この店、長いですよねぇ。いつからやってるんですか? ・・・というのもですね、私、●十年前にこの町へ来たんです。■丁目なんですけどね。広島の福山から赤帽の助手席へ乗っけてもらって。
 引っ越しのときは夜になってから荷物を積み始めたので、赤帽のおじさんが「こんな時間にやってると、夜逃げしよるみたいじゃね」って笑ってたっけ。
 そこから夜通し、おじさんの話を聞きながら東京めざして走らせたのですよ。引っ越しの日は昼間、私はやることがあったから疲れて眠かったんだけど、おじさんは話好きだったから少しアレでしたが、でもいい人だったんでよかったんです。途中、私があまりにもトイレへ行かないので心配もされました。
 それまでに住んだ町は呉と福山で広島から出たことはありません。だけど当時は旅好きでしたので、青春18きっぷを使って北海道までをよく往復していましたよ。でも静岡県を通過するときはいつも夜間だったから、あんまり富士山を見たことはなかったんです。それがこの日は明るい時間帯、それも快晴だったのでバッチリきれいな富士山を目の当たりにできたんです。
 それが東京へ近づくころ、おじさんがその方面の空を見てみろと指摘してくるんです。黒いんです。空気の悪さがハッキリとわかる色をしていました。そこへ私は突入しようとしている。
 日の暮れたころ、引っ越し先のこの町へたどり着きました。さっそく荷物を部屋へ。私の荷物は多い。クルマへはギリギリまで積んだものの、扇風機など一部のものは残してきた。同居人がいたので、それらはあとで送ってもらえばいいと思いました。
 ひととおり荷物を部屋へぶち込んでから、おじさんのおごりで何か食べに行こうということになりました。近所の商店街を歩き、適当に選んで入った店がここのラーメン屋です。食べ終わって店から出た瞬間、おじさんがこう言いました。
「この店のラーメン、美味しいね」
 年がら年じゅう、北海道から九州までを飛び回ってるおじさんは当然、各所の名物を食べまくってることだろうと思われます。当然、舌も肥えてるはず。そのおじさんが「美味い」と言うのです。これは相当、レベルの高い店なのだろうと窺えました。それがここの店なんですよ。
 あれが●十年前の12月・・・あれっ、今日は21日だっけ? すると今日はピッタリ●十年目なのかも!

 

 

 ――日ごろめったに外食する習慣のない私が、珍しく外食を。それも近所のラーメン屋。たまに外食するとしても定食とか丼モノなどの、ごはん系にしか興味を示さない私がラーメン屋へ入るのは、本当に本当に珍しいことなのです。ラーメン
 このラーメン屋の前は日常的に行き来していますが、あの日以来は入る機会のないまま現在に至ってしまいました。ただ10年ほど前、早朝にこの前を通りすぎようとしてると、おそらく酔っ払いと思しきオッサンが店の前で土下座しているのを見かけたことがあります。それを店主は「店の前でそんなことされてたら、怖いでしょ」と、静かに、諭すような口調で対応していたっけ。あれは何だったんだろ? でも長く店やってるわりに店主が若いお兄さんぽく見えたことに驚きを覚えたのが印象的でした。店主ではなく新米の若手スタッフさんだったのだろうか?
 それから月日は流れ。赤帽のおじさんが絶賛していた味を、もういっぺん確かめたいとは思いつつも、きっかけをつかめないままにしていた。でも●十年目を記念して、いざ敢行。
 冒頭に書いたものは、店主と会話ができたなら、こんなかんじになるんじゃないかと想定した脳内シナリオです。では実際にはどうなったのか、報告いたしましょう。

 

一度食べに行きたいお店

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 店主と会話したかったので、なるべく客の少ないであろう開店時間直後を狙って突撃いたします。
 入口を開けると、いきなり準備中だったと思われる店主が目の前に立っていました。あれっ、むかし酔っ払いを対応していた人だと思うけど・・・するとあのときのは若手じゃなくて店主でよかったのか。10年ぶりくらいに見るけど、すっかり白髪になってて老けて見える。

チアーさん「この店、長いですよねぇ」
店主「何かありましたでしょうか?」
「いつからやってるんですか?」
「11年前ですかね」
「えっ! もっと前からありませんでしたっけ?」
「ボクが来てからはそれくらいで」
「前もラーメン屋じゃなかったですか?」
「さあ・・・。前のことは知らないです」

 瞬殺。轟沈されました。 (_△_;ガァーーーン!!
 そういえば前までは隣に位置してたような気もする。だがもうそこはラーメン屋ではない。ここの前の道は日常的に行き来してるというのに、その変化に私は気づかなかったってことか。多少は変わったとしても単なる模様替えをしたくらいにしか感じてなかったのだろう。みなさん、街は、商店街は、ちょっとずつ変わっていきます。なんてことのない景色も突然消え去り、なんてことないと思っていた景色は長い年月を経て、かけがえのない景色だったことを思い知るのです。

 

 

 とりあえず私は、塩とんこつラーメンを食べることにした。食べログなどでは評判上々なこの店。ただ店主は無口なタイプらしく、ちょっと話しかけづらい。しかも私をクレーマーと思ったのか、どこか怯えている様子にも見える。なんか申しわけない気分になってきました(苦笑)。ラーメン

 

時の流れの早さを感じた事

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 はじめてのラーメン店レビューなんですが、ショックでラーメンの味どころではなくなった。よって評価は「γ判定=不能」です。