【問題】
カブトムシにあげても食べないものは何?


①ラーメン。

②焼き豚。

③オレには可愛い彼女がいた。性格はとても素直でスタイルもいい。だが周囲からは「え、あの女とつき合ってるの? ガハハ、ご愁傷さま~」と言われ、よく馬鹿にされたもんだ。

 彼女は頭が非常に弱かったのだ。高校の授業へはついて行けず中退し、通信制の学校を4年かけてやっと卒業。一般の企業では雇ってもらえず、決まった製品加工を繰り返すライン作業で働いてなんとか生活していた。いまにして思えば、たぶん軽い知的障害があったんだろう。
 それもあってか中学時代から人にはよく騙されていたらしい。悪い男にとっては都合のよい女で、風俗で働かされていたこともあったと聞く。
 彼女と知り合ったのは悪い知人からの紹介がきっかけだった。そいつと彼女のあいだに何があったのかは知らないが、どうやらもし面倒なことが起こればオレに責任を押しつけてやろうという目論見があってのことだったようだ。
 つき合って半年くらいは仲よく過ごした。彼女はオバケ屋敷を怖がっては泣き、ドラえもんの映画でも感動して泣く。リアクションが素直すぎるというか、ベタなくらいわかりやすい。でも当時はそれも可愛らしいと感じていた。そうそう、オレの作った麻婆豆腐が美味しいってビックリしてたっけ。あのときの目を丸くした顔は可笑しかったよ。それからの2ヵ月くらいは彼女が遊びに来るたび、麻婆豆腐を作ってやったっけ。そのころだな、いちばん楽しかったのは。仲がよかったのは。
 ところがそのあとから急速に、オレは冷めていく。やはり彼女といるのが苦痛になっていった。恥ずかしくなってきた。オレが世間体を気にするようになったのだ。それでも彼女はオレに甘えたり気を引こうとしていたが、それらすべてがウザく感じるようになっていった。大学での単位取得が思うようにいかないことでイライラしていたオレは、彼女へ冷たくするようになってゆく。
 ある日のこと。発熱で寝込んだオレの家へ彼女が来ることになった。嫌な予感はしていたが、それは的中する。コップを割る、洗剤は入れすぎる、1時間しか干さずまだ乾いてない洗濯物をタンスにしまう、お粥は火を通しすぎてすっかり蒸発してしまう・・・。はてはオレが何年もかけて完成させたボトルシップをぶっ壊したことだ。棚を掃除しようとして落っことしてしまったらしい。当然、オレは逆上した。
「もう、なんてことしてくれたんだよ! ●ね! とっとと帰れ!」
 彼女を突き飛ばした。
「ごめんね、ごめんね・・・」
 彼女は泣きながら玄関に消えていった。怒りのおさまらないオレは彼女との連絡を絶った。何度か電話が鳴ったが、徹底して無視。もう口も利きたくない、顔も見たくない。
 それから1週間後。秋風が心地よい日の夕方、彼女が交通事故に遭った。
 連絡を受けて病院へ直行。病室へ入ると、オレを見た医者が小さな声で訊いてきた。
「ご家族の方ですか?」
 ゆっくりと首を横に振るオレ。
「お友だち? よかった、家族の方と連絡がとれなくて困ってたんです」
 そう話して医者は、彼女の酸素マスクを取って部屋を出て行った。去り際にひと言残して。
「手を尽くしましたが、今夜が最期です」
 どれだけ時間が経っただろう。深夜になり、ようやく彼女が目を覚ました。崩れてゼリー状になった目から、血が混じった涙がこぼれた。
「ヒロくん・・・」
 彼女はオレの手を握った。もう握るというほどの力もなかったが。
「ヒロくんのこと考えてたらね‥‥‥私、信号を見てなくてね・・・」
 彼女の息が荒くなってゆく。
「ヒロくんの家、また行っていい? 仲直りしたい・・・」
「いつでも来いよ。元気になったらな」
 彼女はニコっと笑った。
「・・・ヒロくん・・・ごめんね・・・私・・・なんにもできなくて・・・」
「いいんだよ、オレが料理も掃除も洗濯もおしえてやる!」
「お料理・・・ヒロくんの麻婆豆腐、すごく美味しいもんね・・・麻婆豆腐の作り方、おしえてね・・・」
「ははっ、いいとも。だけどあれは丸美屋の麻婆豆腐だから、誰が作っても美味いんだよ。でもその前にケガ治すんだぞ。な? な・・・おい・・・・・・おい!」
 彼女はもう息をしていなかった。その後のことは、よく憶えていない。ただ、医者と看護士が慌ただしく入ってきて死亡判断(?)みたいなことをやっているのを、オレは呆然と眺めていたのだった。
 気づいたときには彼女は棺桶のなかにいた。ノロノロと病院にやって来た彼女の家族は、みんな冷めた表情だった。葬式も告別式も、すべてが事務的。悲しんでる人はいない。それどころか、いかにも面倒くさいといわんばかりの態度のやつもいたように思う。いかに彼女が家族から愛されていなかったかが、わかりすぎるくらい伝わってくる。
 後日、家族の人に頼まれて彼女の家を整理しに行った。古い木造アパートで、部屋も狭かった。相当、質素な生活をしていたのだろう。
 ふと見ると机に日記帳があったので開けてみた。下手な文字でオレとの出来事が書き込まれていた。日付が事故の前日で止まっている。
 涙が止まらなかった。
「ヒロくんの大せつなびんのふね、ネットでしらべてかってみた。でもわたしには組みたてるのとってもむずかしい。だけどできたらヒロくんのいえにゆこう。がんばる。おかゆもそうじもれん習したよ。ヒロくんはゆるしてくれるかな」
 いま、彼女の墓は小平市にある。
 あれから2年。キッチンで晩飯を作っている社会人のオレがいる。作りかけだったボトルシップはオレが引き継ぐことにした。だけど手をつけられず、そのままの状態で棚に飾ってある。・・・おっと、またやっちまったぜ。オレひとりでは食いきれねえのにな、こんなの。
 いつものクセで作りすぎてしまう麻婆豆腐。

さて、何番?