光秀「待たせたな、ゆう」
「光秀さん・・・・・・!」
たったひとりで、光秀さんは男達の前に姿を晒していた。
(こんな危険な場所なのに、助けに来てくれたんだ・・・・・・)
光秀「その娘は返してもらうぞ」
男2「まさか本当に現れるとはな」
男1「恋仲の女を奪われてのこのこやって来るとは、明智光秀も大したことねえな」
光秀「そんなことはない」
男2「何・・・・・・?」
光秀「命を賭けてでも、本当の笑顔が見たい------そう思う女に出会えば、お前達にだっていつかわかる」
「・・・・・・っ」
私を見つめる光秀さんの瞳はどこまでも優しく、それでいて切ない光を宿している。
(恋仲になる前に、光秀さんが私に向けていた瞳に似てる・・・・・・やっぱり・・・・・・記憶がなくなったって、すべてが消えたりはしない)
何があっても光秀さんと無事に帰るのだと、私は改めて決意した。けれど、私が人質にとられている限り男達の優位は崩れない。
(何か方法は・・・・・・っ、わ)
不意に男に引き寄せられて、まじまじと顔を覗き込まれる。
「・・・・・・っ」
男2「へへ・・・・・・この女、なかなかの上玉じゃねえか」
男1「アイツを片づけたら愉しませてもらおうぜ」
光秀「・・・・・・」
品定めするように私を見る男達へと、光秀さんが静かに銃を構えた。その動きに気づいて、男達も私の首筋に刀の刃を近づける。
「く・・・・・・っ」
(下手に暴れたら、切り傷じゃ済まない。どうしよう・・・・・・っ」
男1「無駄だ。この距離じゃそんなモンが届く前に女の首が飛ぶぞ」
男の脅しを受けても、光秀さんは穏やかな表情のままで口を開いた。
光秀「------ゆう。ずいぶんと・・・・・・嫌な思いをさせると思うが、お前に話すことがある」
「え・・・・・・?」
光秀「御殿に帰ったら、聞いてくれるか。『今』の俺の想いと一緒に」
「光秀さん・・・・・・」
(私に関する記憶がないことを、きちんと話してくれるつもりなんだ。それに・・・・・・記憶のない『今』の光秀さんが、私をどう想っているのかも・・・・・・)
向けられる光秀さんの瞳に希望にも似た温もりを感じて、私は小さく頷いた。
「・・・・・・何があっても、私は光秀さんを愛しています。絶対に、ふたりで帰りましょうね」
光秀「こんな時でも、お前は目を閉じて怯えたりはしないんだな」
「------ある人が、自分が置かれた現実をみることの大切さを教えてくれたんです。だからどんなに怖くても、目を開けておかないと・・・・・・今ここは、私にとっての戦場ですから」
光秀さんの中からなくなっていたとしても、これまでの日々や教えてもらったものは私の中にある。
(私に出来ることは、この想いを貫くことだけ・・・・・・!)
光秀「・・・・・・そう、か。そうだったな」
僅かに目を見開いた光秀さんが小さく呟くけれど、この距離では上手く聞き取れない。
「光秀さん・・・・・・?」
男達の殺気や向けられる刃に指先が震えて、気を抜くと目を閉じてしまいそうになる。ぐっと恐怖を押し込めながら、光秀さんを見つめていると------
光秀「------ああ。俺も愛している、ゆう。まったく・・・・・・良い『愛弟子』を持ったな」
いつもと同じ。何度も聞いた。それでも・・・・・・ずっと焦がれ続けて来た甘やかな光秀さんの、恋仲としての声が響く。
(もし、かして・・・・・・っ)
一気に視界が開けていくような、鮮やかな期待が胸に込み上げる。けれど、光秀さんの瞳は私ではなく、私を捕まえている男のほうに向けられていた。
(っ・・・・・・あの言葉も、この視線にもきっと意味がある。私に今、出来ることは・・・・・・光秀さんを信じることだけ!!)
------ヒュッ
男1「っ、なんだ・・・・・・!?」
私に刃を向けていた男の刀に、不意にどこかから石が投げつけられる。
(っ、今しかない・・・・・・!)
刀が遠ざかった隙を突いて、私は男に体当たりをしてから走り出す。
男1「このっ、待て女ァ!」
「・・・・・・っ」
足がすくみそうになるほどの怒号を背にしても、光秀さんだけを見て私は走った。
------パンッ
銃を構えた光秀さんが、私を援護するように引き金を引く。
(光秀さんを信じて、絶対に振り返らない・・・・・・っ!)
