問です。
これから、とあるCGアニメのプロジェクトが始まります。
あなたはCGディレクターという立場で参加することになった。さあ、まず、何をする?
私の答え。
まず、明確なCGビジュアルのゴールを事細かにイメージしてください。モデル、リグ、アニメーション、レンダリング、撮影のことも含めて考え、その工数をイメージし、どこまで実現可能かプランを立ててください。
当たり前じゃん!と感じる人もいれば、いやいやそうじゃない!と感じる人もいるかもしれません。
が、私は、CGアニメをそれなりに長く作ってきて、1つ言えることがあります。
それは「作品の質は、スタートでほぼ全てが決まる」ということです。
途中から超絶上手いCGアニメーターが助っ人で入ってきたとしても、粗悪なCGモデルの前には無力です。撮影も同様です。コンポで持ち上げるのは限度があります。
本当に、恐ろしいまでに非情で、冷酷なまでに例外がなく、「最初でどういうプランを描いたか」で全てが決まってしまうのです。
奇跡の逆転Vなどは、表現の特性上、絶対に起こりえないと思ってください。
そこからが始まりです。
★信じられるのは、先人の経験談ではなく、自分の経験。
とある有名な監督の話ですが、こんな話がありました。
TVアニメを作る時はゴールを決めず、ライブ感覚で作ると、その時にたまたま参加できたスタッフの影響や、コンテにも、そのアニメーターの為にコンテを描き換えたりと波が生まれ、時に大きな力を生み出す。だから面白い。と。
日本のアニメ制作現場には、こうした有名な監督たちが数多く残した「美意識」のDNAの影響が根深くあります。
ですが、CGアニメでは一度忘れてください。
CGアニメにはCGアニメのセオリーがあり、作画に通ずるものもありますが、表現の特性上、絶対的な縛りというのがあります。
どんな有名な監督が、このやり方が俺のやり方で、最高な結果を出すにはこのやり方しかないのだ!
といっても、それは事故の元ですし、監督自身も苦しめかねません。監督でもCGに素人であれば、それは指摘して改善させるべきです。
どんなに尊敬する監督の下でも、経験者として買われたあなたが、出来ないと判断したものは、きっと出来ません。
尊敬する気持ちは時に邪魔をします。
YESマンになることが作品に良いとは限りません。
CGアニメはとかく「パワーをどこに注力するかということ」について神経質になる必要があります。ト書き一行の追加が、一週間の作業ボリュームになるなんてことはいくらでもあります。
それは演出の仕事じゃないの?演出に従うべきじゃないの?っていう意見もあるかもしれません。
ですが、あえて言わせて頂きますと、客が見ているポイントはそんな所じゃありません。
キャラクターの顔です。キャラクターの芝居です。世界観を感じられる背景です。
その点がクリア出来ていないのに、他のどこの部分にこだわる必要があるのでしょうか。
CGディレクターは、監督の要望を最大限応えるべきだと思いますが、同時に、上記の最低限なラインまで侵すような要望に危険を感じたら、全力で戦うべきだと私は思います。
優先すべきは視聴者です。
戦う相手は、もしかしたら監督ではなくプロデューサーなのかもしれませんが
どうか、死力を尽くしたのに成果がこれっぽっち。。。
とならない為にも芯を強く持って、冷静に、そして毅然としていてください。
★キャラクターモデルのルックには徹底的にこだわれ。
CGアニメは、モデルが命です。上にも書きましたが、モデル駄目なら後工程が全て駄目です。ですから、モデラーの人選は作品全体の肝になります。ぜひ気を配りましょう。
人にモデルを依頼する場合、同じ絵からなんでこんなもんが生まれるんだ?っていう位、雲泥の差が生まれます。
とくにセルルックの場合、設定画と同じ場所にパーツがあって、確かに重ねると合うんだけど、設定画と全然印象が違うということがままあります。
そのニュアンスを汲めるモデラーは実に少ないです。
また、あらかじめ設定画も情報が足りているかチェックしましょう。
一枚の絵から3D化するスーパーな人も存在しますが、依頼する側として、クオリティを上げる必要な情報としては、正面、横、斜め、後ろの設定画の他に、追加で表情パターンをどれだけ用意してもらえるかという所に気を配ると尚良しです。表情は多ければ多いほど、モデラーの想像力を膨らませます。
こんな表情させたいなーとモデラーに思ってもらえれば、顔のポリゴンの割り方も変わってくるもんです。
★効率化や、質のばらつきを抑えるには、汎用素材や参照ファイルをどこまで用意するかがポイントになる。
