忘れては 生きていけない大切なことを・・・・・。
あの子は知らない。
どれだけ自分が、この俺を浸食しているかということを。
どれだけあの子に、この俺が救われているかということを。
昼間のカースタントのアクシデント・・・あの子がいなければどうなっていただろう。
でも・・・・同時に彼女といることで、気づかないうちに指の間からさらさらと、
忘れてはいけない重たい固まりが砂に変わって滑り落ちていくのを止めることができない。
俺は、どうなってしまうのだろう。
正直それが恐ろしい。
「セツカ」として俺の演じるカイン・ヒールの妹を演じる彼女に、どこまでも翻弄され。
「ナツ」の姿で現れた彼女に驚きを隠せなかった。
そして、「京子」として・・・ありのまま、自分を気遣ってくれる彼女。
表面では平静を装っていても、心の中はあの子の一挙一動に振り回されてばかりだ。
はぁ ・・・・
遠くに引き離してしまいたい。このままでは彼女のことでいっぱいになって、大切なことを忘れてしまう。
近くにいたい。彼女をこのまま自分の近くに引き寄せて、俺のことだけ見つめさせたい。
君は・・・・・・・・・この俺の、そんな葛藤なんて想像もできないだろうね・・・。
午後9時53分。10時待ち合わせに間に合うように彼女が姿を見せる。
「・・・・・敦賀さん・・・・・っ」
その、天使のような無垢な笑顔で。
「最上さん。今日もお疲れ様」
笑顔でいるのもしんどいものなんだな ・・・。
大切なものと忘れてはいけないもの。
どちらも代え難い二つのことに縛られるなんて想像もしていなかったよ。
他でもない、君相手だから。