男2「構わねえ!女のほうから片付けろ!」
男1「逃がさねえぞ!」
殺気と足音が迫ってくるのを感じても、私は無我夢中で足を動かした。
------ボンッ
すると、背後から突然破裂音が響いて周囲が煙に包まれていく。
(っ、え・・・・・・!?)
男1「煙玉!? いつの間に増援・・・・・・っ、が!」
男2「おいどうした! 何が起き・・・・・・ぐぁ!?」
あっという間に私も周りの景色も煙に飲まれ、混乱で思わず足が止まってしまう。
(何が起きてるの?)
「きゃ・・・・・・っ!」
背後から私を抱き締める腕に驚くけれど、冴え冴えとした香りの匂いに鼓動が跳ねる。
(この匂い・・・・・・っ)
光秀「怖い思いをさせてすまなかったな。もう大丈夫だ」
「光秀さん・・・・・・!」
光秀「いざという時のために、援護の兵を近づかせておいた」
「そう、だったんですか?」
気づくと周囲から男達の声は消えていて、煙が晴れるとそこには男達が倒れていた。
「音もなく倒しちゃうなんて・・・・・・すごい」
光秀「ああ・・・・・・。本当に、優秀な男だ」
「え・・・・・・?」
どこか含みのある光秀さんの言葉に首を傾げていると、足音が近づいて来る。
蘭丸「ゆう様! 光秀様!」
「蘭丸くん!?」
蘭丸「信長様から、もしもの時は援護をするようにって言われて来たんだ♪︎」
↑↑↑ねえ、この♪︎マークはなぁにー?サイバードさん~😅
正直吹いた💦
「あれ、じゃあ・・・・・・この人達を倒したのって・・・・・・」
蘭丸「えへへ、まあね! 俺はゆう様が傷つくのも悲しむのも、見たくなかったから」
「そうだったんだ・・・・・・。でも、蘭丸くんも無事でよかった」
蘭丸「もう、ゆう様! それはこっちの言葉でしょ?」
「そ、そうでした・・・・・・」
光秀「そうだな。愛しい連れ合いを無事に取り戻せて何よりだ」
蘭丸「光秀様・・・・・・やっぱり光秀様は、ゆう様のこと大好きなんだね」
光秀「当然だろう。何が起きようとも、手離すはずがない」
「・・・・・・っ」
蘭丸「あはは! でも、おふたりが無事で良かったよ。・・・・・・本当に良かった」
「蘭丸くん・・・・・・」
光秀「ともあれ、これで決着はついたな」
蘭丸「信長様への報告や男達の回収は任せて!ゆう様は疲れてるだろうし、このまま光秀様と一緒に御殿に戻ったほうがいいよ」
「え? でも・・・・・・」
光秀「正式な報告は明日行うと蘭丸に伝えてもらおう。それなら良いか?」
「わ、わかりました」
こうして、私達は帰途へと着くことになった------
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夜も更けたころに、私達は御殿へと戻って来た。
「・・・・・・記憶、戻ったんですね」
光秀「ああ・・・・・・気づいていたんだろう。つらい思いをさせたな」
「え・・・・・・!? これまで通りに接してるつもりだったのに、まさかバレてただなんて・・・・・・」
光秀「今にして思えば、だ。お前の『本当の笑顔』を見たいと考えていたのは------向けられる笑顔が、心から求めるお前の笑顔とは違っていたからなのだろう」
「光秀さん・・・・・・」
(記憶がなくても・・・・・・やっぱり心のどこかに、ずっと残ってたんだ)
光秀「二度とお前を忘れたくはない・・・・・・あの恐ろしさは、とてもじゃないが生きた心地がしなかった」
「そんなに、ですか・・・・・・?」
私を見つめたままで、光秀さんが静かに頷く。
(あ・・・・・・っ)
強く抱き寄せられて、そのまま光秀さんの腕の中に閉じ込められた。
光秀「お前の存在を忘れることほど、恐ろしいものはない」
光秀「俺がこの世で唯一、失いたくないと願うのはお前だ。もう二度と手放さない。この記憶も、お前自身も」
愛おしさと喜びと、これまでの想いが次々に溢れていく。
「私も・・・・・・っ。私も愛しています、光秀さん」
涙となってこぼれていく激しい感情を抱えて、光秀さんに唇を重ねた。
光秀「ゆう・・・・・・」
「ん、ん・・・・・・ぁ」
控え目な口づけは次第に深まっていき、優しく褥(しとね)へと押し倒されていく。
光秀「想いも、記憶も・・・・・・決してもう離さないように、お前を刻み込ませてくれ」
「はい・・・・・・」
そばにいながらも離れていた時間を埋めるように、私達は強く互いを求め合った-----