光秀「寄って行くか」
「いいですか。ちょっと見たいものがあって」
光秀「ああ、ゆっくり見えばいい」
並んでいる品物の前にしゃがみ、茶器をじっくり眺める。ふと、綺麗な色の湯呑茶碗に視線が引きつけられた。
(すごく繊細だけど、落ち着いた色。光秀さんにぴったりだ。これなら喜んでもらえるかも)
店主に声をかけようとした時------
「・・・・・・!」
私より先に、光秀さんがずっと湯呑茶碗を手に取った。
光秀「店主。これを揃いでもらえるか」
「光秀さん?」
光秀「お前と揃いで使いたいんだが、問題でもあるか?」
(う、嬉しいけど・・・・・・! ここは譲れない)
「だったら、私がふたつ買います」
光秀「俺がお前にどうしても贈りたいんだが」
きゃ〜(๑♡ᴗ♡๑)キュンキュン♡♡って、ダメじゃんーー( ˃̣̣̥ω˂̣̣̥ )
「え・・・・・・」
光秀「俺の誕生日だろう? わがままを聞いてくれないのか」
微笑みと共に乞われると、胸がきゅっと甘く掴まれる。
(そんな嬉しいわがままを言われたら、断れるわけないよ・・・・・・!)
「・・・・・・ありがとうございます。お揃いですね」
光秀「ああ、そうだな」
光秀さんは、答えながら満足そうに私へと目元を緩めた。
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そのあとも、何件かお店を回ったけれど・・・
(プレゼントを買おうとするたび、阻止されてる気がする・・・!)
え?これキャバ買いじゃん❗
私がお財布を出すより前に、光秀さんはお前に似合いそうだと言って贈ってくれ、未だに贈り物は買うことができずにいた。
(茶屋のことを調べてくれてたのも、食事処でのことも・・・・・・やっぱり光秀さんは私を喜ばせようとしてくれてるんだ。光秀さんの気持ちは嬉しい。でも、今日は光秀さんの誕生日なんだから、私から行動を起こさなくちゃ)
どうしても喜ばせたくて、光秀さんを見つめる。
「あの・・・・光秀さん」
光秀「ん?」
(こうなったら、はぐらかされる覚悟で、直接欲しいものを聞こう)
「何か欲しいものとか、ありませんか?」
光秀「・・・・・・。誕生日祝いで、という意味か?」
光秀さんは足を止め、真剣な面持ちで私に聞き返す。
「はい。せっかく旅行に連れてきてくださったので、何か贈れたらって思って・・・・・・光秀さんの欲しいものを贈りたいんです。なんでも言ってみてください」
光秀「・・・・・・そうだな」
「あっ」
腰を引き寄せられたかと思うと、光秀さんの長い指が唇をすっとなぞる。
光秀「俺の欲しいものは、ここにあるな。買えるものではないが」
艶やかな笑みで囁かれ、心臓が高鳴った。
(それって・・・・・・)
光秀「これ以上言わずとも、何かはわかるな?それとも、はっきりと聞きたいか」
「・・・・・・み、光秀さん」
(こんな町中で・・・・・・!)
光秀「なんでもいいと言ったのはお前だ。誕生日なのだから、もちろん俺の一番欲しいものをくれるのだろう?」
逃げられないまま甘い声で問われると、頬が火照る。
「っ、それは・・・・・・またあとで、贈りますけど」
光秀「言質はとったぞ」
光秀さんは嬉しそうに口端を緩め、私を解放した。
「あ・・・・・・」
光秀「宿に帰ってからの愉しみにしておくとしよう」
(やっぱりはぐらかせれた・・・・・・手ごわすぎる・・・・・・光秀さんの口から欲しいものを聞くなんて、難易度が高すぎたかも。でも、諦めるわけにはいかない。なんとしてでもお祝いしたい。せっかく旅行にまで連れて来てもらったのに・・・・・・)
強い想いを抱き直していると、ふとある可能性にたどり着く。
(もしかして、光秀さんは・・・・・・最初から、私を喜ばせるために、旅行を計画してくれた・・・?そうだ、旅行に誘ってくれたときも・・・・・・)
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光秀「嬉しいなら問題ないな。こんなところで立ち止まっていないで早く帰るぞ。それとも、もう一度口づけをしてほしくて待っているのか」
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(気になったのは、あの時、光秀さんが話を早く切り上げようとしてたからだ。旅行まで手配してくれて、光秀さんは誕生日祝いを楽しみにしてくれてるかもしれないって思ったけど、本当は、私が喜ぶから色々してくれてるだけで、光秀さん自身は、お祝いされることにそこまで興味が無いのかもしれない)
私にとって、光秀さんが生まれてきてくれた大切で特別な日だからこそ、寂しい気持ちになる。
光秀「ゆう?」
ぐるぐる考えていた私を、光秀さんが心配そうに覗き込んできた。
「あ、何でもないです。ちょっとぼーっとしてました」
光秀「・・・・・・。本当にそれだけか」
(お祝いもちゃんとできてないのに、心配までかけちゃったら駄目だ)
「はい」
取り繕うように笑い、目に入ったお店を指さした。
