成田空港。
ＪＡＬ７４６便は定刻通り１５：０５分に到着したが、機内は騒然となっていた。
乗客３人とキャビンアテンダント１人が忽然と機内から消えたのだ。
勿論、非常口に開閉の形跡はない。
もし万が一非常口の開閉があれば、急減圧で機内中の酸素マスクが落ちてくる。
静かに寝てる余裕もなくなる。
勿論、航行中にそんな現象は起きていない。
いたって静かなフライトだった。
着陸態勢に入る前、キャビンアテンダントが同僚が居ないのに気が付き、更にお客が３人消失したのに気が付いたのだ。

直ちに空港警備が強化され、空港への出入りが警察によって厳しくチェックされた。
が、３人と１人に該当する人物はどこにも引っかからなかった。
成田空港周辺の高速道路及び一般道にも検問が緊急配備された。
勿論、該当者の自宅や親戚にも警察官がすっ飛んで行ったが、誰も居なかった。
直哉の自宅で待っているはずのマリーも同じように忽然と消えていた。

 

 

「あらら、大変なことになってるわね。
　私達、まるで犯罪者みたい。」
伊豆。
海岸沿いのある別荘。
窓の外は海だ。
海岸から直立した崖の上に建っている。
遠くを大型のタンカーが海上を停まっているようにゆっくりと航行している。
潮の香りが部屋中を満たしている。
夕方の凪。
キラキラと光る海上をカモメが群れを成して飛んでいる。
イワシの群れを見つけ、急降下で水面下のイワシを嘴で捉えるとまた飛び上がっていく。
漁船が静かに海上を滑るように走っていく。

友達が所有する別荘。
時々、仲間同士で遊びに来ていた。
勿論、マリィも一緒に数回遊びに来ている。
マリィの姿は無い。
代わりにアイラとキャビンアテンダントのフィリピーナ。
そして、別室の布団には姪がすやすやと眠っていた。

 

あの時、アイラと一つに繋がり、未知のパワーを手に入れた私は、そのまま異空間を移動して、以前訪れたことのあるこの別荘へと辿りついた。
私の手に入れた能力。
それは別の異次元空間と自由に行き来できる能力。
その力で、地球上のどこへでも瞬時に移動することが出来る。
勿論、私と一緒なら同行者も一緒にワープが可能だ。

私が存在する次元のある範囲の空間と一緒に移動するので、同行者の体への負荷はほとんど無い。

この数時間で何度か移動を試してみた。
目に見える近距離から、見えない場所まで。
目に見える近距離の場所なら、危険はほとんどない。
体に受ける負荷もほとんど感じない。
目に見えない場所。
一度でも行ったことのある場所で、頭の中にイメージが出来れば移動は可能。
しかし、写真で見ただけの行ったことのない場所はどこに出現するかイメージが湧かないので、危険だ。
東京湾アクアラインの海ほたるを試してみた。
海上に浮かぶパーキングエリアだ。
まだ一度も行ったことは無い。
移動した瞬間、水の中でパニクった。
海のイメージが強く、海ほたるのすぐ横の海の中に出現してしまった。
海上に出て、失敗したことを悟り、すぐにワープを繰り返した。

出現した場所が海の中ならいいが、石の中なら動いた途端に即死。
これはウィザードリィ（有名な元祖ＲＰＧ、暗いダンジョンを徘徊する地味なゲームだが、世界中のパソコンゲームマニアの間で爆発的に流行した。初期のゲームはワイヤーフレームだけのもので、モンスターもちゃちではあったが、想像が世界を作った。）で遊んだことのある者なら身に染みて知っていることだが。
そのままじっと動かず、即座にワープすることで即死を免れることは出来る。
まさか現実の世界でそれを経験するとは夢にも思っていなかった。

 

「ねぇ、アマンプロに行かない？
　パラワンでもいいわ・・・・・。」
「無理だよ、まだ行ったことが無い。
　海の中で溺死したいかい？」
「いや～～、まだ死にたくないわ。
　こうして、せっかく貴方と新しいパワーの両方を手に入れたのに。」
（それは違う・・・・・
　まだお前の本当の姿を見ていないからな・・）
心の中でそう呟く。
ガウンを脱ぎ去り、目の前に跪くアイラ。
豊かな胸が脛にあたり、直後に強張りが熱い口の中に呑み込まれていく。
ゆっくりと動く彼女の頭に手を置き、さて、これからどうしようかとぼんやりと考えていた。