空がまだ僅かに夏の眩しさをとどめている、長月のころ------
私は安土城の広間で、戦から帰還される信長様を家臣たちと待っていた。心が疼くような不安を感じていると、ひとりの家臣が広間へ駆け込んできた。
家臣1「たった今、伝令係が帰城しました」
家臣2「それで信長様のご様子は!?」
家臣1「伝令係によると、敵の策略によって本陣が奇襲を受けたものの、信長様がおひとりで敵兵全員をなぎ倒したという話です」
家臣3「流石、信長様だな!」
家臣4「ああ、どのような事態のときでも我らを導いてくださるお方だ」
「皆さん、信長様のことを信頼していらっしゃるんですね」
家臣2「ええ、それは勿論。信長様が戦場で直接指揮をとられる時は、私どもの士気もあがります。この方についていけば間違いない・・・・・・信長様にはそう思わせる何かがあるのです」
「あの・・・・・・信長様は戦場で、辛い顔を見せたりされないんですか?」
家臣2「そうですね・・・・・・私が知る限り、ありませんね。いつも余裕のある表情をなさるので」
家臣4「我々にとって、信長様は戦場を照らす光・・・必ず勝てると思わせてくださる主君ですよ」
(こんなにも信頼されてるなんて、やっぱり信長様ってすごいお方だな。でも信長様だって皆と同じ、ひとりの人間なんだから・・・・・・戦場で怪我をしたり、体調を崩されることだって、ないわけじゃないよね。どこも怪我をされてないといいけど・・・・・・)
少しだけ顔を曇らせていると、賑やかな気配とともに広間の襖(ふすま)が開かれた。
秀吉「今、戻ったぞ。変わりはないみたいだな」
信長「大層な出迎えだな、貴様ら」
(信長様、秀吉さん!よかった、ふたりとも元気そう)
歓喜の声を上げながら、家臣たちが一斉に平伏する。
(本当は駆け寄りたいけど・・・・・・)
私も家臣たちにならって深く頭を下げた。
信長「頭をあげろ、ゆう」
「え・・・・・・」
目の前でしゃがんだ信長様が、私の顎に手をあてて上を向かせた。
信長「貴様の顔を見たかった。隠すことは許さん」
甘く微笑まれ、胸がぎゅっと苦しくなる。
(ずるい。そんなこと言われたら、とても我慢できない)
「信長様・・・」
思わず腕を伸ばしてしがみつくと、信長様がしっかりと抱き留めてくれた。
信長様優しいよね。。♡
信長「早くこうすればいいものを」
「だって・・・・・・皆さんの前ですから」
ふっと笑みをもらした信長様が、私の額に優しく唇を押しあてた。
信長「何を遠慮することがある。貴様と俺の仲は、周知の事実だろう」
(っ・・・・・・)
「でも、少し恥ずかしいです」
信長「恥ずかしがる必要などない。次は素直に俺のもとに来い」
きゃ〜!信長様素敵✨
首を縦にふると、信長様は満足げに笑い、広間にいる家臣たちに目線を向けた。
信長「貴様ら、出迎え大儀であった。戦場に出ていなかった兵たちもよく城を守った」
信長様が発した労いの言葉に、涙目になっている家臣もいる。
信長「ゆう」
「わっ!」
ふいに信長様が私を横抱きにして、家臣たちを見回す。
信長「俺はゆうと過ごす。貴様らも休むが良い」
家臣たち「はっ!」
信長「秀吉、あとは任せる」
秀吉「はっ。ごゆっくりお過ごしください」
家臣たちは少し気恥かしそうな雰囲気を漂わせながらも、信長様と私を温かな眼差しで見守ってくれていた。
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「おかえりなさい、信長様」
信長「ああ。待たせたな」
広間を出たあと、私たちは信長様の部屋で、ゆったりとした時間を過ごしていた。
「ええっと、お茶を淹れてきますね」
信長「誰が離れて良いと言った」
立ち上がろうとした私の腕を握って、信長様が制止した。
「困った方ですね」
くすくすと笑いながら信長様のそばに座る。
信長「そばでおとなしく愛でられていろ」
(お城の人たちにとって、信長様がどれだけ大切な存在かわかってる。だから一人占めにはできないけど、こうやって一緒にいられる時くらいは・・・・・・信長様に、私だけを見ていて欲しい)
湧き上がる想いを止められず、触れるだけのキスを、信長様へ贈った。
信長「・・・何をしている?」
「あ、すいません、驚かせてしまって」
信長「そうではない」
我に返って身体を離そうとすると、ぐいっと腰を引き寄せられた。
「え・・・っ、ぁ・・・」
顎をつかまれ、顔を固定される。
「んん・・・・・・っ」
信長様は奪うように、舌先で私の唇を開き、深く口づけて------・・・・・・
信長「それで終わるつもりかと聞いている」
再び顔を寄せた信長様に舌先をくすぐられ、甘い触れ合いに身体が熱をあげる。呼吸が乱れてたまらず顔を離すと、笑みを浮かべる信長様と視線が絡んだ。
「そんなふうに見つめるの、ずるいです・・・」
信長「その割に嬉しそうな顔をしているように見えるな」
信長様の硬い手の平に、くすぐるように頬を撫でられる。
(意地悪なのに・・・・・・触れ方が優しくて、嬉しくなっちゃうから、ほんと困る)
信長様の広い背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめる。
「・・・・・・ご無事でよかったです」
信長「急にどうした?」
「今回、本陣に奇襲をかけられたと聞きました」
(信長様がおひとりで、敵兵をなぎ倒したって・・・・・・)
信長「ああ。あの程度の奇襲、大したことではない」
「今日はゆっくり、休んでくださいね」
信長「いいだろう。だが・・・」
ふわりと褥に押し倒されたかと思うと、信長様が私にまたがった。
信長「貴様を堪能したあとに、だがな」
「っ、それでは休みになりません」
信長「口答えを聞く気はない」
乱れた衿の隙間から、差し込まれた指に肌をなぞられる。久しぶりに恋人から与えられる甘い疼きに身体を震わせた。露になった肌に、信長様の手が触れると・・・・・・
(ん・・・・・・?)
いつもに比べて少しだけ、信長様の肌が熱く感じた。
信長「何を呆けた顔をしている?」
(気のせい、かな)
「いいえ、なんでもないです」
信長「そうか。・・・・・・やっと大人しくなったな」
胸元の輪郭を確かめるように、信長様の指が這う。頭の中まで痺れて背中が大きく反る。信長様から与えられる熱を感じて、何も考えられなくなった。
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翌朝------
(誰かが、触れてる?)
頭の上を滑る心地の良い感触に、意識を浮上させる。瞼をそっと開けると、信長様が指先で私の髪をもてあそんでいた。
信長「起きたか、ゆう」
「はい・・・おはようございま・・・・・・」
(・・・・・・あれ?)
私を見つめる信長様の様子が、いつもと少し違っていた。
信長「どうかしたのか」
(・・・・・・やっぱり、なんだか熱い)
髪を撫でる信長様の手のひらが、昨日よりも熱っぽく感じる。
「信長様、すみません」
信長「ゆう・・・・・・?」
ぴた、と信長様のおでこにてをあてて体温を測る。
(やっぱり、熱い・・・・・・!)
「信長様・・・・・・!」
熱があることを伝えようとした時、
家臣の声「失礼します、信長様」
襖(ふすま)の向こうから声がかかった。
信長「------・・・誰か来たようだな」