幸村「おい!」

ゆう「!」

義元「ごめん、ゆう」

幸村の後ろから、義元さんが苦笑しながら姿を現した。

義元「幸村と今朝、偶然会ってね。すごくプリプリしてたから、事情を聞いて・・・」

幸村「プリプリなんてしてねーだろ」

義元「してたよ。すごくご機嫌斜めだったじゃない。『なんで昨日、ゆうと一緒にいたのか』って聞かれたんだ。誤魔化そうと思ったんだけど、話がこじれそうだたから、事情を説明して、君のところへ案内したってこと」

「そうだったんですね」

まーだ言ってるん?幸村。。。ニヤリ

(じゃあ、指輪を作ってたことも全部バレちゃったってことだよね)
ちらっと幸村を見ると、どこか気まずそうな顔をしていた。

梅「あら・・・・・・幸村様」

(あ・・・・・・)
穏やかそうなおばあさんが、工房の奥から顔を出す。

(惣二郎さんの奥さんだよね・・・・・・城下で会ったきりだったけど・・・・・・って、あれ?)

「惣二郎さんの奥さんが、どうして幸村のこと知って・・・・・・」

幸村「あー・・・・・・それは・・・・・・」

梅「ふふ、ちょうど良いところにいらっしゃいましたよ」

「え・・・・・・」

梅「ちょっと待っていてくださいね」

梅さんは、窯(かま)の方へ行き、手に何かを持って戻ってくる。
(あれ・・・・・・)

梅さんの手にある箱は、ふたつの指輪が並んでいた。

梅「おふたりが作られてた指輪、ちょうど良い感じに焼きあがったんです」

「おふたりのって・・・・・・え!?」

(幸村もここで指輪を作ってたってこと・・・・・・!?)

幸村「・・・・・・」

惣二郎「ほら。お互いに、はめてみてはいかがですか」

梅さんに箱を差し出されて、幸村はそのうちのひとつを手に取った。

梅「ゆう様も」

今まで何度も失敗したけれど、今回の仕上がりはとても綺麗にできている。私は差し出された残りのひとつの指輪を受け取った。

幸村「・・・・・・おい、手」

「手って・・・・・・私、犬じゃないんだけど・・・」

犬・・・・・・・・・・・・笑笑笑笑笑笑笑笑笑笑🤣
ごめん、笑いすぎたーーー🤣🤣🤣

つい憎まれ口を叩くと・・・

幸村「っ、いーから、左手」

「っ・・・」

(左・・・・・・左って言ったよね?)
幸村がどこまで指輪の風習を知っているのかはわからないけれど、左手を出せと言われることの意味を思うと、ドキドキと鼓動が高鳴る。

・・・・・・うん」

そっと左手を差し出すと、幸村が優しく私の薬指に指輪をはめてくれた。
(わっ、ぴったり・・・・・・それに、すごく綺麗)

幸村「お前も。早くしろよ」

気恥ずかしいのか、耳まで真っ赤になっている幸村が私に向かって左手を出す。

「っ、うん」

幸村の手を取り、私も幸村の左の薬指に指輪をはめた。

幸村「・・・・・・大きさ、ちょうど良さそうだな」

(感想、それだけ?)
そう思ったけれど、幸村の頬が緩んでいることに気付く。

義元「よかった。あとはふたりでゆっくり話すといいよ」

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ふたりで工房を出た後は、なんとなく気恥ずかしい空気のままで、お互い一言も喋っていない。幸村の部屋に着いても、沈黙は続いている。

(うー・・・・・・何から話せばいいの?というか、義元さんはどこまで幸村に話したんだろう?・・・・・・指輪のことはきっと、佐助くんから聞いたってことだよね。でも、どうして幸村まで指輪を・・・・・・)

ぐるぐると考えていると、幸村が歩み寄ってきて・・・

幸村「なあ」

「! なに?」

長い沈黙を破って、幸村が私の前にどかっと腰を下ろした。

幸村「予定が狂った・・・・・・本当はこんなはずじゃなかったんだけど。まず、昨日のこと、謝る。悪かった」

「ううん、私の方こそごめんね。義元さんと会ったのは本当に偶然だったんだけど・・・指輪のことは話せなかったから・・・」

(たぶん幸村が通ってたのも、あの工房だったってことだよね)
いくつか疑問は残っていたけれど、私も本来の目的を果たそうと居住まいをただした。

「幸村・・・・・・あのね、大切な話があるの」

幸村「っ、なんだよ改まって・・・・・・」

(逆プロポーズ・・・・・・プロポーズって緊張する・・・・・・っ)

バクバクする胸を押さえて、一呼吸つく。

そして------・・・

「私と、ずっと一緒にいてください」

幸村「っ・・・・・・」

私の言葉に目をみはり、幸村が息を呑んだ。

・・・・・・今すぐじゃなくても・・・・・・いつか、幸村の奥さんになりたいの。幸村を支えるには、まだ頼りないところとかあるかもしれないけど・・・・・・私、これからもっと頑張るから」

幸村「・・・・・・っ、お前な・・・・・・」

「わっ」

がばっと抱き締められて、思考が遮られる。

「っ、幸村・・・・・・?」

強く抱き締めてから、幸村は私の顔を覗きこんでむっとした顔を見せた。

幸村「そういうのは俺に言わせろよ・・・・・・」

「え・・・・・・」



幸村「好きだ。一生、俺といてくれ」

「っ・・・・・・」

幸村「この指輪はその証だ」

ぎゅっと左手を握られて、ようやく実感が湧く。
(じゃあ、幸村も・・・・・・最初からプロポーズしてくれるつもりだったってこと?どうしよう・・・・・・)

嬉しくて、目頭が熱くなった。

幸村「っ、泣くなよ!」

幸村がぎょっとした顔をして、私の頬を包み込む。

「だって・・・・・・嬉しい、んだよ・・・・・・ありがとう、幸村」

(同じ気持ちで、同じことしてたなんて、夢にも思わなかった・・・・・・)
私を見つめる優しい瞳に、胸が甘く締め付けられた。

幸村「まさか先越されると思わなかったけどな」

「どっちから言っても同じでしょ」

幸村「・・・・・・まあいいか。気持ちはおんなじってことだろ」

「うん!」

くすくすと笑い合って、私達は触れるだけのキスをした。
(ふたりの気持が、これからもずっと、おんなじでありますように------)

胸の中で、ささやかな幸せを祈りながら。