これは、どの程度、工程の理解をしているかというのもありますが、おびただしい程の項目がありますので、ぜひ経験値を上げて気づけるようになりたいものです。
撮影で素材を重ねて表現するのか、CGでやるのか、素材で表現するならレンダリング時間はどんなものになるのか、多いならスクリプトを用意しなければいけないのか。やり方をマニュアルにする必要があるか。
今回は概要だけなので細かくしませんがざっと順不同で羅列してみます。
気になるキーワードがあったら、必要かどうかわかりませんが、拾ってみてください。
レンダリング用スクリプト、選択ツール、汎用モーション、キャラクターの歩き、走りイメージ、服の揺れ、モブの群集シーン、汎用エフェクト(火花、衝撃波、爆発、煙、霧、出現、消滅)、傷テクスチャ、オーラ、涙、血、雨、雪、漫符、レンダリングイメージ(意図がずれないように)ポーズ集、手のポーズ集、表情テンプレ、瞳の潤み、流背、タッチ、フィルタ
私の場合ですが、ここは性悪説に基づいて設計します。「CGアニメーターがきっとやってくれるだろう」っていう期待はしません。
というのも、CGアニメをやるCGアニメーターはまだまだ、アニメがやりたくてアニメをやっている人間が少ないという業界事情があるからです。
踏み込んだカット制作をするのはごくわずかで、そのごくわずかな中でも、レタッチまではやりたがらない人が居たりとか、色々、安定しないのです。
だからこそ、現場には出来るだけ、重要な部分に時間を使ってもらう為、質の底上げの為の仕込みが重要になるわけですね。
要するに、「こんだけテンプレ用意したんだから、楽でしょ?だから芝居もっと頑張ってよ!」って言えるようにしておきたいのです。
★シンプルリグにすべきか、高機能リグにすべきか。
リグの特性をザックリ説明すると
・シンプルリグ・・セットアップが早い、軽い、可動部の幅が大きく表現の幅が広い。自由度が高い反面、作り手が色々、考えたり作ったりする必要がある。
・高機能リグ・・セットアップの時間がかかる。重い。表現の制限が色々出来てしまう。が、一度組んでしまえば、表情パターン、ポーズなど、アニメーション作業が大幅に軽減されクオリティが安定する。
結論から言いますと、高機能リグにしておく方が無難なことが多いです。
が、実際はそこまで用意するにはワークフローや、プログラムの知識を必要とする人間が必要であったりと色々敷居が高いです。
現場の力量が高いメンバーが多かったりする場合は高機能リグが逆に足枷になることもありますので、作品や現場の傾向を見て決めるのがいいです。
TVシリーズのような毎週30分作っていかなきゃいけないリグは多少制限があっても、高機能にする方が、現在の状況では無難だと思います。
何せ、50人以上のCGアニメーターが散らばって作る訳ですから。。
最近は海外も含みますしね。
ただ、逆にOPだけみたいな短尺の作品のリグはなるべくシンプルにし、レスポンスの回数をかけた方がクオリティが上がると思います。
★アニメーションのチェックにどこまで踏み込むか。
よく、リテイク表に、演出とCGディレクターの別の欄を作って、別々にチェックをし、演出が芝居方面、CGディレクターがメリコミなどの細かいチェックをするという事が多いのですが、わたしは、チェック欄はともかく、チェック箇所を分けてしまうのは問題があるのでは?と思っています。
制作進行がメリコミだけのチェックをするというのはいいとは思うのですが、CGディレクターがテクニカルなことだけチェックしていると、意識として自分の仕事の範囲を限定させてしまうからです。
そして、大抵、演出は、途中チェックを漏らすことが多いというのがあります。
というのは、最終絵が見えてこないとチェック出来ない人が多いからです。
慣れている人でもそうです。
例えばですが、2コマで目パチしていたりしたり、揺れ物の動きが硬かったり、タメツメが甘かったり、足が滑っていたりという、ごくごく基本的なことも、プレビューチェックだと、演出は「途中のもの」という認識でリテイクにはせず、スルーします。
が、ほっておくと、次のテイクで、そのままレンダリングされてきたりすることはしばしばあります。
この時、現場はこう考えています。
「とりあえずチェック出して、指摘されたら直そう」
一方、演出はこう考えています。
「動き硬いけど、さすがに言わなくても、途中だし、次のテイクで直ってくるだろ。カッティングまではとりあえずこれでもいいか」
低レベルな話かもしれませんが、現実起こっていることです。
だれのせいなのか?
