小国間の小競り合いにより、政宗とゆうは青葉城に戻っていた。

平定に向けた交渉が続く、ある日------・・・

政宗「ゆう・・・・・・ゆう、そろそろ支度するぞ」

「う、ん・・・・・・」

囁くように控え目な、低い声が響く。朝のせいか少し掠れた音にとくりと胸が鳴って、ゆっくりと目が覚めた。

「政宗・・・・・・おはよう」

政宗「おはよう。と言っても、まだ夜明け前だけどな」

(そういえば昨日話した時、早朝から軍議があるって言ってたっけ)

政宗「朝餉(あさげ)の時間までには終わるから、それまでは寝てろ」

「うん。日の出前は空気が冷えるから、気を付けてね」

政宗「誰に言ってんだ。生まれも育ちも日ノ本随一の雪国だぞ?」

「ふふっ、そうだった」

茶化して笑う政宗につられながら、掛け布団退けて体を起こす。

「貸して、政宗」

政宗「ああ、今日も頼む」

見慣れた眼帯を差し出されて、受け取ろうと手を伸ばすと------

「ひゃ、っ!」

起き抜けで温かくなっている手のひらを、ひんやりした政宗の指先につうっとなぞられる。慌てて手を引っ込めようとすると、眼帯を持ったままの手で、器用に引き寄せられた。

・・・・・・、ん」

手の甲に押し当てられた唇の感触に、自然と吐息が漏れる。

政宗「これ以上は止まらなくなるから、な?」

「っ、もう・・・・・・」

意地悪っぽく笑う政宗を怒ろうにも、高鳴る鼓動と熱くなった顔を自覚してしまって言葉が出ない。今度こそ眼帯を渡されて、布団の傍らに膝をついた政宗の顔が近付く。
(相変わらず、かっこいいなぁ)

刀傷が走る閉ざされた瞼を指先でそっと撫でると、私を見つめるもう片方の瞳が緩む。数度瞼を撫でてから眼帯を当てると、政宗の長い指がずれないように押さえてくれた。

「そのまま押さえててね」

政宗「ん・・・・・・」

眼帯を留めるための紐を結ぼうとして動くと、私に合わせて政宗が更に距離を詰めてくる。気恥しさをこらえて、まるで政宗の頭を胸元に抱き込むような形で紐の端を結んでいく。平常心を意識しようと努力しても、それを崩そうとするみたいに政宗が額を擦り寄せてくる。甘えるような仕草に胸がうずいて、集中力が乱される。二回も失敗して結び直していると、笑い交じりの声が聞こえてきた。

政宗「どうかしたか?」

「なんでもない・・・・・・!」

政宗「ふーん? ならいいけどな」

(絶対分かって言ってる!)

やっと綺麗にできた結び目を指先でなぞって確かめてから、密着していた体を離す。

政宗「終わったか?」

「うん。できたよ、政宗」

政宗「ありがとな、ゆう」

「ん、っ!」

柔らかく触れ合った唇が、夜明け前の冷えた空気には熱いくらいの名残を乗せていく。

政宗「------良し、今日も完璧だ」

甘い表情を見せていた顔は、すっかり伊達家当主の顔付きをしていた。

「そんなに見つめてどうした?起きてるならもう少し着込まねえと風邪ひくぞ」

「えっ、あ、うん」

政宗「なんだ、見惚れてたか?」

・・・・・・それもあるけどその眼帯、政宗と一緒の日はすっかり私が着ける役になったなぁと思って」

政宗「そうだな。自分で着けると、どうにも気が引き締まらねえ」

身支度の仕上げとばかりに、政宗が懐へ大切そうに一枚の絵を忍ばせる。
(あの時私があげた絵・・・・・・本当に、今でも大事に持ってくれてるんだもんなぁ------そういうところも、好きで好きでたまらない)

本編のあの絵かな?(๑♡ᴗ♡๑)

政宗「ゆう」

「うん?」




政宗「俺はな・・・・・・お前に送り出される朝が、たまらなく好きだ」

別れる前から早く帰ってきて欲しいと思っている自分に気付いて、かあっと顔が熱くなった。

政宗「・・・・・・ゆう」

「え? っ・・・・・・ぁ、ん!」

火照る頬をゆっくりと撫でて、私を見つめる政宗の左目と視線が絡み合う。確かな熱が宿った青い瞳に魅入られている間に、腰を抱き寄せた政宗に深く唇を奪われた。

政宗「そんな顔されると、今すぐ褥に(しとね)に戻りたくなるだろ?当主としての務めを怠る気はないが・・・・・・その分、夜は覚悟しておけよ?」

「わ、分かった・・・・・・っ。こうして送り出す分、今日もちゃんとお出迎えさせてね?」

政宗「ああ、もちろんだ」

「いってらっしゃい、政宗」

政宗「------いってくる」




屈託のない笑顔を私に向けて、政宗の------そして私の一日が、甘やかに始まっていく。