元就「拒否するわりには、随分と揺れてたように見えたんでな」
光秀「・・・・・・ああ、それは・・・・・・」
刀が鞘から抜き放たれ、研ぎ澄ましたような光秀さんの眼光が、鋭く元就さんを貫く。
光秀「怒りという、余計な感情を消化していただけだ」
光秀さんの言葉を聞き、安堵感が募った。
元就「お前がそう言うなら仕方ねえな」
元就さんも躊躇なく抜刀し、ふたりが向かい合う。尖った刀の先端に息を呑んだ次の瞬間------
(わっ!)
瞬く間にふたりの間合いが詰まり、甲高い金属音が耳をつんざく。
(光秀さん・・・・・・どうか、負けないで・・・・・・!)
言葉を挟む暇はなく、ただただ祈るように激しい鍔迫り合い(つばぜりあい)に見入った。一撃を刀で受けた元就さんが、余裕な笑みを浮かべる。
元就「へえ、冷静沈着な織田の狐も、感情的になるもんなんだな」
光秀「ああ、血の通った人間なのでな。だが------そのような提案で感情を乱すとは、相当元就殿の策に参っているらしい」
元就「はっ、それはどうも」
言うと同時に、元就さんが力強く光秀さんの刀をはねのけ、ふたりの距離が大きく開いた。どうせ相容れないならはっきり言っておく。信長はいずれ、お前の期待をまんまと裏切るぜ」
(っ、どうしてそんなことが言えるの・・・・・・!?)
光秀「だから何だ」
挑発めいた発言を受けても、光秀さんの表情は曇らない。
元就「へえ、すでに諦めてるのか?」
光秀「いや。もしも俺があの方に切り捨てられることになろうと、構わないということだ。いずれ日ノ本を導くであろうお方のために暗躍し続け、その結果命を落とすことになったとしても、それは誰でもない、俺自身で選んだ道だ」
元就「そうか、随分ご立派なこといいじゃねえか。でもよ・・・・・・」
元就さんが一気に走り込み------
光秀「・・・・・・っ」
かわす余裕も与えずに、光秀さんを追い詰めた。
元就「お前の太刀捌きは悪くねえ。俺の攻撃を巧みに受け流しながら、ずっと隙を窺ってやがったな?だが、ここまで追い詰められたら、さすがのお前も終いだ」
ぎりぎりと、刃が削れる音が、離れた場所にいても聞こえてくる。
(・・・・・・大丈夫。光秀さんなら、絶対に・・・・・・)
木の陰から見守りながら、震える拳を握り締めた。
光秀「・・・・・・っ」
すると、光秀さんと視線がぶつかって------その瞳が、わずかに優しく細められる。
光秀「・・・・・・『構わない』わけなどないな」
元就「あ? 何独り言吐いてやが・・・・・・、っ!?」
光秀さんが勢いよく刀を弾き返し、その切っ先が元就さんの腹部を斬りつけた。
元就「ぐ・・・・・・っ、てめえ・・・・・・」
よろめく元就さんを前に、光秀さんはすぐさま体勢を立て直す。
光秀「やはり、先程の言葉は撤回しよう。俺は自分の命が惜しい。失えば、この上なく愛おしい小娘が悲しむのでな」
こんなこと言われたら➰😍😍😍(〃♥^♥〃キャャャア)
静かに一歩ずつ、光秀さんが距離を詰めていく。
光秀「信念と想いを守るために、己の不完全さを噛み締め・・・・・・逆境に抗うことこそが、俺の貫くべき道だ」
(っ、光秀・・・・・・さん・・・・・・)
光秀さんの内に秘めた強さと、自分に向けられた想いの深さが、胸を震わせた。
(やっぱり光秀さんは強い人だ。私が知る、誰よりも)
強く確信しているそばで、元就さんの舌打ちが響く。
元就「仕方ねえな」
元就さんは馬を呼び寄せ跨ると、颯爽と木々の中を駆けて行った。その背中を見届けただけで、光秀さんは刀を鞘におさめる。
「あの・・・・・・いいんですか?」
光秀「ああ。深追いするよりも、今は戦場に戻るべきだ。一刻も早く戦況を立て直さなければ・・・・・・元就の言っていた通りになってしまうからな」
「光秀さん・・・・・・」
