「ねぇ最上さん。
俺に好きな人がいると言ったのは…誰?」


俺の言葉に、最上さんの身体がびくり、と跳ね上がる。

そうしていきなり座り直すと、さっと頭を下げた。

…いわゆる“土下座”だ。


「…っ、すみません!
私、ずっと隠し事してました!
あの鶏…私なんです…っ。」


…俺は…おそらく文字通り、目が点になっていただろう。

あの鶏の彼は…今目の前にいるこの愛しい娘!?

たちまち盛大なため息が出る。


「…参ったなぁ。
…よりによって好きな娘相手に本人を落とす相談してたとは…。」


「…ふぇ…?
あ、あの…。
それって…やだぁ。」

顔を真っ赤にして慌てる仕種がまた可愛い。


「嫌だって言われても逃がすつもりないから。
…俺の目指す世界を一緒に見てくれるんだろう?」


彼女が不破に向かって言った言葉をそのまま告げると、彼女の頬の赤みが一気に引け、目が驚愕に見開かれた。


「…なっ!?」


「今日、テレビ局で会う少し前。
 たまたま見かけたんだ。
 不破の存在を切り捨ててる君を…。
だからこそ…今度は俺だけを見て、俺と一緒に同じ世界を生きて欲しい。
そのためにも先ずは俺と恋人同士になって?
……あのさ…俺ばかりじゃなく、君の言葉も聞きたいんだけど…。
…最上さん?」


俯いてしまったキョーコの顔を覗き込むと、キョーコの身体はぐらりと傾く。

慌てて支えるとどうもテンパってしまったか頭に血が行かないか行き過ぎたかで、意識が飛んだらしい。

受け止めたキョーコの身体は小さくて柔らかくて…いい匂いがした。



…どのくらいそうしていただろうか。

腕の中の最上さんが身じろぎした。


「…気がついた?」


怖がらせないように気をつけながら、小さめの声で話し掛ける。

最上さんは幾分落ち着いたのか、大きな目をぱちぱちさせた後、俺の腕の中から抜け出そうとしていた。


「…っ、す、すみません。」


まだ頬は赤いままだ。


「そんなに慌てて逃げなくてもいいだろう…?」


「いっ、いけませんっ!
敦賀さんの腕の中って、すごく落ち着くんです。
恐るべし、敦賀セラピー!なのです!
ずぅっと抱きしめられていたいなんて思っちゃう…!
はぅっ…!?
わ、わ、わ、私何を正直に言っちゃってるのか!」


わたわたしながら最上さんは更に墓穴を掘っていく。


「…ん、正直に言ってくれて嬉しいよ。
君は好きでもない男に抱きしめられて安心するような女の子じゃないだろう?
身体は正直に反応するね。」


「破廉恥な言い方しないで下さいぃ~!」


抜け出しそこねてじたばたしている彼女の顔は、恥じらう乙女そのもので俺の理性の紐が切れそうだ。

こんなにすぐに手を出したら、折角手に入れかけた彼女の心を逃しかねないな…。

俺はそっと腕の力を緩め、最上さんを解放した。


「…今の君の言葉が、俺への答え…でいいんだよね。」


最上さんは、普段の見事な発声はどこに行ったのか、俯いたままぼそぼそとした小さな声で呟いた。


「…あの…ホントに…私なんかでいいんです…か?」


その言葉に俺は真正面に正座で座り直し、最上さんのきつく握られた両手を自分の手で包み込んだ。


「俺の大切な君を、君自身が“なんか”なんて卑下しないでくれ。
俺は君がいい。
と言うより君じゃなきゃ駄目なんだよ。
俺には勿体ないくらいの君だけど…俺の恋人になって?」


俺の言葉に、最上さんはぱっと顔を上げ、ふるふると首を振った。


「そ、そんな…。
勿体ないだなんて。」

「事実だよ。
料理上手で器用で可愛くて…。
気が利いて優しくて真っ直ぐで。
君に群がる馬の骨を撃退するのに、俺、随分苦労したんだからね。
いい加減俺に落ちて。」


「…はい、こちらこそ…よろしくお願いします。」


彼女は俺が包み込んだ両手をくるりと上に向きを変えて、俺の両手を握り返して嬉しそうに笑った。

…が、頭の中で俺の言葉を反芻したらしい彼女は、首を傾げて俺に聞き返して来た。


「あ、あのぉ…。
私に群がる馬の骨って…そんな物好きな人いました?」


その質問に猛烈に脱力した俺は、繋いだ手の上に突っ伏した。


「え!?
つ、敦賀さん?
どうかなさいましたか?」


再びわたわたし始めた彼女の手にキスをすると、俺は彼女を引き寄せ、始めの一歩を踏み出したのだった。


「蓮だよ。
今はまだ駄目だけど、いずれ俺の事、全部教えてあげる。
それまでは“蓮”って俺の事を呼んでね。
よろしく、俺の大切な…キョーコ。」





-END-









はい、書き足しました!
そして完結しました!
ご満足頂ける結末になりましたでしょうか。


…もうお一方、リクエストがありますが、も少し捏ねくり回してから書こうと思います。


m(__)m