ネクスト・マーケット 「貧困層」を「顧客」に変える次世代ビジネス戦略 (ウォートン経営戦略シリーズ)/C.K.プラハラード

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現在、世界には一日2ドル未満で生活する人々が40~50億人いる。
今までの常識では、貧困層にはお金がないから、マーケットとして捉えるのは難しく、支援の対象でしかなかった。

しかしそれを根底から覆した本がこのネクストマーケット。今までとはまったく次元の違うアプローチをすることで貧困層を消費者に買える可能性を示している。実際にどうすればうまくいくかについて細部まで考察している。

本書は2部構成となっており、第1部に世界的な経済ピラミッドの底辺(ボトム・オブ・ザ・ピラミッド=BOP)、いわゆる貧困層の巨大市場についての特性、アプローチの仕方、関わることで得られる利益などをあげ、彼らと有益なwin-winの関係を築けるという。第2部にケース・スタディとして、12の事例を述べている。また付属のCDで貧困層の視点から話が聴ける。


<貧困層という市場に対する認識>
・貧困層は搾取された存在ではなく、消費者になりうる。
→価値に重きを置く消費者であるという認識に改めることが必要である。彼らが所有する喜び、社会から認められる感動を知ったとき、またそうなれることが可能であると確信したとき、ビジネスチャンスにあふれた新しい市場が生まれる。

・貧困層には購買力がある。
→地方での独占状態や、モノや情報が不十分、脆弱な販路、昔ながらの中間搾取業者の存在などにより、物価の高い環境で生活している傾向が強い。これを大企業がもつノウハウを提供すれば、一気に改善でき、可処分所得が増す。

・貧困層はブランド志向が強く、新しい技術を貪欲に取り入れている。
→貧困層のお金の使い道は、テレビ、冷蔵庫、携帯など「贅沢品」とみなされるものばかりである。彼らの中にはオーディオ、ビデオ、ニュース、株価情報にアクセスして、例えば大豆のニューヨークの先物取引を見ることで自分たちがいつにどの程度の量の大豆を売ればいいかなどを把握している。

・眠っている資産に着目すれば、貧困国は豊かである。
→資本にできな資産が相当な額存在する。例えばメキシコでは資源が約3000億ドル。法的整備さえすれば、彼らの市場はもっとも魅力的な市場のひとつになる。

・貧困層の急成長に対応しなければならない。
先進国の15年の変化が、途上国では3~5年で起こる。


<貧困層特有の問題・障害>
・アイデンティティがない。つまり自分が存在していると証明できるようなものが何もない。
・農村部は「メディアダーク」と言われ、販売のアプローチが難しい。
・識字率の低さ、間違った知識など、根底から教育しなければならないことが多い。
・法的所有権の概念がない、つまり法整備などハード面が不十分。もしくは施行する能力がない。
・官僚があらゆるレベルで汚職をする、既得権益者の激しい抵抗


<貧困層に対するアプローチ>

・貧困を解決する鍵は大企業でしかやれない大規模での企業活動
→イノベーションを成功させるために必要な投資ができる多国籍企業こそまさにうってつけ。

・貧困層に対しては革新的なアプローチ・イノベーション・ビジネスモデルが必要。
→新たなに生まれた取り組みが、他の途上国、先進国にも転用できるため、企業が成長していくうえでBOP市場は重要である。

