これは、なに ?
それは、ラブミー部の部室から出た時のこと。
まったくと言っていいほど日常通りの一コマ。
そのはず だったのに。
これは
なに・・・・・・・?
一瞬、とても驚いた顔をしたその人は、にこりと微笑んでこちらへと近づいてくる。
Boy Meets a Girl?
「やあ・・・ 今から、仕事?」
柔らかな声が降る。
すらりと伸びた長い脚・・・
ズボンのポケットに半分入れられた右手、
繊細でいながら、しっかりと鍛えられたしなやかな肉付きの腕。
いつもと同じ、落ち着いた声。耳に心地よいその低さ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いつも通りの声。
「・・・・・最上さん?」
「どうしたの・・・ いつも元気な最上さんらしくないね」
敦賀さん。
同じ事務所の、いつもお世話になっている先輩俳優。
そして、目下ひたすら目標としている対象。
でも、決定的に違った。
この人は、誰?
そこに佇み、心配げにのぞき込んでくる優しい視線の持ち主は、
その髪の色が今日は 金色 だった。
『キョーコちゃん』
聞こえないはずの声が聞こえるような気がした。
切なくて、なつかしい思い出の彼と重なる。
瞳の色が違う。髪の色も、金髪とは言っても『彼』とは違う。『彼』の髪はもっと淡い透けるような金だった。
今目の前にいるこの人の髪は茶色混じりの金髪。瞳は『彼』と違い日本人によくある茶色をしている。
でも、思い出してしまう・・・。
コーン・・・・・
「最~上さん」
「ふぇっっ はっっはいぃっっ!!!!!!!!!」
「今日はどうしたの?具合でも?」
「いっ、ぃぃぃぃぃいぃえ!!! ななななんでもございませんんっっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・とてもそうはみえないけど・・・・」
先輩 敦賀 蓮 が、不審げな顔で見つめてくる。
曰く、『何か俺に言えないことでも?』と。
口で言わずに、何か超常的な圧力でもって語りかけてくる。
「すみません。・・・敦賀さん・・・・・の、印象がだいぶ違ったので、びっくりしてました・・・。」
「印象?・・・ああ、もしかしてこの髪?」
こくりと頷く。
「そうか。あんまり染めることもないからびっくりするよね。次のドラマの役柄が金髪に近い茶髪の役なんだけど・・・・おかしいかな?」
「いえ!全然、まったくおかしいところなんて塵ひと粒ほども存在しません!!! むしろ目の毒なほど完璧です!!!!」
「それ・・・・・・・・・褒めてもらってるのかな」
「敦賀さんの・・・金髪を見たら、ある人を思い出しちゃって・・・・・」
目の毒発言に対する抗議の声が聞こえなかったキョーコは、そのまま続ける。
「彼も・・・・・コーンも・・・・・金髪だったから」
色はかなり違うけど。
「あの、石をくれたコーン?」
「はい。彼も金髪だったんです。・・・でもっ、今の敦賀さんの髪とはもちろん違う色ですし、お気になさらないでくださいっ。何を言ってるんでしょうね、私っ!すみません、お忙しいのに敦賀さんのお時間を取ってしまって!ご用事ありましたよね、きっと。さっどうぞどうぞ!」
いそいそと、通路をあけるキョーコ。
「いや?今日は顔合わせだけだったから2、3時間は暇なんだ。最上さんは?忙しい?」
「え?い・・・え・・・ 今日は荷物を取りに来ただけなので・・・」
「そう。なら、外のベンチでコーヒーでも飲まない?外、いい天気だろう」
「はぁ・・・まあ・・・私めでよろしければ・・・・・」
「そう?ありがとう。暇つぶしにつきあわせちゃうみたいで悪いね」
そうして敦賀 連はブラック無糖、キョーコは砂糖増量の”牧場の取れたて牛乳たっぷり!モーモーミルク珈琲”を手にして局内にある芝生の広場へと向かって歩いた。
「最上さん。コーン・・・だっけ?その彼はどんな感じの人だったの?」
「コーンですか? うーん・・・と・・・、今の敦賀さんよりもずっと淡い色の金髪でした。瞳は緑というか青というか。湖みたいな澄んだ色です。私が学校から帰ってくると、近くの森の中で待っていてくれました。しばらくして自分の世界に帰っちゃうまで・・・・」
「・・・・・俺の金髪を見て、コーンのことを思い出した?」
「はい。」
「でも、全然色が違うんだろう?」
