【158億円】伝説のコレクター・史上最大級の競売 | 『美術商の鑑定日記』

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東洋美術の伝説的ディーラーで収集家だった米国人、ロバート・ハットフィールド・エルズワース氏が昨年8月に世を去った。


彼は、自宅に飾っていた膨大な美術品や調度品を競売にかけるよう遺言で表明。底値を設定せず、どんな価格でも売り切るよう指示した。その数、約2000点。東洋美術の個人コレクションとしては、競売史上最大級だ。





ニューヨークで5日間にわたり6つの特別オークションが行われ、落札総額は、予想の3500万ドル(約42億円)を大幅に上回る、1億3170万ドル(約158億円)を記録。


オークションで最高値がついたのは、明代の黄花梨蹄鉄(ていてつ)椅子(馬蹄型(ばていがた)アームチェア)4脚1式で、約969万ドル(約11億6200万円)と予想の約9倍に高騰。


他にも13世紀ネパールの観世音菩薩像、チベット仏教のヨギ(ヨガの聖者)像(11~12世紀、ブロンズ)などが人気を集め、いずれもアジアの個人や美術商が落札。






4歳から中国の切手収集に夢中になったエルズワース氏は、次第に東洋美術の鑑識眼を磨き、弱冠19歳でカナダ・モントリオール美術館に中国の鼻煙壺を売るなどディーラーとしての才能ものぞかせた話は有名だ。


主要美術館やコレクターと取引し“明朝美術の帝王”と呼ばれる一方、近代中国絵画(19世紀~20世紀初頭)の再評価を行うなど、研究者としても実績を残した。




また1992年ニューヨーククリスティーズのオークションに出品された李啓巌旧蔵の碑版法帖のうち南宋拓石鼓文、明拓天發神識碑、宋拓黄庭経、宋拓懐素千字文(群玉堂帖)等の名品がエルズワース氏によって落札された。


そしてこれらの落札品は1996年8月に中国文物出版社から「エルズワース善本碑帖コレクション選」として出版、ほぼ同時期に作品は北京故宮博物院で展観され、その後上海博物館への売却に繋がっていく。