2016シーズンまとめ第3弾です。
第1弾ではシーズン前半戦第2弾では後半戦 をざっと振り返りました。
今回はそれらを踏まえて、石丸清隆監督がやろうとしていたサッカーとその結果を、チームの戦力面と合わせて考えたいと思います。



サイドハーフを軸としたショートパス主体の攻撃を志向


石丸監督の昨季から今季にかけてのチーム作りを見ていると、コンパクトな守備をベースとし、チームとしてボール保持を高め、ショートパスを主体として相手を崩していくサッカーを目指しているように感じました。

前線のポジションチェンジも好む方で、流動的に動きつつスペースを創り出し、相手の背後を突いていこうというところ。
当然選手のチョイスもそれを反映していて、特にキャンプを経たシーズン序盤には色濃く出ていました。
CBはパス出しに優れる菅沼駿哉と染谷悠太のコンビが第一選択肢。佐藤健太郎をDFラインに下げて3バック化し、相手の前線に対して数的優位を作りながらボールを運ぶ形もよくやっていましたね。

前線ではサイドハーフの動きが肝。
中盤の右サイドに左利き、左サイドに右利きの選手を配することが多く、中央に入っていく動きを多用します。
それに関連してFWがサイドに開いてボールを受け、空いた中央のスペースにサイドハーフが飛び込んでシュートチャンスを狙います。あるいは高い位置を取ったサイドバックとサイドハーフとの連携からクロスを上げ、逆サイドの選手が中に飛び込んでくるというパターンが基本。
つまり、フィニッシャーとしてサイドハーフに期待する部分が大きいわけで、今季のトップスコアラーに山瀬功治と堀米勇輝が名を連ねたのはある意味で当然でした。

一方、サイドでFWやサイドバックが受ける部分を上手く作れなければ、中央で選手が混雑してスペースを消すことにも繋がり、攻撃が詰まることも多く見られました。
これをうまく解消したのが中盤のサイド入れ替え。
つまり、右利きの山瀬(あるいはダニエル・ロビーニョ)を右サイド、左利きの堀米勇輝を左サイドに配置する形です。
導入経緯としては、ポジションチェンジを制限して守備をハッキリさせる目的が大きかったかと思いますが、攻撃面でも第一手目にサイドの幅をしっかり使うことが意識できたため、速攻も掛けやすくなり、前線の組み合わせともマッチして今季の最適配置と呼べるものになりました。

しかし元々の狙いとしては、逆足の選手をサイドに配する形で、中央突破が優先。
J2では引いた相手と戦うことも多いですし、石丸監督としてはなんとかそっちに持って行きたかったところでしょうか。
今季も夏頃に再度配置を入れ替えて攻撃にテコ入れを施そうとしましたからね。
プレーオフ後に「もっと攻撃的にやれれば良かった」という趣旨の発言をしていましたが、おそらくこの部分を詰めて行きたかったのでしょう。

ただ、今季の選手たちにこのスタイルがマッチしていたかと言うとそうも言えないところでした。
限られたスペースの中でボールを受けてパスを繋いでいくプレーを得意とする選手が少なかったため、最終的な局面の打開はエスクデロ競飛王、堀米、イ・ヨンジェらの個人技に頼る部分が多くなりました。
奪った得点にしても、サイドハーフが絡んだ狙いの崩しは実際には少なかったです。
ボールを保持するほどにチャンスを創れなかったところもありますし、決め切りたかったシーンも多かった印象ですね。



縦横にコンパクトな守備を徹底


守備の構築は石丸監督の得意とするところ。

ベースにあるのはDFとMFの距離を縦横に近く保ち、相手のアタッカーからスペースを奪うものです。
特に中央で自由にさせないことに主眼を置いていて、サイドにボールが出された時には全体がスライドしつつ、エリア内のスペースは常に消しておくことを意識。
その分、サイドハーフに掛かる負担は大きくなりますが、左右のスライドがしっかりできている時には相手にほぼ自由にさせないくらいに充実した守備を見せました。
昨季から大幅に失点を減らしたのも納得の出来で、石丸監督はこういうコンパクトな守備を短期間で仕込むのが上手いですね。
後方が自信を持って守れると、多少相手のペースであっても割り切れるところが出てきますし、今季のチームはそういった我慢できるという強みも出せていたのではないでしょうか。