心なしか焦っているようにも感じて、私は光秀さんの手をそっと握りしめた。
「どんなに頭の良い人だって、結末を的確に言い当てられるわけありません・・・・・・光秀さんなら、大丈夫です。さっきの元就さんの発言は、あくまでその『可能性がある』ってだけでしょう?」
光秀「ゆう・・・・・・」
手を離さずに、光秀さんをまっすぐに見上げる。
「それに・・・・・・これまでだって、何度もその可能性を努力で打ち消してるじゃないですか」
心に、先日の書庫で見た、一心に書物を読む光秀さんの姿が浮かんでくる。
(・・・・・・ううん、あの時だけじゃない。これまで、光秀さんが私に教えてくれた全部が、光秀さんの努力の証なんだ)
この時代に来たばかりで何も持っていなかった私に、勉強や乗馬をわかりやすく教えてくれた。それほどうまく人に教えられるまで、光秀さんは、いくつの夜を乗り越えたのだろう。
「何でも完璧にこなす光秀さんは、はたから見れば天才って呼ばれるような人に見えるかもしれません。でも・・・・・・その才能は全部、努力して花開いたものだと思ってます」
私は浮かんでくる大きな気持ちを、必死に言葉に変えた。
(だから、好きなんだ。人のために沢山のものを積み上げられる、この強い人のことが)
すると、光秀さんの眼差しが、だんだんと穏やかさを帯びていく。
光秀「・・・・・・お前は、よく俺のことを見ているな」
「はい。そんなの、当たり前じゃないですか。完璧な光秀さんも、そうじゃない光秀さんも・・・・・・大好きだから、目が逸らせないんです」
光秀「そうか」
笑顔で伝えると、光秀さんもふっと笑みをこぼした。
光秀「ならば・・・・・・お前が見ている限り、俺はその良い印象を覆すわけにはいかないな。まずは、この戦いを諦めず、我が軍を勝利へ導いてやろう」
その目が自信に満ちていて、嬉しくなる。
「すでに策があるんですか?」
光秀「ああ。元就は逃げたが、深手を負っている。つまり、このあとの指揮を取れる可能性は極めて低い。どれだけ緻密に練られた策であろうと、それ以上形を変えられないのであれば意味がない。そこを突いてやる」
「! なるほど・・・・・・」
(たしかにいい策があったとしても、それを受け継げる人がいなければ隙が出来るはずだ)
「'わかりました。すぐに戦場にもどりましょう・・・・・・!」
光秀「ああ」
(あとは・・・・・・)
込み上げてくる想いをそのままに、私はもう一度、光秀さんを見つめた。
「あの、光秀さん」
光秀「・・・・・・!」
動きを止めた光秀さんに、私からキスをする。
「勝利を収めたら、って言ってましたけど・・・・・・先払いしておきます」
光秀「ほう・・・・・・随分と大胆なことをしてくれるようになったな。ならば、勝利を収めた暁には、これ以上の褒美を貰えると期待しておこう」
「え・・・・・・!?」
(そ、そう返されるとは・・・・・・)
意地悪い微笑みを向けられ、胸を高鳴らせていると・・・・・・
光秀の家臣1「光秀様! ゆう様!」
蹄の音が聞こえて来て、馬に乗った家臣たちが駆けつけて来た。
光秀「おまたち、無事だったか」
光秀の家臣1「はっ! 先の奇襲で負傷した兵もおりますが、被害は最小限に抑えられました」
光秀の家臣2「光秀様、この状況をどう立て直すかについてですが・・・・・・」
光秀「何、焦らずとも良い策がある」
落ち着き払った声に、家臣たちが目を瞬かせる。
光秀「己が優位にあると確信した人間には隙ができ、まさか同じ目にあうだろうとは考えないものだ。一気に懐へ斬り込みに行けば良い。そして、そのまま体勢を崩しにかかる。偶然にも、このあたりの地形は、面白いことになっていてな。かつてこのあたりの村の者が、戦時の強奪や人攫いから逃げるため山中に逃げ道を作っていたらしい」
(逃げ道・・・・・・?)
