「…で、どうなったの。」

事情を知らないスタッフ達は、振り回された2人の話に興味津々であった。


「…金の入った封筒握り締めて、俺達の腕掴んだら物凄い勢いで近くのスーパーに駆け込んだ。」

「「「「へぇ!?」」」」

「3人でカゴ2コずつ載せたカート押して、米やら食材やら割り箸、パックに仕分け用の小さい紙のカップまで買い込んで、猛烈な勢いで戻って来た。」

そのセツカの行動だけで既に全員目が点。

「助監督に連絡貰って場所を確保した撮影所の厨房と道具借りて、物凄い勢いで料理始めたよ。」

「…で、お前らどうしたのさ。」

「もちろん手伝い。
パック並べて、箸も輪ゴム用意して、ジャガ芋洗ったり人参洗ったり玉葱剥いたり…。」

「何だよ、そんな事しかしてないのかよ。」

「…お前ら見てないからそんな言い方するけどなぁ、あのセツカちゃんの動き見てて他に出来る事無かったんだよ!」

「厨房の中にいた人達が呆れてたもんな。
…で、できたものからパックに詰めるのも俺達。
圧力鍋っていうのか?
あれ使ってご飯炊いたり煮物したり…。あっという間だったよ。
詰めるのが追い付かなくなる勢いで、結局、買い物往復15分、料理の時間40分で40人前仕上げたんだ。」

もはや居酒屋に集ったスタッフ達の口は開きっぱなし。
つまみを掴んだ箸からぽろりと零れ落ちた事も気付かない。
ようやく解凍できたものからぽつりぽつりと裏側のこぼれ話が出て来た。


「そういう事情じゃあ仕方がなかったよなぁ。
だけどさ、30分延びた分だけこっちの撮影はきつかった~!
なによりあのカイン・ヒールだよ!
出番のない時はいつも一緒にいるセツカちゃんが、スタッフとはいえ男2人と手を繋いで出掛けてくところを目撃してたから、尚更機嫌が悪くって!
いやマジで声掛けるの嫌だったよ!」

「…あ~。
それで後からセツカちゃんがなだめてたんだ。
あいつが弁当持って戻って来たセツカちゃん見た時の顔!
見たか!?
あの魔物みたいな顔が一瞬で、おいてきぼり喰らって淋しくて堪らなかった仔犬みたいなツラになったんだぞ!?
しかもなだめられてる時のツラがまた、嬉しそうに崩れてて!
マジあの魔犬に耳と尻尾が見えた気がするよ。
セツカちゃんがいると全力で尻尾振りまくり。」

「結局…今の現場で最強なのはセツカちゃんって事だよな。
あの魔犬の尻尾を支配してるんだからさ。」

はぁ~。
誰がともなく、ただため息を漏らす若手スタッフ一同であった…。