春日山城に仕える針子が、怪しげな商人から何かを受け取る。
針子「これを使えば、信玄様への想いが成就するんですよね」
男「ああ、間違いないよ」
針子が受け取ったほのかに甘い香りがする入れ物を見つめながら、男は怪しげな笑みを浮かべていた。
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風が温かさを帯びはじめ、城内もぽかぽかとした陽気に満ちている。すがすがしい気分で、針子仕事の休憩中に廊下を歩いていると・・・・・・
???「信玄様のことが好きなんです」
(えっ)
信玄「・・・・・・」
廊下の先で、信玄様に告白する女性の姿が目に入り、とっさに柱の影に隠れた。
(・・・・・・最近、この城に針子として奉公に来た子だ)
彼女は、頬を赤らめながら懸命に信玄様を見つめている。
針子「私、信玄様のことを本当にお慕いしていて・・・・・・気持ちを伝えずにはいられなくて・・・・・・」
凄いな……積極的な子。それに相変わらずモテモテな信玄様(´๑•_•๑)
(あ・・・・・・っ)
彼女が信玄様に抱き着く瞬間を目の当たりにして、思わず声が出そうになるのを堪えた。信玄様は一瞬だけ眉を寄せると、彼女の肩にそっと手を置いて、距離を取る。
信玄「気持ちは嬉しい。だが、俺には心に決めている最愛の女がいるんだ」
素敵✨ 理性のある大人の対応の模範だな\(^o^)/
優しく、けれど毅然とした口調で、信玄様が告げる。
針子「最愛の方が・・・・・・そう、だったんですね」
(・・・・・・あの子には、私達のこと、まだ話せてなかった。まだここへ来て数日だし、きっと知らなかったんだ)
信玄様が丁重に断ってくれて安心はしたけれど、その反面、勇気を振り絞って告白しただろう彼女のことを思うと、胸が痛む。
針子「・・・・・・失礼しました」
彼女は一礼すると、静かにその場を立ち去っていった。
(・・・・・・どうしよう)
出ていくのも気が引けて、柱の影から動けずにいると・・・・・・
信玄「ゆう」
「・・・・・・!」
こっそり伺い見る私に、信玄様はひとつの動揺も見せず笑みを向けた。おずおずと柱から出て行くと、信玄様は申し訳なさそうに眉を下げる。
信玄「悪かった。あまり見たくないものを見せただろう」
「あ・・・・・・いえ、そんなことは・・・・・・」
信玄「ない、とは言い切れないだろう?」
「・・・・・・それは・・・っ、ん・・・」
気まずさで視線を逸らす前に、掠め取るように唇を奪われた。
信玄「俺が愛してるのは君だけだ」
(・・・・・・信玄様・・・)
そのまま、信玄様の腕の中に抱きすくめられる。
信玄様「わかってくれるかな」
「っ・・・・・・はい」
きつく腕が回されたその時、とても甘い香りが鼻先をくすぐった。
「あ・・・・・・」
(この香り・・・・・・もしかして、あの子の・・・・・・?)
信玄様も気づいたのか、抱き締めた腕をかすかに緩めた。
信玄「すまない。すぐに着替えるよ」
「いえ・・・・・・大丈夫です」
離れがたくて、腕が解かれる前にぎゅっと抱きつく。
信玄「君が、心から優しいことは重々承知しているが、俺の前ではそんなに大人ぶらなくていい」
「え・・・・・・」
信玄「顔にはっきり書いてある。君からのやきもちなら、大歓迎だ」
大人で優しい悟り方だな〜(๑♡ᴗ♡๑)
安心させるように、信玄様の手が私の頬を包む。
信玄「君の不安を取り除きたいんだが・・・・・・してほしいことがあれば、聞かせてくれ」
「・・・・・・もう一回、口づけて欲しいです」
信玄「・・・・・・ああ」
見つめる瞳が緩みを帯びて、熱を持った唇が重なった。優しく触れ合うだけでは止まらずに、だんだんと口づけが深まっていく。
「っ、信玄、様・・・・・・?」
信玄「ゆう・・・・・・」
掠れた声で呼ぶと、口づけていた唇が首筋まで降りてくる。
(っ、こんな・・・・・・ところで・・・・・・?)
そのまま力が抜けてしまいそうになったのを、なんとか堪えた。
「ま、待ってください」
信玄「ん?」
「誰か来たら・・・・・・」
信玄「ああ、まずいな・・・・・・」
口とは裏腹に、腰に添えられた手が艷めかしく私の背を撫で上げる。
「っ、ん・・・・・・信玄、様・・・・・・!」
信玄「っ・・・・・・」
一瞬、信玄様の動きが止まった。険しい表情を浮かべながら、信玄様はゆっくりと私から離れる。
(どうしたんだろう・・・・・・)
「・・・・・・信玄様?」
信玄「悪いな。ちょっと体調が良くないようだ」
急だなー。腹痛?
「っ、大丈夫ですか?」
信玄「ああ、心配はいらない。引き止めて悪かった。部屋に戻るよ」
「ゆっくり休んでくださいね。これから仕事なんですが、なるべく早く終わらせて看病に行きます」
信玄「いや・・・・・・今日は駄目だ」
拒否り方にムリがあるな。。。これ。
(え・・・・・・)
はっきりと拒まれて、思わず信玄様を見つめ返す。
「どうしてですか・・・・・・?」
信玄「君にうつしたくないからだ。きっとただの風邪だろう」
優しく髪を撫でながら、信玄様は私を宥めるように言う。
「・・・・・・わかりました。お大事になさってくださいね」
信玄「ありがとう」
頬に触れるだけのキスをすると、信玄様は笑顔のまま部屋へと去って行った。
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部屋に戻ってきた信玄は、身体中から沸き立つ熱に眉を顰(しか)める。
信玄「・・・・・・あの香り、まさか噂は本当だったのか・・・?」
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(信玄様、大丈夫かな・・・・・・随分辛そうに見えたけど・・・)
反物の仕入れの帰り道、私は昼間の信玄様の様子を思いだしながら歩いていた。
その時------
幸村「ん?ゆう?」