一方で懸念材料として、前線の守備がありました。
ツートップは奪った後のカウンターに備えることが基本となっていて、前線からの守備タスクは軽め。
ほとんどプレスに行かないので、相手CBやボランチからすると割合自由にパスを出しやすい状況が多かったです。
そのためサイドチェンジによって、京都の守備陣が何度もスライドをしないといけない状況に陥りやすかったですね。
こういう状況ではなかなかDFラインも上げづらいですし、自然とラインも下がっていくことに。

結果から行くとDFラインが高い位置を取れている時ほど攻守の連続性が出て、良い試合になっていました。
本来はそういう形を増やしたかったとは思うのですが、攻撃との兼ね合いもあってか、徹底されないままとなっていました。
後方の8人で十分対応できている時には全体を押し上げることができ、攻撃にも相乗効果が出そうだったのですが・・・。
中盤の崩しに自信を持っていたり、競り合いに強いFWを有したりしている相手には、ラインを下げられてしまって後手に回ることが多くなったのは守備面の課題からくるものでした。
特に、最後の大一番であるプレーオフ準決勝でそこを突かれてしまったのは痛恨でしたね・・・。



攻守分断と層の薄さから来る引き分けの多さ


こういった攻守の特徴を持っていたわけですが、お互いに相互にリンクしづらいところがありました。

人数を掛けた攻撃をするためには当然、前に出て行かないといけない。
しかし一方で前線の守備が掛からない中でブロック守備を構成しようとするとどうしてもラインが下がって行きやすい。ラインを高く保つことができていたとしても、ボールを奪う位置自体は低くなってしまいがちで、最終ラインでどうにか処理することも多かったですね。
そうなると、一度ボールを奪っても前に出ていく距離が長くなるので、どうしても消耗しやすくなります。
ビルドアップを相当磨き上げないと前に運ぶのも難しいですし。
また、攻撃のキーマンであるサイドハーフの選手はかなりの運動量を要求されることになりました。

前に人数が掛けられない状況では、ツートップを目掛けた長いボールが重要な手段に。
ここで重要になったのがツートップの攻め残りでした。
サイドのスペースへの飛び出しに優れるイ・ヨンジェと、キープ力と突進に優れるエスクデロが前線で残っている分、どうにかカウンターを相手にチラつかせることができていました。

つまり、守備面でのネックでもある一方、攻撃面での重要なポイントにもなっていたわけで。
ですので、攻守の両面で天秤にかけ、優位性をどこに見出すかというのが大事な判断でした。
石丸監督のチョイスとしては、守備タスクを軽くして攻め残りを優先するというものだったわけですが。

ただし、長いボールでスペースを突いた勢いのままゴールに迫れなければ、結局手詰まりになってしまうことも多く、最終的には個人能力に頼ることになっていましたね。
勢い良く前にボールを運んでも、相手エリア近辺でスピードダウンすることもよく見られましたが、そこから先は個々のアイディア任せになっていたために迷いが生じたところが多かったのかもしれません。

そういう事情もあって、なかなかボールを奪うプレーと、前に運ぶプレーとがリンクしにくくなって、攻守が分断されていた印象です。
全体の意識として、まずは守備をしっかりしようというのがベースにあるので、慎重な立ち上がりをすることが多かったです。
そうなるとますます長いボールを使った攻撃が主体になりますが、当然消耗もしやすい。
特にキーマンとなるイ・ヨンジェとサイドハーフは運動量が求められるので、交代枠をここで使い切ることも基本線になっていましたね。
しかしイ・ヨンジェの代わりを務められる選手はおらず、サイドハーフも選手層が薄いポジションだったので、負傷などで離脱している時は一気にボリュームダウンしますし、選手交代でリズムを変えることもほとんどできませんでした。せいぜい運動量を担保するくらいしかできませんからね。

慎重に入るけれども、後半ペースを上げられないということで、その結果が引き分けの多さに繋がったと言えるでしょう。
しっかりカウントはしていませんが、前半スコアレスで終えた試合もかなり多かったはずです。
守備でなんとか凌いではいるけれど、攻撃に持っていけない。共に疲労が見られる後半にスコアが動いても、試合を決め切る力はない。そう言ってしまっても良いのかもしれません。



石丸監督の評価


石丸監督が京都を率いて63試合。戦績は24勝26分13敗。
守備の構築に上手さを見せ、完封試合は全体の4割を越える26試合にも上ります。
一方、攻撃的なサッカーへの意欲を見せるものの、最終的には個人能力に頼るようなサッカーに終わってしまう側面もありました。

