そして、私と幸村が広間に向かうと------
政宗「久しぶりだな、ゆう」
「政宗!?」
幸村「何でお前がここに・・・・・・!」
政宗「何でもなにも、上杉も武田も・・・・・・一応は同盟関係だろ」
幸村「だとしても、お前が春日山城まで何しに来るってんだよ」
「それは・・・・・・なあ?ゆうにどうしてもってお願いされたんでな」
政宗!煽るなーー!でもそんな政宗がすき♡
幸村「は・・・・・・?」
「誤解を生みかねない言い方になってるよ、政宗・・・・・・!」
政宗「そうか? 事実は事実だろ」
慌てる私を意に介さず、政宗はにやにやと笑って見せた。
この笑顔、想像つく。だからこそ、
スチルが欲しいーー!
(絶対楽しんでる・・・・・・!)
政宗「まあ、冗談はこれくらいにして・・・・・・ほら、頼まれてた物だ」
政宗は、懐から小さな桐の箱を取り出し、私に手渡してくれる。
幸村「何だ? それ」
「ええと・・・・・・前に話してた、頼まれた物に必要な材料だよ。あまり春日山城では見かけない物だから、お願いしてみたの」
幸村「ふうん・・・・・・?」
「ありがとう。でも、わざわざ政宗が届けに来てくれるとは思わなかったな」
政宗「他の連中も来たがってたが、今回は俺が代表だ。とはいっても・・・・・・届け物とは別に、今回俺が来た用がもうひとつある」
「ん?」
政宗「俺と手合わせしろ------真田幸村」
幸村「は!?」
やっぱり。。。政宗らしいな。。。
政宗「秀吉を筆頭にお前を心配してる連中が多すぎてな。誰が行くかでかなり揉めた。まあ、ゆうが心配って気持ちはわかるが・・・・・・俺には別の目的があってな」
幸村「別の目的だと?」
政宗「ああ。武田上杉が織田と同盟を組んだことで、張り合いのある相手が減っただろ。どうにも暴れたりねえ。それなら、これは好機だと考えたわけだ」
笑みを深める政宗に、嫌な予感が過ぎる。
政宗「秀吉達には『ゆうを任せられるか確かめてくる』と話して丸め込んだが------こっちとしては、腕試しそのものが本命だ」
(滅茶苦茶だよ・・・・・・!)
幸村「安土の奴等にゆうの保護者面されるのは癪(しゃく)だけどな・・・・・・ただの腕試しってんなら------受けて立つ」
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そうして、ふたりは竹刀で手合せをすることになってしまった・・・・・・
「怪我とかしないようにね?」
政宗「手合わせだろうが真剣だろうが、戦で手を抜くわけにはいかねえな」
幸村「当然だ。全力を見せなきゃ意味がねえ・・・・・・!」
私の心配をよそに、一気に踏み込んで距離を詰めた幸村の突きを、政宗がいなす。竹刀なのに打ち合うたびに重い音が響いて、鼓膜がビリビリと震えた。
(ふたりとも、すごい・・・・・・!)
そして------
幸村「・・・・・・っ!」
政宗「ち・・・・・・っ!」
ひと際強く打ち合った拍子に、互いの竹刀が同時に弾き飛ばされた。
政宗「これは・・・・・・」
幸村「・・・・・・引き分け、か」
政宗「そうだな。互いに慣れた得物でもなかった以上、納得の決着か」
「引き分けの場合って・・・・・・?」
政宗「次が腕試しか、戦場での真剣勝負かはわからねえが・・・・・・まあ、勝負は持ち越しだな」
「よかった・・・・・・!」
(『勝敗がつくまで続ける』とかだったら、絶対大怪我になってたよ・・・・・・)
幸村「持ち越しはいいとして、安土の奴らにはどう報告するつもりだ?」
政宗「ああ、一応秀吉達にはお前の腕は鈍っていなかったと伝えておくが・・・・・・今後少しでも腕が鈍ろうもんなら、あいつらも黙ってないと思うぞ」
幸村「過保護すぎだろ・・・・・・」
「そ、そうだね」
苦笑いする私たちのそばで、政宗が大きく伸びをする。
政宗「さて・・・・・・久々に骨のある相手とやり合えて満足だ」
「もう帰るの?」
政宗「長居すると秀吉の質問攻めの量が増すのと、暴れに来ただけだとバレかねないからな・・・・・・ゆう。届けたもん、ちゃんと渡してやれよ?」
「っ、うん!」
意地悪っぽく笑って、政宗は去って行った。
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そして、夜になり------
幸村「怒涛の一日だったな・・・・・・」
「すごく、濃かったね・・・・・・」
政宗が帰ったあとは広間で幸村の誕生日を祝う宴が開かれ、ようやく部屋でふたりきりになれた。
幸村「そういえば・・・・・・政宗の奴が最後に言ってたの、どういう意味だよ」
(あれ・・・・・・?)
「幸村、怒ってる・・・・・・?」
幸村「別に、怒ってねー」
(安土のみんなと連絡をとったこと、怒ってるのかと思ったけど。この反応って・・・・・・もしかして嫉妬してくれてた、のかな?)
「あのね、幸村」
胸の奥が温かくなるのを感じて、私は用意していた物を取り出した。
幸村「これ・・・・・・」
「うん、六文銭。お守りになったらと思って、私が作ったの」
ひとつも欠けることなく、銭が連なるその紐の先に------今日政宗から受け取ったばかりの物を通す。
幸村「・・・・・・!」
私の手元を見た幸村の目が、かすかに見開く。安土のみんなに頼んでいたのは、紐を通せるように穴の空いた、赤い珊瑚(さんご)玉だった。
「幸村に似合う色だし、魔除の意味がある石って聞いて・・・・・・でも異国から入ってくる物がほとんどだから、安土から届けてもらったんだよ」
幸村「ゆう・・・・・・」
「六文銭が幸村の覚悟の証ならこの贈り物が・・・・・・幸村と生きていくって、私の覚悟の証」
告げた想いをそのまま贈り物に込めて、珊瑚玉を通した先を固く結ぶ。
「------はい、幸村」
完成した六文銭を差し出すと、幸村はそれごと、私を強く抱き締めた。
幸村「・・・・・・ありがとな、ゆう」
嬉しさが胸を焦がし、腕の中で幸村を見上げた。
「うん・・・・・・、誕生日おめでとう」
幸村「ああ・・・・・・最高の誕生日になった」
くしゃりと笑った幸村が、そっと互いの距離を詰めた。
幸村「愛してる------」
「私も・・・・・・ずっと、愛してるよ」
私たちの覚悟を聞き留めたように、六文銭がふたりの間でかすかに揺れる。決して離れ離れにならないよう、強く抱き締めながら、口づけにすべての想いを溶かした。