ジャコメッティ1体100億円から考えること | 『美術商の鑑定日記』

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先日、米ニューヨークのサザビーズオークションで、スイス出身の芸術家アルベルト・ジャコメッティのブロンズ彫刻「Chariot」が1億100万ドル(約115億円で落札された。落札者については明らかにされていない。同日のオークションでは、落札総額でサザビースの過去最高を記録している。



なお2010年に開催したオークションで落札された「歩く男1億430万ドル(約119億円)に続く、100億円超えである。

中国美術の活況については色々触れてきていて、以前このブログでも37億円のチキンカップの話(
http://ameblo.jp/art-hongou/entry-11899489490.html )もしたが、単体での価格は依然として欧米強しである。

こうした高値更新記録の背景には、ヘッジファンドや超富裕層の存在があるだろう。NYダウの株価はリーマンション回復後からは年単位で見ればずっと上昇している。元々評価が低すぎると言われた日本株もアベノミックス効果で上昇し、しかも円安となれば、ヘッジファンドは二重に儲かるわけだ。




また美術館を巡る事情も日本と欧米では違う。日本を代表する東京国立近代美術館の運営費は90%以上が国の補助つまり税金で運営されている。
一方でニューヨーク近代美術館は、入場料・作品貸出料・企業協賛で成り立っている。つまり売上とスポンサーによる運営だ。


このスポンサーは企業のトップたちなどの超富裕層であり、理事として参加し運営方法や作品購入の決定権も握っている。オークションの相場が上がれば、購入予算も上がる、貸出料や保険料も上がる。超富裕層の資産価値も上がるわけだ。




一方で日本の美術館・博物館を考えたときにこんな記事があった。「重要文化財にカビ 財政難で空調費用も捻出できず」

(『朝日新聞』http://www.asahi.com/articles/ASGCB4SVBGCBULOB025.html という見出し。


こういった苦しい事情はどの美術館にも起こりうる。

バブル期に1県に1美術館というのが当たり前の風潮になり、東京都は23区それぞれに区立美術館として建てられた。
しかし当時、多額の建築費と作品購入費が充てられたのに、今や空調管理する予算すらないといった状況だ。
成金が威勢よく美術品を集めて建物を建ててしまったが、今は貧乏暮らししているのにこの建物どうしようといった状況でもある。



この二つのケースは極端な話かもしれないし、欧米もどこも上手くいっているわけではないと思う。
しかし超富裕層が支えて発展を続ける欧米の美術館と、中間層のお荷物となり衰退を続ける日本の美術館の事情が垣間見える。
同時にそれが価格が上昇し続ける欧米の一流品に対して、価格が下降し続ける日本の一流品の違いにも見える。

日本の美術館を支える行政などの構造的な改革は必要だが、日本として誇るべき美術品は一体何なのか問い直される時期に来ているのだろう。