ふたりが殺しあうべき存在として出逢ってしまったら・・・------
------これは、間謀として生きてきたあなたと彼の恋物語。
間謀として育てられてきた私は、信長暗殺の命を受け、安土城に女中として扮し、潜伏していた。
信長「ゆう」
「! 信長様・・・・・・」
信長「食事の支度か」
「・・・・・・はい」
いつからか、『暗殺対象である信長』に恋をしてしまった。
(こんな気持ちは、許されるはずない・・・・・・)
信長「ここでの暮らしには慣れたか」
「はい、もうずいぶんと・・・・・・」
(私はもう、元の世界で生きてはいけない)
裏切り者の末路は、言うまでもない。
信長「貴様に用があって来た」
「・・・・・・どんな御用でしょう?」
信長「・・・・・・」
一瞬の沈黙が流れる。
信長「今宵、晩酌に付き合え。天主で待っている」
それだけ言うと、信長様は踵を返し、台所を出て行った。
(ふたりきりになる機会・・・・・・これを逃すわけにはいかない)
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その夜・・・------
私は約束どおり、信長様の部屋に準備した酒を持って、訪れた。
毒入り???
信長「来たか。こちらへ来い」
「・・・・・・はい」
天主で待ち構えている信長様の元にゆっくりと歩み寄り、隣りに腰を下ろす。
(毒は袖に仕込んでる。懐刀も------)
入れてこなかったのかいー!
(殺したくない------でも、殺さなければいけない)
激しい葛藤にどくどくと鼓動が脈打っていた。
信長「顔色が悪いな」
「・・・・・・そんなこと、ないですよ」
完璧な笑顔を取り繕うけれど・・・
信長「・・・・・・」
(この男を・・・・・・『信長』を殺す。それが私の、運命だから)
震えそうになる指先をぐっと握ったその時、不意に信長様の冷たい手のひらが伸びてきて、私の頬をそっと包んだ。
信長「------ゆう」
「っ・・・・・・」
自分の名前を呼ぶその声は、冷めた瞳と相反して、残酷なほど優しい。月明かりの下、つーっと涙が一筋、頬を伝った。
(やっぱり、できない。私に・・・・・・この人を殺すなんて)
何も言えず、動けず、ただ、涙を流したまま、信長様を見つめ返す。
信長「良い目だ」
「! え・・・・・・」
信長「女の身ひとつで、この俺を殺すつもりなのだろう?」
「っ・・・・・・」
(まさか・・・・・・初めから気付かれていた・・・・・・?)
面白がるような瞳からは、今、この人が何を思っているのかまでは読み取れない。
(でも、もう・・・・・・)
言い逃れは出来ないことを察し、死を覚悟する。
「気付いていたなら、どうして・・・・・・私を殺さなかったのですか?」
(いつだってその機はあったはずなのに)
信長「・・・・・・貴様がそう望むのであれば、今、殺してやる」
「!」
私の頬に触れていた手で、すらりと懐刀を抜き、切っ先を喉元に突きつけられる。
信長「選べ、ゆう。俺にこの場で殺されるか------・・・・・・生涯、敵である俺に愛され、生きていくか」
「・・・・・・! 何を・・・・・・おっしゃってるんですか・・・・・・」
信長「そのままの意味だ。俺は貴様がどこぞの間謀だと気付いていた。理解した上で・・・・・・」
信長様が身を乗り出し、刀を持っていない方の手で、私の顎を掬いあげて------
信長「貴様を欲した」
「・・・・・・っ。そんなの・・・・・・! そんなの許されるわけない・・・・・・っ。私は・・・・・・あなたを殺すためにここに来たんです!」
堪えきれず、涙がぽろぽろと頬を濡らし、顎を掴んでいる信長様の手に堕ちていく。
信長「だから、どうしたというのだ。この俺が、貴様が欲しいと思った。有能な手駒としても・・・・・・ひとりの女としてもだ」
なんか、映画「関ヶ原」思い出したなー。
石田三成(岡田将生)が、間謀(有村架純)と出来ちゃうやつ。。。
「どう、して・・・・・・そんな・・・」
信長「俺の命を狙った女は、貴様が初めてだった」
信長様、初めてによわいよね。。(笑)
信長「貴様のその強い瞳が、俺といる時だけはどこか危うげに揺れていた。まんまと貴様の術中にかかったのだろうな」
そんなことを言いながらも、信長様は嬉しそうに笑っている。
(めちゃくちゃな人・・・・・・そう思うのに・・・)
その笑顔に、どうしようもなく心惹かれている。時折ふと向けられる、温かい眼差しに、心を奪われている。
そうそう・・・・・・女はちょいワル男に引かれるんよー
(もう、逃げられない。この人からも、自分の気持ちからも------)
「あなたのことを------信長様を、愛してしまいました。私のこの命はもう・・・・・・信長様に捧げるしかないんです」
顎に添えられているその手に触れると、自分の涙で濡れていた。
信長「------・・・交渉成立だ」
にやりと笑った信長様が刀を手離し、私の後ろ頭を引き寄せた。
「っ、ん・・・・・・」
熱い唇に、唇を奪われ、一瞬にしてすべてを呑み込まれてしまう。夢中で応えているうちに、気付けば押し倒されていた。月を背にする信長様が私をみおろして・・・
信長「生涯、愛してやる、異論は認めん」
「は、い・・・・・・」
満足げに笑みを滲ませた信長様が、首筋に舌を這わせていき------
何度も痛いくらいに吸いつき、肌に真っ赤な華を咲かせていった。
「信長、様・・・っ・・・・・・」
痛みさえも、ひどく心地よくて、涙がまた一筋流れる。
信長「貴様がいくら悔やもうと、手放す気はない。覚悟しておけ」
(私はもう・・・・・・この腕の中で愛されながらしか、生きられない)
熱に浮かされて、見つめあえば、再び唇が重なって・・・深い夜の海に、許されない契りを交わし合っていった------