ではなく、これは、明らかにコミュニケーション不足の事故です。
間違っても、「外注がクソで・・」でとか責任を擦り付けてはいけません。
CGディレクターの仕事は、現場と演出の間に入り込み、共通認識を持たせる必要があります。このケースの場合、現場は現場で、「他の箇所のチェックもして下さい」と言うべきだし演出は「この箇所のみのチェックバックです」と伝えるべきなのですが、そういう
「言わなくても分かってくれるだろう」というのは事故の元です。
今分かっている情報、これから発生しそうだと感じていること、全部ありったけ監督にも演出にも現場にも伝えてください。
とにかく伝える。
芝居が悪いと思ったら「こうしたほうが良い」と監督に伝えてもいいと思うのです。
そうやって演出の目でチェックすることで、養われるものもありますし、途中で気づくことがたくさんあると思うのです。
★最後に
CGディレクターの仕事は撮影にも続くのですが、最初にも書いたとおり、「CGアニメはスタートのプランで全てが決まる」と私は思っているので、この記事においては蛇足になります。
日本の独特なことなのかもしれませんが、「言わなくても分かって欲しい」という、阿吽の呼吸を相手に求める人間や、それをありがたがる人間が多すぎます。
外部発注に対しても、人材育成についてもそうです。
それを「コミュニケーション能力が無い。あいつは駄目だ、やりにくい」として終った後に陰で言う人間が多い気がします。
本当にそれは「言われないとわからない相手」のせいなのでしょうか?
CGディレクターの仕事は、上と下の人の間に入り込んで伝える事です。
伝えるのが仕事です。ある意味、演出以上に、本当に細かくて、解決方法まで含めたやり取りがあります。
良かったら良いと褒めてあげるのも良いでしょう。
まずいと思っているなら、その旨を伝えないと分かりません。
すっと言わないまま、最後の最後に、直ってないので直してくださいってすごく理不尽な話ではないですか?
そうやって、回りの人間をバサバサ切り捨てて、ごく少ない「言わなくても分かる人達」でオーバーワークで間に合わせるみたいなことを続けた結果が、今の疲弊したアニメ、CG業界なのかもしれませんよ。
そして、ちょっと自己弁護も加えておきます。
監督に物申したり、自己判断でどんどん動くことは、私は悪いことだと思いません。
だって、よく考えてみてください。
今、監督をやっているような人種は、皆、人の作品で無茶やって、注目を浴びて監督のポジションについた、言わば、「若い頃やらかしちゃった人達」です。
もし、自分の作品を作りたいって思っている人や、いずれ監督を目指す人は、何が何でも自分の分身を埋め込む位の気概で取り組んだって良いじゃありませんか。
サブカルチャーてそんな自由な人達が生み出すものなんじゃないかな?
って思ったります。