「・・・・・・・・はい。うまくは言えないんですけど、全体の雰囲気というか、物腰の柔らかさというか。すみません、どうかお気になさらないでください・・・」
私が勝手に・・・似てると思っただけなので。
「・・・ さっきからそればっかりだね」
「え?」
「すみません、すみませんって謝ってばっかりいる。
もっと、君は自信を持って良いのに・・・」
『キョーコちゃん。ごめんなんて言わないで。君はもっと自信を持っていいのに』
それは、在りし日の。
コーン・・・・・・・・・
「コーンにも・・・言われました・・・ その・・・同じ言葉・・・・・・・ど・・・して」
「最上さん」
「あっ、・・・・いえ・・・・。すみません。ちょっと一瞬、思い出と重なっちゃって・・・。
でも、一人が思うことは他の人が見てもおなじように思うことなんて世の中にいっぱいありますもんねっ!あまりにも同じ言葉だったから、動揺しちゃいましたけど。ほんと、あまりにそっくりだったから、もし、コーンも人間のように成長するなら、もしかしたら今の敦賀さんみたいになってるかもしれないなーなんて
思っ・・・・・・・・・・・・」
途切れる、会話。
軽いノリで続けようとした言葉は、真剣な敦賀 蓮の表情によって、出てくること無く引っ込んでしまった。
苦しそうな、悲しそうな・・・・・・・・・
「敦 ・・・賀、さん・・・・・・・・・・・?」
心配でそっと手を伸ばすと、その手をやんわりと絡め取られる。そのまま引き寄せられ、すっぽりと包み込まれてしまう・・・体。
「・・・・・・・・・・・・最上・・・・さん」
こぼすと悪いので、片手だけでベンチの上にミルクコーヒーのカップを置くと、抱きしめる腕がキョーコの肩に移動する。
敦賀さんは、わりと何でも一人で処理してしまうタイプだから・・・なにか言いたくても、いえないことでもあるのかな・・・?
そう思い、彼の背中に右手でそっと触れる。
私でよければ。
いくらでも聞いてあげる事はできるんだけど・・・・・。
でも、役不足かもしれないから、聞いてあげるなんてそんな大それたことできないし。
「・・・・か・・・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・・・・・?
今、何か・・・・・・・・・・言われたような・・・・・・・・・
「敦賀さんっ???今、何かおっしゃいましたよね!? すみませんもう一度いっていただけませんかっっ!???」
「・・・・・・・・・・」
当の敦賀氏はというと、ふいっと横を向いている。そして、斜め下の地面を見つめながら、無言。二度言うつもりはないのかもしれない !!?
そんなっ!せっかく口を開きかけてくれたのに!?
「敦賀さん~!敦賀さん~~~!!!お願いですから~もう一度!もう一度だけっっ!言ってください!!!」
へいこらへいこらと頭を下げて懇願。
ポツリ。
「もし・・・・・・・・コーンが人間で
それが・・・・・成長して今、君の目の前にいる、と・・・・・・言ったら・・・・・・・」
え・・・・・?
「君は・・・・・・受け入れてくれる、か・・・・・・・・?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・な、に・・・・・?
「そ・・・つ、る・・・がさ・・・・・」
口の中が、からからに干からびていた。
鼓動がドクドクと早くなり、自分の耳の奥から聞こえてくる。
敦賀 蓮・・・
日本の芸能界で、今一番活躍している大物俳優。彼は・・・溜め込んだ何かを吐き出すように、大きく・・・息を吐き出して・・・そして、顔をほんの少し上げた。
「俺の本名は・・・・・・・・久遠、という・・・」
久 遠 。
『あぁ・・・英語読みの強い発音だと、コーンとも聞こえるな』
クー・ヒズリが語った、息子の名前。
『愛らしい心優しい。武道の強さは父親の私でさえ妬けるほど。顔は生きた宝石とも呼ばれる美しい私の妻に似て』
とうさん。
つかの間のあいだとは言え、父と息子とを演じあった。とうさんの。
『残念ながら・・・私の記憶にある彼は15歳で止まってしまっている・・・』
『こら。いつも言っているだろう・・・父さんと二人でいるときは日本語で話しなさい』
『一生懸命久遠が作ってくれた食事だろう?』
『おいしい・・・』
『・・・こんにちは、キョーコちゃん。俺の名前は・・・コーンだよ』
『君・・・ もしかして京都にいたことある?』
『コーンは・・・ちゃんと生きてる。』
