光秀「無駄な抵抗はそのくらいにしておけ」
「っ・・・・・・」
月の下に晒された、鍛え抜かれた身体に息を呑む。
光秀「お前の策に乗ってやってるんだ。それとも本気で脱がせてほしいのか?」
「・・・・・・じ、自分で脱げます」
光秀「信用ならないな」
光秀さんが私の帯に手をかける。
「あっ・・・・・・」
あっさりと帯が解かれ、大きくはだけた着物を慌てて押さえた。
「ま、待って・・・・・・」
光秀「中に襦袢を着ているのに恥ずかしいのか」
からかいが滲む光秀さんの声に、耳をくすぐられたまらない。
「500年後は、男女分かれて入るのが普通なんです。だから、一緒に温泉に入るってだけですごく恥ずかしいんです」
光秀「ほう、なるほど」
「わかってくれましたか?」
光秀「ああ、もちろん」
(本当かな・・・・・・)
「じゃあ、自分で脱ぐので光秀さんは先にお湯に・・・・・・」
光秀「ゆう」
ふわりと肩から着物を落とされ、光秀さんは私を横にして抱き上げた。
「わっ・・・・・・何を」
光秀「一緒に入るぞ」
「っ、全然わかってくれてないじゃないですか」
光秀「うるさい口だ」
(あっ)
言葉を遮るように、光秀さんの唇が私の唇に触れた。
光秀「お前がどう言おうと、もう逃がしてやらないからな。大人しくしておけ」
(っ、とても逃げられない・・・・・・)
問答無用で光秀さんは私を抱いたまま湯船へと運ぶ。たくましい腕や胸板を、薄い襦袢越しに感じて鼓動がひどく乱れた。
「あんまりドキドキさせないでください」
光秀「なぜだ?」
「このままだと、温泉に入る前からのぼせてしまいそうだからです」
光秀「そうか。のぼせて頬を染めたお前もさぞや可愛いだろうな」
(もう・・・・・・。やっぱりのぼせそう)
光秀さんは月の光を受けた切れ長の瞳を細め、私を連れてゆっくりとお湯に浸かった。
「っ、このお湯、熱すぎじゃないですか?」
光秀「冷たい夜風に当たっていたから、そう感じるんだろう。少しすれば慣れるはずだ」
(あ、本当だ・・・・・・ちょうどよくなってきた)
じわじわと、指先から身体が温まって心地よさが広がっていく。
(とりあえず、お湯に浸かったんだから、これで離してもらえるはず。光秀さんのそばにいられるのは嬉しいけど、この体勢は心臓に悪すぎるよ)
けれど光秀さんは膝の上に私をのせたまま、背中に回した腕をほどこうとしない。
(・・・・・・もしかして、このままずっと?)
「っ、あの・・・・・・」
光秀「逃がさないと言っただろう。諦めろ」
笑みが浮かぶ口元には、色香が濃く滲んでいる。
(諦めろって・・・・・・恥ずかし過ぎて本当にのぼせちゃうよ!)
