「…状況は解った。
だがなぁ蓮よ、俺の予想が正しいなら、お前相っ当~に情けないぞ?」


煙草をふかしていたローリィは、灰皿に灰を落としながら呆れた様に蓮に視線を向けた。


「…何とでも仰って下さい。
散々足掻いて藻掻いてそれでも今の状態なんです…。
もう形振り構ってられないんですよ!!
でなきゃ社長に泣き付いたりしません!!
時間無いんですから!!
  助けて下さいよ!!」


余りに情けない蓮の姿に呆気にとられた面々は、どういう事なのか改めて問い質した。


「…あの…一体どういう事なんでしょうか。」


恐る恐る椹が質問すると、状況の解っている奏江がため息を一つこぼして説明した。


「…椹主任や松島主任はご存知なかったでしょうけど、敦賀さんは前々からキョーコに好意を持ってまして、散々アプローチしてたんですよ。
私が知ってる限りでも遠回しからストレートな物まであれやこれや手を変え品を変え…。
そりゃもう呆れ返る程です。
私が言うのもなんですが、あの子の恋愛拒否は半端無いですから、敦賀さんがどれだけアタックしても暖簾に腕押し、糠に釘。
しかも自分は色気も可愛さも無いなんて曲解してますから、まさに恋愛に関しては究極の強敵なんです。
この状況から察するに…私達も巻き込んで何かしたいんでしょう?
敦賀さん。」


「…琴南さん、そのくらいにしてやって?
蓮の奴、凹み過ぎてブラックホール作っちゃってるから。
  実際問題、外濠埋めて荒療治というか外科手術的にやらないとキョーコちゃんの恋愛拒否症は改善しないと思うよ、俺は。
彼女、ラブミー部に骨を埋めかねないもん。」


社の言葉に確かに、と奏江も思えた。


映し出された映像には、それはもう素のキョーコしか映っていなかったから。


何事にも一生懸命に真面目に取り組み、ホームステイ先でもステイファミリーの一員として細やかに気遣い、料理の腕もセミプロ並み。

馬鹿な幼なじみのせいで自分が色気も可愛さも無いなんてとんでもない勘違いしている親友は、確かに美人ではないかもしれないが、不意に見せる愁いを帯びた表情や上目遣いに潤んだ大きな目で見詰められたら同性の自分でも目を惹く娘なのだ。


制作会社も事情説明のために字幕を付けざるを得なかったのだろう。


放送出来なくなった経緯がよ~く分かる内容だった。



〈キョーコ、君が居なかった今までがどんなに味気無いものだったのか、分かってくれるかい?
君が来てくれてからのこの毎日がどれ程の至福の時間であったか!!
そして君が去ってしまう今日という日が永遠に来ない事を願わずにはいられなかったこの気持ちが!!
お願いだ、キョーコ!!
このまま此処に居て僕の妻に…!!〉


〈何寝惚けた言ってやがる!!
キョーコを嫁さんにするのは俺だ!!
邪魔者はすっこんでやがれ!!〉


〈可愛いキョーコ。
君となら幸せな家庭が築けるよ!!
僕のお嫁さんになってくれ、絶対幸せにするからっ!!〉



…そんな熱烈なプロポーズを世話になった村の適齢期な男たち十数人を含め、その男たちの家族総勢五十人以上からも贈られながら、言葉が通じていなかったキョーコは通訳の話を聞いて首を傾げていた。


「皆さんに良くしていただいて、いい勉強になりましたし、本当に楽しかったです。
私のような者がそこまで言って頂けるなんて、冗談でも嬉しいです。
皆さんとお別れするのは寂しいですけど、此処での体験を胸にまた頑張って行きたいです。
本当にお世話になりました。」


綺麗さっぱり見事なスルー。


通訳も困惑した顔で村の住人たちにキョーコの言葉をそのまま告げるが、それがきっかけになって『キョーコの気持ちを掴むのは自分だ!!』と取っ組み合いの喧嘩に発展してしまったのだった。



…まさに天然小悪魔。

慌てて止めに入ったスタッフがバリケードになり、キョーコは感動的お別れどころでなく、逃げるように村を後にせざるを得なかったのだった。



…これを他にも二ヵ所で繰り広げて来たのかと、その映像を見た全員がため息を吐いたのは仕方のない事だった。