『大人に・・・なってる。空だって・・・きっと飛んでる』
頭の中で、ばらばらに散らばっていたピースが次第に集まり、つなぎあわされ・・・キョーコの瞳から、わけも分からずぼろぼろと、雫となって零れ落ちた。
「コー・・・ン・・・」
ぼろぼろ。
ぼろぼろ。
雫が芝生にいくつもの光を落とす。
ぎゅ・・・と、再び胸に抱き寄せられて、その大きな手のひらがキョーコの頭に置かれる。
「黙っていて・・・・・・・・・・・・・ごめん・・・・・・・・。全てを捨てて・・・日本に来たから・・・・・・俺がクーの息子であることを、隠して、日本でトップになるまでは・・・と・・・」
誰にも知られるわけにはいかなかった それでも。
「・・・君には・・・・打ち明けたいと・・・・・・思った・・・・・・・・」
あどけない、君の記憶も。
心奪われた、今の君そのものも。
どちらも手に入れたいと・・・願ってしまった。
君を偽り続けているのは、苦しい。
この金髪は、本当の色ではない。
けれど・・・君が、本当の俺も思い出してくれるなら。
どちらも・・・・手に入れたい。
本当の心で。
「最上さん」
びく!と抱いている肩が震える。無理も無い。
それでも ・・・・・
「言えない事が苦しかった・・・。他でもない・・・君だから」
「俺は、君が・・・すきだ」
受け入れてほしい・・・・・この想いも。本当の自分も。
今、はじめて、さらけ出した。
これまで、ずっと頑なに抱え続けていたものを。
人に遠慮して、相手のことを優先するあまりに抑え続けた・・・・久遠の名を封じたあのときの本心ごと。
「君が、受け入れられないのも無理はない・・・。この俺の言葉をかなえるために、俺の気持ちを受け入れたりなんかしなくていい。伝えたかった。それだけでいいんだ。ただ、一度だけ・・・
久遠、と・・・呼んでくれないか・・・?」
今の俺も、過去の俺も受け入れてほしい。その上で、君に呼ばれたい・・・本当の俺を。
「呼びません・・・」
ふる、ふる、と左右に頭を振っての拒絶。
呼びたくないか。
それほどまでに、俺は・・・・・いまの言葉は、彼女を傷つけて・・・・・・・・・・・・・。
当然だ。
身勝手にもほどがある。
今まで勝手に隠していたくせに、自分勝手に正体をさらして受け入れてほしいというのは身勝手だ。
彼女の拒絶はもっともだ。
そう・・・今までだって伝えるきっかけなんて山ほどあったんだから。
「呼びません・・・呼べません。勝手です、敦賀さん・・・。
私にとって、敦賀さんは敦賀さんで・・・それ以外の何者でもなくて。プレイボーイで、似非紳士で、やさしくて、何でも相談できて、なのにご自分のことには無頓着で、不器用で、一生懸命で・・・・。突然、二人が同一人物だって言われたことだけでも混乱しているのに、もっと混乱するようなこと・・・・す、す・・・好きだなんて言って!なのに、私が考えて答えを出すより先に自分勝手に終止符つけようとするなんて・・・っ!私なんて、最近やっと敦賀さんのこと好きだって自覚したばっかりなのに・・・っ、なのに、久遠だなんて・・・敦賀さんが、コーンだなんて・・・・・・・・・!っ・・・」
その瞬間。
溢れる言葉をさえぎるように、突然唇をふさがれる。
その、やわらかな感触が伝わる。
暴れていた腕をやさしく押さえ込まれ、口接けが深くなる。
開放されたとき、彼は柔らかく微笑んで自分のことを見つめていた ・・・。
「ズルいです・・・・敦賀さん」
敦賀 蓮でも、コーンでも久遠でも、本当はどうだってよかった。
だって、すべてを知った今でも、それぞれに対する想いは変わらなかったから・・・。
「わたしの方こそ、どんな敦賀さんだろうと大好きなんです」
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そして後日。
「今日はなんて呼んでくれるの?コーン?久遠?それとも・・・蓮?」
「・・・・・っ どれも呼びませんっ!!! 敦賀さんのいじわる!!!!!」
そんな痴話喧嘩を繰り返す、二人の姿があったそうな☆
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はぁぁぁぁあ~~~~~~っ;
書いた~!
初めて書いた~~~(-△-;)
もう、迷っててもしょうがないし、えいやって。
清水の舞台から飛び降りたくらいの気持ちです・・・。
がんばるです。またかけるかな。
なべち