秀吉「今夜はいつにも増して賑やかな宴だったけど、疲れてないか?」

「ううん、みんなの気持ちが嬉しかったし楽しかったよ」

秀吉「そうか、よかった」

婚姻を結んだ秀吉さんと私のために、安土城のみんなが盛大な祝いの宴を開いてくれた。楽しかった宴もお開きとなり、御殿の部屋に秀吉さんと戻って寝支度を整えた。

秀吉「このあとは、俺とお前のふたりきりだな」

いつものように優しく髪を撫でながら、秀吉さんが微笑む。

「うん・・・・・・」

夫婦で初めて迎える夜であることを意識して、思わず視線を伏せる。ふと頭上から、小さく笑う声が聞こえた。

秀吉「固くならなくても、お前はいつも通りにしてていいんだぞ」

「いつも通り?」

秀吉「好きなだけ俺に甘やかされていればいい」

「うん・・・・・・ありがとう。秀吉さんの気持ちは嬉しいけど、私も同じ気持ちだよ。秀吉さんにも、甘えて欲しい」

秀吉「俺がお前にか?」

「だって秀吉さんこそ、疲れてるんじゃない?」

宴の席で秀吉さんは主役として挨拶に回り、緊張する私のこともずっと気に掛けてくれていた。

「今日からは、ちゃんと正直に言ってくれなきゃ駄目だよ。私は秀吉さんの・・・・・・妻、なんだから」

秀吉「ゆう・・・・・・そうだな。妻のお前がそう言うなら、少しだけ甘えさせてもらおうか」

「本当?じゃあ、良かったらマッサージ・・・・・・体をほぐしてあげるから、ちょっと横になって」

秀吉「ああ、頼む」

幸せな気持ちで秀吉さんの大きな背中を押していると、

ウリ「キキッ」

秀吉「ん? ウリか」

どこからか走ってきたウリが秀吉さんの背中に飛び乗り、私の真似をするように小さな手を動かす。

「ふふ、ウリも、秀吉さんが疲れてたの見破ったみたいだね」

秀吉「そうかもな」

それからも他愛ない話をしながら、ウリと一緒にマッサージをして、少し経った頃------

秀吉「ありがとな、ほんとに疲れがとれた。でもその分、お前の手が疲れただろ」

「ううん、私は大丈夫」

きっとこの世の誰よりも幸せを噛みしめている特別な夜なのに、いつもとそんなに変わらない日常が心を温める。ささやかな今のひと時が、かけがえのないものに思えて、そっと秀吉さんの背中に頬を寄せた。

「秀吉さん、これからもずっとよろしくね」

秀吉「ああ、もちろんだ」

寝転んだまま秀吉さんが私に向き直り、胸の中に包まれる。




秀吉「今まで以上に、お前を大事にしていく」

(秀吉さん・・・・・・)

秀吉「お前が疲れた時は、必ず俺が支える。それから・・・・・・俺が疲れた時は、ちゃんとお前を頼らせてもらう。ゆうがもう心配しなくていいように」

「うん・・・!」

秀吉「これからもずっと、互いを想い合って一緒に歳を重ねていこうな」

「うん、ずっと・・・」

手のひらが頬に添えられて、どちらからともなく唇が触れ合う。ほのかな甘い香りに包まれながら、愛しさと懐かしさで、胸が焦がれた。
(いつの間にか、この香りがそばにあることが当たり前になってたな)

一緒に歳を重ねるということは、こういうことなのかもしれない。愛する人の一部がどんどん自分の中に積もり、すべてが愛おしくなっていく。

「秀吉さんの全部が・・・大好き」

秀吉「・・・俺も、お前の全部が愛しい」

そっと着物の襟もとを暴かれて・・・・・・壊れ物に触れるように、秀吉さんの指が肌をなぞった。
(あ・・・・・・っ)

同時に首筋に口づけを落とされて、つま先まで甘い痺れが走る。

秀吉「この世で一番、お前が可愛い」

(・・・・・・とろけてしまいそう)
今までの日々も、これからの日々も、心から大事にしていきたい。秀吉さんの腕の中で熱に浮かされながら、そう強く思った。