ここまで見てきたように、指導を得意とするサッカーと、自らの理想とするサッカーとの間にギャップがあるようにも思えます。
似たような感じを持つのが岡田武史で、彼も当初掲げる理想ではあまりうまく行かず、最終的に帳尻を合わせる形で結果を残してきた指導者です。
石丸監督の場合は帳尻を合わせ切れなかったとも言えるので、「勝負弱い岡田武史」となってしまうのかもしれませんが・・・。

J2では引いた相手も多いので、相性も良くなかったかもしれません。
どう崩すかというところで挑戦し甲斐を感じる一方、思うようにいかない苦しさもあったでしょうから。
最終的にどうしても個人能力に頼らざるを得なかったのも、個人的には残念な点でしたし、限界を感じたところでもありました。
これを発展させるのであれば、より一層優れた個人を連れてくるしかなく、限られた予算内では難しさを感じるだろうというのもありました。
柏のクリスティアーノを狙っているという話もありましたけど、独力でボールを運べて強靭なフィジカルを持つ彼を獲得できていたらまた違ったかもしれませんが・・・。
しかし確実にフィットする保証もなく、一種の賭けにはなってきますので・・・。

今季の京都は強化費を増額し、勝負に出たシーズンでした。
そういったプレッシャーもある中で苦しかったところもあったかもしれません。
しかし、その余裕の無さから若手選手の起用に躊躇いを見せていたのも残念なところでした。
何より、石丸監督の理想とするサッカーを考えるなら、昨季期待を寄せていた荻野広大と永島悠史は面白い存在だったはずです。永島は負傷の影響が大きかったでしょうか・・・。
また、不安定とはいえ、開幕スタメンを奪った石田雅俊を継続的に起用できないままレンタルに出さざるを得なくなったのも痛手でした。
もちろん様々な事情があってのものと理解していますが、ある程度良いプレーを見せても起用が限定的となっている選手も多く、最終的に幅を付けようにも難しくなってしまったところに行き着いた印象は強いです。

理想はあってもそこに殉じるわけではない、と言うのは一面で正しいです。
しかし正直な所、石丸監督にはやるならもっとこだわって欲しかったという気持ちが強いです。
慎重とも臆病とも言えるサッカーに陥ってしまったのは、徹底すべきところが徹底できなかったからだろうと思っていますし、ひいてはそこから「求心力の弱さ」というところに繋がっていくでしょう。
特に前線の選手はエゴが強いことが多いですし、そうでなければプロとしてやっていけないところもあります。
そういった選手たちに対して、自分のサッカーでプレーすればお互いにとって大きなメリットがあるということを納得させるのが監督の仕事です。
監督からすると多少の妥協点は見出しながらも、チームの力を最大化するために選手たちを組み込んでいく必要がありますし、場合によっては試合から「干す」ことも必要。
そうするからには当然自信がなければなりませんし、チームに動揺を広げないようにすることも重要。

石丸監督はまだ若く、得意な分野もハッキリしているので、有望な指導者と言えるでしょう。
ただ、まだまだ成長するべき点も多くあり、そのひとつに監督として重要な「徹底する点」というのはあるかもしれません。
そういったことを感じたこの2年間でした。
クラブOBですし、選手時代には天皇杯優勝という輝かしい実績をもたらしてくれた功労者でもあります。
若く有望な指導者として、我々のところに帰ってきてくれたのは非常に嬉しいことで、できることなら一緒に昇格したかった。
J1であればある程度割り切った守備をベースにやることもできただろうし、厳しい相手とのやり合いの中で石丸監督にも得るものが多くあったはず。もちろん結果が出なかったとしても、ね。
そういった幸福な結末を見たかったのですけれど、現実はそう甘くもなく。

再びJ2での戦いとなれば、今年と同じことを繰り返す可能性が高いと思いますし、ここで解任という結論になるのも致し方無いかなと思っています。
チームがどういう意図を持って今回の結論に至ったのかは分かりませんが・・・。


少なくとも、石丸監督のサッカーを見ていて感じたのは以上の通りです。
もちろんいろんな考えがある話だと思うところです。
それだけ、OBでもある若手指導者をどう遇するかというものは重い問題でもあるということでしょうか・・・。

次回は若手選手のことと、来季に向けてのことを書いて、今季のまとめを締めようと思います。