義元「ちょっと話をしてくるから、待ってて」
義元さんは戸口を叩き、慣れた様子で家へと入って行った。
義元さんが、人の良さそうなおじいさんを連れて出てきた。
(あ・・・・・・)
その人は、城下で幸村とデートをしていた時に見かけた老夫婦のおじいさんだった。
惣二郎「初めまして。私、惣二郎と申します。お話は伺いました。私でよければお力になりますよ」
「ゆうです。よろしくお願いします!」
惣二郎「では早速、中へどうぞ」
義元「頑張ってね」
「ありがとうございます」
------
そうして、私は惣二郎さんから、家の中にある小さな工房で、陶芸を習うことになったのだけれど・・・・・・
「うわぁ・・・・・・」
通い始めて何日かたった頃、試しに焼いてもらった指輪ができたとのことで、それを見せてもらった。何をどうしたらそうなってしまったのかというくらい、歪な形のそれを受け取り、ため息をこぼす。
惣二郎「最初から上手くいく人なんていませんよ」
惣二郎さんが見本に作ってくれたものは、とても可愛く仕上がっていた。
「・・・・・・頑張ります」
------
そうしてまた数日後------
今回の失敗作を見つめながら、廊下を歩いていると・・・
幸村「ゆう?」
「っ!」
(ゆ、幸村!?)
廊下の向こうから幸村が歩いてきて、はっとする。私は慌てて袖に指輪を隠した。
幸村「こんなところで何してんだよ」
「べ、別に何も!幸村こそどうしたの?」
(ずっと逢いたいと思ってたけど、タイミングが悪い・・・・・・っ)
幸村「俺は・・・・・・別に。公務の帰り」
「ねえ、幸村」
幸村「ん?」
「最近、佐助くんとか義元さんと何か話した?」
幸村「っ・・・・・・なんだよ、急に」
(話したんだ・・・・・・)
あからさまに照れた幸村を見て、きっと将来の話をしたのだろうと想像がつく。
「・・・・・・ううん、なんでもないよ」
幸村「・・・・・・。ちょっと来い」
「え?・・・・・・っ」
反論する間もなく、幸村に腕を引かれ、廊下の隅に追いやられた。幸村は、とんと壁に片手をつき、私の退路を奪う。
ん?壁ドン???
「っ?幸、------んっ」
次の瞬間、柔らかな唇が私のそれに重なった。
よくわからないまま、深くなっていくキスを受け止めていると、やがて幸村が唇をゆっくり離した。
「っ、ゆき、むら・・・・・・なんで?」
幸村「・・・・・・なんか、凹んだ顔してたから」
「えっ・・・・・・」
幸村「いらねー心配かけてるなら、取り除いてやりたいから」
「っ・・・」
耳元で優しく言われて、胸が甘く軋んだ。
「・・・・・・不器用なんだから」
幸村「・・・・・・」
幸村の顔を見れば、真っ赤になっていて、余計な心配だったとわかる。
(・・・・・・将来のことをどう話したかは気になるけど、今は聞かないでおこう)
幸村「俺、手先は器用だからな」
よくわからないけれど、言い返してくる幸村に笑みがこぼれた。
「ふふっ・・・・・・手先の話じゃないよ」
私達は笑い合って、もう一度、触れるだけのキスをした。
----------
それから、また数日が経ったある日の夕方、公務の帰りに幸村が城下を歩いている時のこと------
幸村「ゆう?と・・・・・・義元?」
ふたりが並んで歩いているのを偶然見かけてしまう。
幸村「・・・・・・なんだよ、嬉しそうな顔して」
幸せそうな笑顔で話しているゆうを見て、幸村はひとり眉をひそめた。
----------
指輪作りに行き、たまたま帰りに義元さんと会って帰ってきたその日の夜------
幸村「なあ」
寝支度を済ませた私のところに、幸村が歩み寄った。
「?なに?」
首を傾げると、幸村は私の正面に腰を下ろす。
幸村「今日・・・・・・義元と一緒にいたか?」
「えっ」
(うつ見られたんだろう?指輪の話、ばれてないよね?)
幸村「・・・・・・んだよ、その反応」
幸村がムスッとして、表情を険しくした。
「別に何でもないよ。義元さんと城下でばったり会っただけ」
幸村「・・・・・・そのわりに」
「え?」
幸村「そのわりに、すげー可愛い顔して笑ってただろ」
「っえ・・・・・・?」
唐突な甘い言葉に、頬がかあっと熱くなる。
幸村「あーもう・・・・・・」
「わっ」
幸村が私を抱き寄せ、ぎゅうっと強く抱き締めた。
「っ、幸村・・・・・・やきもち焼いてるの?」
幸村「ちげー」
(・・・・・・違わないでしょ。もう・・・・・・可愛いなぁ)
「・・・・・・幸村の話、してたよ」
幸村「は?」
「『すげー可愛い』かはわからないけど・・・・・・私がそんなふうに見えるときは、だいたい幸村の話」
幸村「っ・・・・・・」
「まだ怒ってる?」
幸村「別に・・・・・・最初から怒ってはねーだろ」
「むすーってしてたよ」
幸村「・・・・・・お前が紛らわしいことするからだろ」
「紛らわしいって・・・・・・それを言うなら・・・・・・」
幸村「それを言うなら、なんだよ」
「っ・・・・・・やっぱり」
(駄目だ、今は言わない方がいい)
幸村「言いかけたなら最後まで言えよ」
私は迷いながらも、口を開いた。
「・・・・・・最近、私に何か隠し事してない?」
幸村「っ・・・・・・今は、言えねえことだよ」
「・・・・・・あっそ。じゃあいい」
教えてくれない幸村に、私まで子どもっぽく拗ねてしまう。
幸村「・・・・・・」
気まずくなってしまった私達は、結局背中合わせで眠ることにした。
(どうしていつもこうなっちゃうんだろう・・・・・・)
------
次の日、私は再び惣二郎さんの工房にやってきた。
(喧嘩したままでてきちゃったな・・・・・・)
気まずい雰囲気のまま出てきてしまったことを後悔しながら、土を捏ねる。
(そういえば、惣二郎さんの奥さんって、あの時のおばあさんだよね。どうしたら、あんな風に仲良くしていられるのかな)
惣二郎「お悩みの種は、恋仲のお相手のことかな?」
「はい・・・・・・。あの、実は・・・・・・」
私は、以前、城下で惣二郎さんと奥さんに会ったことがあると打ち明けた。
惣二郎「おやおや、そうでしたか」
「この指輪も、恋仲の人とずっと一緒にいたいって気持ちを形にしたくて、作ってるんです。でもその人とは、いつも喧嘩ばかりしてます」
惣二郎「一緒ですよ。私達も喧嘩ばかりです。今でもしょっちゅう」
「そうなんですか?」
惣二郎「ええ。この指輪・・・・・・というものは、初めて聞いたものだったのですが、私も婚礼を申し込むとき、妻に揃いの湯飲み茶碗を贈ったんです。生涯、私のそばにいてほしいと。だから、ゆう様も、頑張って完成させましょう」
「ありがとうございます」
勇気をもらえた気がして、作りかけの指輪に向き直ったその時----------
幸村「おい」
「え・・・・・・」
(幸村・・・・・・!?)
戸口を振り返ると、そこにいたのは、幸村と・・・・・・
「!」