Crystalの欠片〔9〕
『キョーコの熱が下がるまで出入禁止よ!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
なかなかキョーコを放そうとしない紅蓮王の腕から強引にキョーコを解放させて、あてがわれた部屋に連れて行った奏江。出てきて玉座の間までやってきたと思えば、魔王拝謁の手順など度返しに叫んだセリフがそれだった。
あまりの唐突さにぽかーんと開いた口がふさがらなかったのは社の方で、相変わらず紅蓮王は飄々として受け流した。
「か、奏江さん?気持ちはわかるけど出入禁止って…」
「当然でしょー!!! 熱が下がる前にまたいろいろ構われたらどうなると思ってるの!?」
「うん、まぁ・・・・・・・・・。そりゃ、ぶり返すよね」
「そうよ!だから紅蓮王・・・・様!あんたは絶対出入り禁止!!!」
「奏江さん、蓮に向かって『あんた』とか さすがにまずいから・・・・・って、蓮。なに笑ってんの」
肩を揺らしながら笑う紅蓮王に、これまた社だけががっくりと脱力した。
「クククッ・・・・ お前は面白いな。俺に向かって平気でそんなことが言えるとは・・・・。お前をキョーコの世話役にしたのは社の功績だな。お前くらいはねっ返りでないと彼女は手におえないだろう。多少無礼な点くらいは目を瞑るさ。ただし…」
「ただし?」
「熱が上がろうが下がろうが俺は触りたいときにキョーコを触るぞ。だいたい、なでたり触ったりするだけでいちいち倒れられてはお前もたまらないだろう。何度も触って、慣れてもらうに限る。」
(ぐっ・・・・・・・・・・・・・・確かに・・・・・・・・・・・困るわ!でもそもそもあんたが触らなきゃそれでいいのよ!!)
「お前 今、俺が触らなければ事は済むとか失礼なこと考えただろう・・・・。どこの世界に妻に一ミリとも触れない夫がいると思ってる」
ふう、とため息交じりに言われたら、さすがの奏江も引かざるを得ない。
「・・・・・・・・わかったわよ。ただ、今の熱が下がるまでは触らせないんだから!」
そう吐き捨てると奏江はどかどか足音を立てて部屋から退室した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・蓮。悪い、あの子けっこうズバズバとこう…思ったことを口にする子で」
バツが悪そうに謝罪する社を紅蓮王が片手で制する。
「気にするな。俺としてはあれくらい真っ向からものを言ってくる奴の方がよっぽど気分がいい。知っているか?あいつが魔界で一番他人の噂話をしないのを・・・・まあその分、噂の的になる回数は多いがな」
「うん・・・・・・・・・・」
やれ高慢ちきだの、傍若無人だの…悪口の的になっているのを社は知っている。
あの良くも悪くも他人のことに無関心な性格がまわりにとっては鼻につくのだろう。
そんな奏江だから、今回のような頼みごともできた。ほかの人物は口が軽くて信用ならない。
堕天使を妻にする。
魔王としては異例のことを、すぐに噂にされてしまっては困る。
蓮が先の魔王・・・・・・・・・・・もとは天界最強と謳われた堕天使の落とし種だということを知っている者は知っているのだから。
ちら、と横目で紅蓮王の顔を盗み見ると、王もまた遠い目をして頬杖をついている。
今でこそこんなに魔族らしい姿だが、白い羽を持っていた頃の紅蓮王を知っている社としては、見た目からして天使にしか見えないキョーコとの婚姻は・・・・・・魔界全土に公表されるには、もう少し事態が安定するまでの様子を見てからにしたい。周りはすべて、一筋縄ではいかない悪魔揃い。紅蓮王を見ていれば、足元をすくわれることはないとわかっていても、万全を期すに越したことはないと、側近の立場からそう感じてしまうのだった。