$マイケル・ジャクソンの思想(と私が解釈するもの)著者:安冨歩 明石書店のHPはこちら



以上の議論のあとに、池田氏は、

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「よくわからないから最悪の場合を考えよう」というのは、そこだけを取ればいいように見えるが、そのリスクをなくすために原発をやめたら、火力発電所を増設しなければならない。採掘や大気汚染による死者を考えると、原発より火力のほうが危険だというのが、OECDやWHOを含めて多くの専門家の意見である。

エネルギー問題は、きわめてリスクの大きな世界である。化石燃料のリスクについては、日本は石油危機でこりた。原子力にもリスクはあるが、問題はどっちのリスクが大きく、総合的にみてどっちが経済的なのかという相対評価である。絶対評価で見て原子力が危険であることは自明であり、それは「止めてしまうべきだ」という根拠にはならない。
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などと、性懲りも無く、適当なことを繰り返している。「多くの専門家の意見」といい加減なことを言うなら、私だって、「多くの専門家が原子力は危険だと指摘している」ということができよう。私が判断の基準にしているのは、専門家の数ではなく、その言説の質である。その観点から多くの言説を分析した結果、

原子力を推進する人の言葉遣いは、どこまでもおかしい

という結論を私は出さざるを得なかった。それゆえ私は、原子力への依存を否定する。言葉遣いのおかしい人がどんなに沢山いても、絶対に信用することはできない。


=============池田氏の「反論」===========
私は具体的なデータを出して論じているのだから、それを批判するなら「話法」がどうとかではなく、低線量被曝に明らかなリスクがあり、原子力が他のエネルギーと比べて明らかに危険で不経済だという客観的データを出してほしい。アゴラへの投稿は、いつでも歓迎する。
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こんなことでデータ合戦するのは、馬鹿くさいことであるから、私はやりたくない。池田氏に言われなくとも、私はデータを重視する人間である。嘘だと思うなら、私の博士論文であり、日経賞を受賞した

『「満洲国」の金融』

を見て欲しいものだ。この本は本文編と図表編とにわかれていて、図表だけで150頁くらいある。それらの大半は、私が歴史資料から集め、ひとつひとつ吟味して作った表だ。

その元になった論文の一つのPDFが以下に出ている。これを見れば私がどのくらいしつこくデータを集めて解析する人間かおわかり頂けるはずだ。

http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/48363/1/69_69.pdf

これは私の修士論文だ。このくらいデータにうるさい上に、私は複雑系科学という物理学の分野で十年くらい仕事をしたので、データの扱い方を色々勉強した。その結果知ったことは、

経済学や医学のデータの扱いは、無茶苦茶だ!!

ということである。物理学者の感覚からすれば、全然、信頼するに足りない。何よりも、意味のあることを取り出すには、データの数が足りなさすぎる。それ以上に、データと称するものの質が悪すぎるのである。

それゆえ私は、社会現象や生物現象で、

データをむやみに信じるのは非科学的

であり、それよりも、こういう複雑な現象については、

発言する人の言葉遣いを良く調べて解析し、その誠実さを確認した方が、遥かに科学的

だと結論したのである。『原発危機と「東大話法」』は、そのための科学的研究である。

本書で私は、池田信夫氏のブログの記事は、

東大話法研究の第一級の資料

である、と書いた。この反論も、重要な資料となろうと期待して分析させていただいた。

しかし、確かに、もんじゅ君の言うとおり、この反論は不調のようで精細を欠いており、いつもの切れ味が感じられない。それゆえ東大話法規則が、一つしか増えなかった。もし、私の本や記事が、多少とも効いて、池田氏の筆が鈍っているのであれば、望外の喜びである。

私は、池田氏が、ブログという手段によって、徒手空拳でこれだけの影響力を構築されたことに、敬服している。如何に「炎上商法」とはいえ、読者を集めるのは大変なことである。これはまさに池田氏のイノベーションであった。しかし、本にも書いたが、現段階ではあまりにも欺瞞的であり、世の中に害毒を流すことになっている。それは、池田氏の本望ではないと私は信ずる。

あるいは、東大話法でなければ、ここまでの影響力を構築できなかったのかもしれない。しかし、既に成功したのであるから、そのようなものを駆使して、ろくに読んでもいない本や論文を、適当にコメントしたりなどする必要はもうないはずである。もはやこのような欺瞞話法と決別されては如何か。

池田氏が、東大話法と決別してくださったら、私はいつでもアゴラに参加させて頂きたい、と思っている。本当である。

(了)