触れ合う肌に、光秀さんを意識せずにはいられない。
「・・・・・・意地悪」
光秀さんの胸に顔を埋めて隠そうとすると、指先に顎をすくわれて・・・・・・
光秀「まだ、してないだろう?」
「えっ・・・・・・ぁっ」
光秀さんの濡れた唇が、私の耳たぶに押し当てられた。
「んっ・・・・・・」
光秀「どうした、そんないい声で啼いて」
「どうしたって、光秀さんが・・・・・・」
光秀「ああ、俺のせいだな」
唇からのぞいた赤い舌先が、私の首筋を伝い降りて鎖骨をなぞる。
(あ・・・・・・っ)
さらに襦袢の合わせを開かれて、胸元を強く吸われた瞬間、身体が大きく震えてお湯が跳ね上がった。
「ん、ぁっ・・・・・・あ」
(外なのに、声が・・・・・・)
必死に口を閉じて我慢していると、光秀さんの長い指先が私の唇を押し開く。
光秀「可愛い声を隠すな」
「んっ・・・・・・」
囁き声とともにまたキスを落とされる。肌が密着し敏感になっているせいか、どこに唇が触れても無防備な声が溢れた。
(もう、だめ・・・・・・)
とろとろになるまで溶かされて、私は指先にさえ力が入らない。
「光秀さ・・・・・・」
光秀「これでお前も力が抜けただろう」
肩にもたれかかった私を、優しくひと撫でする光秀さんは余裕に見える。
(ずるい・・・・・・私ばっかり)
「・・・・・・どうしてそんなに意地悪ばかりするんですか」
たまらず小さな声で抗議する。
光秀「何、お前が俺に隠し事をしているものだから、俺も少々意地悪をしてみただけだ」
「えっ」
(隠し事って・・・・・・そういえばさっき光秀さんが、私の策に乗ってやってるって言ってたけど・・・・・・)
「もしかして・・・・・・私が頼まれた策のこと、気づいてたんですか?」
光秀さんの薄い唇が吊り上がる。
光秀「さあな。だが昨日、三成と信長様とお前がなにやら話し込んでいるところを通りかかった。その夜に、休暇をいただいたからと温泉へ誘われれば、おおかた予想はつく」
(じゃあ、最初から計画のこと、ばれてたんだ・・・・・・)
光秀「今日一日、お前がずっと俺を気にかけてくれてることにも気づいていたが・・・・・・お前の気持ちが嬉しかったから、気づかぬふりをしていた」
(そういえば、山賊に襲われた後・・・・・・)
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光秀「・・・・・・」
「・・・・・・光秀さん?」
光秀「・・・・・・いや、なんでもない。怪我はないな」
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(そっか・・・・・・だからあの時、『なんでもない』って、知らないふりをしたんだ)
「信長様達も、私も、光秀さんがお忙しそうなので、心配なんです」
光秀「この程度、慣れている。今更疲れたりしない」
(光秀さんらしい答えだな。光秀さんが自分の信念のために、身体を酷使するのはわかってる。でも・・・・・・)
「あなたは私にそう言ってくれるから。余計に心配になるんです」
まっすぐ見つめると、光秀さんは長いまつ毛を伏せ------
光秀「ゆう。わかっていないな」
「え・・・・・・」
光秀「お前といるだけで、俺は癒されてる」
(ん・・・・・・っ)
甘く低い声で囁かれて、ふわりと唇が重なった。
光秀「俺にとっての最上の癒しはお前の笑顔だ。必要があれば身体に鞭を打ってでも、俺は織田軍のために務めをまっとうする。だが、お前や・・・・・・三成、信長様の好意は受け取っておく。ありがとう」
愛おしそうに抱きすくめられ、たくましい腕が私を包み込んだ。
(心の中がわかりにくい人だけど・・・・・・きっとこのお礼は、本心を伝えてくれてるって思える。それなら私は・・・・・・)
「わかりました。光秀さんが務めのため、自身に鞭打っても止めません。でも、すぐに癒せるよう、どんな時も私がそばにいますね」
光秀「・・・・・・頼もしい限りだな」
(少しでも、この人の力になれるように、私も強くなりたいな)
光秀さんの、しっとりと濡れた髪を指で後ろへ流しながら笑いかける。
「光秀さん、この旅行の間はゆっくりするって決めてくださいね」
光秀「それは困るな」
「え・・・・・・、んっ・・・・・・」
不敵な笑みを返されたかと思うと、素早く唇を奪われ、舌が私の中をくすぐった。
「光秀、さん・・・・・・?」
唇が離れて、そっと耳に潤った声を注がれる。
光秀「この後、俺は眠るつもりも、お前を寝かせるつもりもないからな」
(っ・・・・・・)
月の光を反射する、澄んだ瞳が私をまっすぐ射る。わきたつ湯気をまとい、怪しく微笑む光秀さんから、目が逸らせそうになかった。