ふと、本で見た地図の上に描かれた丸印を思い出した。
(もしかして、あれが・・・・・・)
考えている間に、光秀さんが自分の馬を呼び軽々と跨る。
光秀「お前たちはゆうを頼む。すぐに安全な場所に移動させろ」
光秀の家臣1「はっ!」
光秀「では、お前はいい子で待っていろ」
「はい。いってらっしゃい!」
いつもの余裕げな笑みを見せ、光秀さんは蹄の音とともに木々の間に消えて行き------軍配が織田軍にあがったという報せが入ったのは、日が沈むよりも前のことだった。
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その夜、兵たちからたくさんの賞賛の声を浴びながら、光秀さんは早々に天幕の奥へと私を誘った。
「あの・・・・・・良かったんですか?もう少し勝利の余韻を楽しんだりは・・・・・・」
光秀「なるほど、そうして俺に我慢をさせる気か?」
「・・・・・・え?」
床几に座る光秀さんの膝に、横抱きになるように抱き寄せられる。
光秀「言っただろう。勝利を収めたら、口づけ以上の褒美を貰えるときたいしている、と」
(たしかに言われたけど・・・・・・っ)
まだ心の準備がまるで出来てなく、膝の上で固まってしまう私に、光秀さんが口づけを落とした。
「・・・・・・っ、ん」
薄く形の良い唇が、焦らすように首筋を撫でていく。体温が直に伝わってきて、それだけで鼓動がとくとくと速くなった。
光秀「・・・・・・ゆう。今回は、情けないところばかり見せたな」
首に顔を埋めながら、不意に光秀さんが小さく呟く。
光秀「だが、お前の言葉に救われた。どんなに情けなくても、諦めてはならないとな」
(情けない、なんて・・・・・・)
彼の背中にそっと腕を回して、私は首を横に振った。
「光秀さんは情けなくありません。今日のことがあったから、もっと好きになりました。恋に盲目になっているだけだと言われるかもしれませんけど、それでいいと思ってます。努力している姿も、意地悪なところも・・・・・・光秀さんが、情けないという姿さえも全部が光秀さんだから、私は信じられるし、愛しているんです」
光秀「情けない俺も好いているのか?」
「もちろん、そこもかっこいいです」
光秀「・・・・・・本当に盲目だな」
言葉が気の抜けた笑い声に変わり、光秀さんの腕にきつく抱きしめられる。その温もりが心地よくて、愛おしくて、胸の内側を焦がしていった。
「・・・・・・でも、初めに完璧でない私を受け入れてくれたのは、光秀さんですよ。だから盲目はお互い様です」
これ、点数高いよね。。。でもね、あんまり男を甘やかしちゃだめよ。私の過去の経験からするとダメ男になってっちゃうのよ。男は安心しきっちゃうと、甘えすぎちゃう生き物だからね。甘えすぎから、ダメ男へまっしぐら(笑)
限度とか、ボーダーラインをひけない生き物💦
あ、それは現代の男だけか。。
戦国武将は、男の中の男だもんね😅
光秀さんは大丈夫かー♡
光秀「ああ・・・・・・確かに、お前の言う通りだな。お前が俺のすべてを愛するというなら、余裕をなくした俺も愛せるのか?」
「え・・・・・・?」
いつになく真剣に見つめられ、鼓動が速まる。
光秀「お前が頷けば、俺はいつも自分にはめている枷を、少しだけ外してやる。情けない姿も気にせず・・・・・・思いのままに、お前を愛するためにな」
(そんなこと言われたら・・・・・・頷くしかなくなるよ)
「そうしてください。どんな光秀さんも、愛していますから」
光秀「俺も同じだ。どんなお前も、愛している」
(光秀さん・・・・・・)
たった一言でこんなにも苦しくなるのに、手放しで愛されたらと思うと、身が持ちそうにない。そんな小さな恐れさえ取り払うように、もう言い訳もさせてもらえず、唇が重なった------
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《ふたりの甘いひとときの続きは・・・・・・》
枷を外すと決めた光秀が、ありったけの想いをあなたへ注ぐ------
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光秀「悪いが、今日は譲歩してやる気はない。すべて受け入れろ」
羞恥心などかき消すように、熱い手が素肌を滑り・・・・・・
光秀「可愛いお前をどうしてやろうか、考えていただけだ」
意地悪も、包み込むような愛情も、彼のすべて。あなたはそんな彼を受け入れ、夜闇と共に溶けていく------