Crystalの欠片〔6〕
そわそわ。そわ。そわそわそわそわ。
「んっ・・・・・・・・・も~~~~~~~~~~~っ!! いい加減に何かしゃべりなさいよっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・だって・・・何を話すの?」
「だから、なんか適当に!あるでしょ??何か!・・・気まずいのよ、こんな空間に二人しかいないのに何も話さないなんて!!」
「・・・・・そう・・・・かしら・・・・・。」
特に気まずくないらしい紅蓮王の妻に、青筋をたてながら奏江がびしっと指先を突きつける。
「分かったわ!あんたは気まずくないでしょうけどね、私は気まずいの!こっちから質問するからお答え!!まず名前!名前は!? 私は奏江よ!あんたは!?」
「・・・キョーコ」
「キョーコ。キョーコね?分かったわ!!」
「「・・・・・・・・・・・」」
しーん。
「・・・・・・・・・・ッッッッッッッ!!!!!」
(あああああああああああああああああああああもおおおおおおおおおおおお!!
やりにくいったらないわああああああ!!!!!)
何にもすることが無い上に、二人しかいない空間でそのうちの一人が全く話す気力を持ち合わせていないのが、こんなに疲れることとは思わなかった。
(私だってそんなにべらべらしゃべる方じゃないわ!? だって、嫌ならその場から即立ち去っていたもの!けど、今はここから離れるわけにいかないっていうのに・・・・・っ!!! も~っ!私は時間の浪費って言うのが一番大嫌いなのよ !!!)
「・・・・・・・・・・・・・・!?」
なんとか話を切り出す内容はないのかと悶絶していると、無表情だったキョーコの顔が切なげに歪む。
と、思うと、次から次へと流れ出す涙。
「な、なによあんた・・・どうしたわけ!?」
(無表情だったと思えば急にパラッポロ泣き出すなんて・・・わ、私なんか悪いことした・・・・・・・!???)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダイアナ・・・・・・・・・・・」
ひっく、ひっくと嗚咽を漏らし、顔を両手で覆いながらつぶやかれたのは誰かの名前。
「・・・・・・・・・・・ダイアナって、誰?・・・あんたにとって大事な相手なの?」
そう質問すると、キョーコが顔を上げる。
大きく見開かれたその瞳には、先ほどまで無表情だったとは思えないほどの感情が溢れていた。
「ダイアナは・・・・・・・親友なの」
そういってキョーコはぽつぽつと語り出した。
仲の良かった大親友。
誰よりも大事で、かけがえのない親友。
彼女には誰よりも花と光が似合って、いつもくるくると瞳を輝かせていたことや、二人で一緒にすごした楽しい日々のこと。
けれども、その話の内容は一変する。
その親友が、あるとき一人の悪魔と出会ってしまってから全てが変わったこと。
親友が悪魔に恋をして、毎日のように魔界との境界まで会いに行っていたこと。
キョーコがそれに気づいた頃には・・・親友は衰弱して・・・・・・・。
「アイツとさえ出会わなければ・・・・・・・・・・・・・・・・・あんなに衰弱することは無かったのよ・・・・・・・・・・・・・!!!」
血を吐くようなキョーコの罵声が響く。
その瞬間、キョーコの周りを包む空気がざわりと変化した。
透明で清らかな、輝くような天使の光が、真っ黒に塗りつぶされて闇よりも濃い暗黒になって放たれる。
「私は憎かった・・・・・!!! あんな風にダイアナを苦しめるあの悪魔が・・・・・・・・・・・!!! もしもダイアナを本当に愛していたのだったら、手を離して立ち去るべきだったのよ・・・・・・!!!!」
見たこともないほど濃い暗黒を目の前にして、奏江はごくりと喉を鳴らした。
(信じられない・・・・・・・元天使が、こんなに強い闇に染まるものなの・・・・・!?)
下手な悪魔よりもよっぽどタチが悪い・・・闇を放つ今のキョーコは『堕天使』そのものだった。