東大の壁画処分問題 | 『美術商の鑑定日記』

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「東大で名画を廃棄?」のニュース。

 

そのニュースは突然のテレビ局からの電話取材で知った。

 

しかもネット上では結構な物議を醸し出しているという。

https://www.daily.co.jp/society/life/2018/04/27/0011203945.shtml

 

 

5年ほど前に東大食堂の絵について書いたときには、

まさかこのようなニュースになるとは想像がつかなかった。

https://ameblo.jp/art-hongou/entry-11716447890.html

 

 

食堂のリニューアルに伴い宇佐美圭司の絵画を処分してしまったとのことだ。

リニューアルしていることは知っていたが、

絵については全く頭になかった。

 

 

ネット上では様々な声があるようだが、必ずしも断罪する意見だけではない。

「名前も聞いたこと無いしやむを得なし」とか、

「お金も出さないのにもったいないとは筋違い」とか。

前者は知名度、後者は市場性についてということで考えてみたい。

 

まず知名度については、

宇佐美圭司は、市場評価としては決して高いとは言えない。

 

ただ美術評価として低いわけではないし、

個人的には市場評価が低く過ぎるなと思う作家である。

一般的には知られていなくても不思議ではない作家でもある。

 

また市場性については、

現状決して高くはなく、加えてこの壁画については難しい問題がある。

 

絵が大きすぎて売り先(引き取り手)がない。(4m四方)

 

 

 

このケースは現代美術に限らず、日本の社会問題を端的に表している。

 

1970年〜80年代、バブル景気絶頂期の頃、絵画に限らず陶芸作品など 美術品は大きい物、高い物から売れていった。

 

金余りの中、節税と値上がり目的も相乗し、企業は保養施設・美術館設立(当時は皆、メセナ活動と言っていた)、

個人は大豪邸・別荘建設など大きい物、巨大な作品の需要が急激に広まった。

 

しかしバブルがはじけると、土地や株式より先に皆、美術品から換金処分に走った。

 

当然、美術市場には巨大作品の売り物が溢れてくるが、コレクションテーマ、サイズ感等が合う 買い手 が現れることは稀である。

 

だから買い手が なかなか現れない。

 

この様な流れが大作・巨大な作品が日本では評価が低くなる理由と思われる。

 

このケースに限らず、近年、物があまりにも大きすぎて処分の仕様のないという相談が日本中から来る。

 

絵画であれば1メートルを超えていくと、よほどの名品や人気作家でないと市場評価はゼロに近づいてしまう。

 

もったいない。。。確かにもったいない。

 

しかしこの4mを超える絵画、輸送だけでも数十万のコストが掛かるだろう。

 

保管なり換金するまでの期間のことを考えると金銭的にも容易ではない。

 

この様な問題についての答えがあるわけではない。

 

そうなると処分する過程がどうであったかになると思う。

 

もし当社が相談を受けていたらどうだったらだろうか。。