「光秀さん、反物屋さんがありますね。寄ってもいいですか」
光秀「・・・・・・。ああ」
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ふたりで反物屋に入り、生地を眺める。
(どうしたら、光秀さんに誕生日祝いを喜んでもらえるんだろう。喜んでもらいたいな。喜ばせてもらうだけじゃなくて・・・・・・)
反物を選びながら考えを巡らせていると、ふと美しい染めものを見つけた。
(あ、この生地すごく綺麗・・・・・・お誕生日祝いとしてじゃなくて、旅行のお礼に何か作って渡すくらいならいいかなぁ)
反物を手に取りながら、何を作ろうかと考えていた時------
???「その反物、素敵な染めだね」
「え」
聞き覚えのある声にはっとして、振り返る。
義元「こんにちは。ゆう」
「義元さん! どうして・・・・・・」
光秀「・・・・・・」
偶然鉢合った義元さんに、私だけでなく光秀さんも驚いている。
義元「ただの物見遊山だよ、久しぶり」
義元さんは優美な笑みを湛え、おっとりと答える。
(こんなところで会えるなんて思ってなかったな。久しぶりに会えて嬉しいけど・・・・・・)
その反面、敵同士である光秀さんと義元さんの対面に少し緊張する。
(光秀さんは・・・・・・)
ちらっと光秀さんの様子を窺うと、すぐに笑みを顔に滲ませていた。
光秀「これはこれは。奇遇なこともあるものだな」
義元「そうだね光秀殿も元気そうで何より」
光秀「義元殿も変わりないようだ」
表面上でも笑顔で挨拶を交わすふたりを見て、とりあえず安堵の息をつく。
(・・・・・・お互い敵地でもないし、問題はなさそうかな)
義元「ゆう」
「え・・・・・・わっ」
当然伸びてきた義元さんのしなやかな手が、私の右手を優しくすくい上げる。
あちゃー😨義元さん、空気読んでよーー💦しないでしょ普通、しないしない。。
光秀「------・・・」
「あ、あの・・・・・・?」
義元「さっき、反物を見てる時、すごく悩んでるみたいだったから。何かあった・・・?」
気遣うように問われ、図星をさされたことに驚いた。
光秀「・・・・・・」
「ええっと・・・・・・そんなこと、ないです」
(私、そんなにわかりやすい顔してたのかな・・・・・・)
手に触れられていることはすっかり忘れて、義元さんの言葉に考え込んでいると・・・
光秀「ゆう、そろそろ疲れただろう」
「っ・・・・・・」
義元さんからやんわり引きはがすように、光秀さんの腕が私の腰を抱き寄せる。まるで見せつけるような態度に、心臓が騒いだ。
(光秀さん・・・・・・?)
光秀「日もじき暮れる。宿に行こう」
「あの、でも・・・・・・旅行の思い出になるように・・・・・・光秀さんにお誕生日祝いを選びたいんです」
光秀「そう想ってくれるお前の気持ちは嬉しい。だが・・・・・・お前と過ごす今が祝いだ。気にするな」
「光秀さん・・・・・・」
(そんなふうに言ってもらえるのは、もちろん嬉しいんだけど・・私は光秀さんに、喜んでもらえる何かをしたいのに)
けれど、これ以上は何も言えなくなってしまう。
反物買えないんかい。。。義元さん、タイミング悪いよー(。•́︿•̀。)
義元「・・・・・・」
光秀「では義元殿。そろそろ失礼する」
義元さんは気にしてないように、光秀さんへと柔らかく微笑んだ。
義元「うん。また。光秀殿の誕生日祝いの旅行だったんだね。おめでとう」
光秀「お心遣い痛み入る」
(光秀さん・・・・・・?)
光秀さんは、どこかぴりぴりとした鋭い空気をまとっているように思える。
ヤキモチだな、これは…
光秀「行くぞ、ゆう」
「あ、はい・・・・義元さん、また」
義元「またね、ゆう」
挨拶を終えると、抱かれている腰を促され、私達は店を出た。
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茜色に染まった町を、今夜泊まる宿に向かって歩く。
光秀「・・・・・・」
(光秀さん、義元さんからお祝いを言われてから口数も減った気がする・・・・・・お祝いを言われてもあんまり嬉しくなさそうだったし、やっぱりお祝いされることに興味がないってことなのかな)
お祝いされることに興味がない…というよりは、光秀さんは今、焼きもちで、煮えくり返ってるんだろがー。
光秀さんが今何を考えているのかわからなくて不安になる。
(もうすぐ宿に着いちゃう。結局、思い出になるような贈り物は買えなかったな。せっかく旅行に連れてきてもらってるんだから、私が光秀さんを喜ばせたいのに。私からは、全然喜ばせることができてない・・・・・・)
踏んだり蹴ったりの私。。。( ˃̣̣̥ω˂̣̣̥ )
思ったようにいかないことにもどかしくなっていると、光秀さんが立ち止まった。
光秀「ゆう」
「え?」
すぐそばの壁に背中が押しつけられ、耳の横にとんと付いた手で囲まれる。逃げ場を奪われながら、妖美な顔が私に迫った。
これは…まさかの。。。
「壁ドン」
ではありませんかーー!!!
光秀「何故そんな顔をしている。俺に言えない悩みでもあるのか」