・新たな社会を築く女性、起業家精神にあふれる女性、団結力のある女性に注目する。
→ICICIの自助グループ、HLLのシャンクティ・アマなど。

・新たなイノベーションの事例
→カサス・バイア。貧困層の夢をかなえた信用販売。情報技術を取り入れ、コストを徹底管理。裁量権を現場に託し、BOPとの信頼関係を作るために、多くの人材を育成した。
→セメックス。住宅環境を改善する貯蓄プログラム。一貫した期日どおりの配達。リスク管理。まったく新しい販路の形成。BOPの夢であった住宅を手にすることに貢献。
→ヒンドゥスタン・リーバ・リミテッド(HLL)。ヨード欠乏症については、最新技術により、基準値を満たすヨードを摂取できるカプセル化を施した。シャンクティ・アマの存在で多くのBOPを消費者に。せっけんについてはBOPの生活習慣を変えることからはじめ、健康への願いをかなえた。
→ジャイプル・フット。わずか30ドルで現存する義足よりも性能のよい貧困層の実情にあった義足を開発した。現地で調達できる材料。数日で義足ができてしまうシステム。
→アラビンド・アイ・ホスピタル。白内障の手術を、患者の6割は無償、4割は50ドルから300ドルほどの低価格にもかかわらず、高収益をあげているケア・システム。世界有数の眼科治療複合機関。
→ICICI銀行。貯蓄と融資を融合して、女性自助グループを経済的また社会的に独立させた。最貧層への融資で採算をとれるシステム。現地のNGOなどとの協力。

などなど。

そのどれもに共通するのは
・企業、行政、NGO、地域社会の協力体制の確立。
・女性の社会進出。社会的経済的自立。
・驚くほど、きめ細やかなマーケティング
・徹底したコスト管理、リスク管理。監視。

などなど。


ほとんどの原因はシステム、因習など構造的なものである。BOPにはそれを変える力がなく、外圧でしか変えることができない。僕たちが血の巡りさえよくすれば、たちまち元気になるように、BOPにインフラを構築し、自尊心をもたせ、意思決定できる環境を与えさえすれば、きっと勝手に経済がうまく機能していくんだと思う。

BOPにとって、最新の技術を利用したり、自分たちのニーズに合わせて設計された優れた製品を手にすることは、生活の質を向上させる大きな一歩となり、貧困層のニーズを中心とした市場を創出することが、貧困緩和につながるという事実を、世界のどれだけの人が知っているのだろうか。

ネクストマーケットは日本の構造的な欠陥の解決のヒントをも示してくれる。
アラビンド・アイ・ホスピタルでは、医者は極力手術だけをさせ、生産性をあげるシステムを構築し、医師一人に対して、六人の看護士がサポートし、また病院内の40人のカウンセラーが患者の専門的な相談に乗る。日本の医者を殺すような医療体制を改革させるヒントがここにあると思う。
国内市場が縮小するのは避けられないことだし、介護や医療などのビジネスは盛んになり、メーカーなどは海外でシェアを確保できるかどうかが死活問題だ。アラビンドの研修制度をもってすれば、移民だって受け入れて、日本人がやりたがらない職につかせることも可能だし、メーカーは技術やものづくりばかり追っかけてないで、HLLのようなマーケティング・戦略をもって、BOP市場に参入することも考えることが可能だ。いや考えなければならない。



ここで話がちとそれるが、このネクストマーケットをチョーお勧めするビルゲイツさんはハーバード大学卒業式のスピーチでこんなことを言ってます。

『この時代の特徴的な、そして進行中のイノベーション――バイオテクノロジー、コンピューター、インターネット――は私達にチャンスを与えてくれます。我々が決して以前はもつことができなかったようなチャンスをです。極度の貧困を終わらせ、防止可能な病気から来る死を終わらせるためのチャンスを、です。』

またこうも言ってます。
『貴方達、卒業生は、驚くべき時代に成人しつつあります。貴方達はハーバードを去りますが、私の同期生達が決して持っていなかったようなテクノロジーをもっています。貴方達は世界の不平等に気づいています。それは、我々が持っていなかったものです。そして、その認識と共に、貴方達は見識の広い良心も持っています。もし、貴方達が、ほんのちょっとの努力で助けてあげれる人々を見捨てたならば、良心が貴方達を苦しめるでしょう。貴方達は、我々がそうであったよりも、ずっと多くのものをもっています。つまり、貴方達はもっとずっと早くスタートしないといけない。そして、ずっと長く続けないといけない。』

ビルゲイツによるハーバード卒業式の式辞全訳 - FIFTH EDITION


僕は僕のやり方で、ビルゲイツ氏の問いに答えていきたい。そのための学生2年間延長なんでw
最高の頭脳は持ち合わせていませんが、僕たちもこの時代に生きる者。
自分の役割をしっかり見定めて、早く社会に貢献していきたいですぅー。