これぞ持続可能な発展のバイブルだ!
地球全体を幸福にする経済学―過密化する世界とグローバル・ゴール/ジェフリー・サックス
¥2,415
Amazon.co.jp
ボリュームがあって久しぶりにしんどかった本。
ジェフリー・サックス が記した前作『貧困の終焉』 に次ぐベストセラー。
実は貧困の終焉はまだ読んでないんです・・・。

本書をざっくり最初と最後をまとめると(ほんまに秀逸な問題提起、提案ばかり。)
過密する地球の今後、特に人口、貧困、資源、環境、経済について述べるところから始まる。
各論に対する効果的な対策を、国家、企業、NGOなどがすべき行動をあげている。


さてさて、まずは彼の主張をピックアップすると、
・エネルギー、土地、資源の使い方に関して、持続可能なシステムを構築する。
・2050年までに世界人口を80億以下で安定させる。
・2025年までに極度の貧困を終焉させ、豊かな国も安定させる。
・国家間の協力関係、企業のノウハウ、非政府組織の活力とアイディアを基盤に、問題解決に新たなアプローチで取り組む。

ここまでは、どこでも聞くようなお話でもある。ただ彼の場合は、エコノミストとして、定量的に物事をはかり、効果的な戦略を打ち立てているところが素晴らしい。


しかし僕が思うに、本書で最も重要視するべきは、中盤に書かれている持続可能な発展がなぜ滞るのかという点にある。結論から述べよう。

目的も具体的な数値目標も戦略もしっかりできている。誰もがこうしたらもっとよくなるってわかっている。
ただそれには資金がない。つまるところ、資金を出し渋る奴が世界平和の障害!!
(決してサックス氏は過激派ではなく、僕が勝手に彼の心の中を代弁してみただけです。)

なぜ途上国に対して、技術支援、資金援助をする必要があるのか?
なぜ市場の手からこぼれた10億人が最貧層を助ける必要があるのか?
なぜ海の向こうの人口爆発している国に資金と投入しなければならないのか?

人道的支援?慈善事業?先進国の義務?はたまた哀れみ?

否!これは自国、ひいては争いのない世界のために積極的にリスクをとることだ。

この途上国支援の本質、つまりリスクをとることがわかってない奴らが世界には多すぎて、サックス氏は、特にリスクをとらずに逆方向へと突っ走るアメリカ(ブッシュ政権)を徹底的に非難しまくる。

実際にひとつ、マラリアについての引用してみよう。

まず基本データは
アメリカ軍事費の2007年度予算は、およそ5720億ドル
国際安全保障(イラクやアフガニスタンなどへの支援)に110億ドル
開発と人道支援に140億ドル、外交機能(国務省、大使館など)に110億ドル

アフリカのマラリア感染地域に寝室が3億あり、これらを持続効果のある抗マラリア蚊帳(5年はもつ)で守らなければならない。価格は5ドル。一家に平均して3つは必要である。

結果として、1年につき1人あたり60セントかかる。蚊帳ひとつ5ドルとしても、数億人は手が届かない。
アフリカすべての寝室に蚊帳を配布する費用は15億ドル

ここで注目すべきは、アメリカの軍事費5720億ドル÷365日=15.7億ドル

つまり国務省が一日に消費する金で、アフリカすべての寝室に5年分の抗マラリアの蚊帳を提供するのに十分な費用が賄えるのだぁ!!

そもそも昨今では、大国同士の戦争は起きていないし、世界では数え切れない紛争がおきている。
核の脅威や、軍事力に物を言わして国家間の緊張を高めるのはナンセンス。
武装組織に対しての空爆は、罪なき家族を殺された者を復讐者にする無限ループだ。

サックス氏いわく、ブッシュ政権のアメリカ外交は完全に間違っており、紛争解決、人道的支援も大切だが、長期的な開発を行うべきだったという。それがゆくゆくはアメリカの利益に繋がるのだ。

水ストレスの増大、人口爆発による一人当たりの食糧の減少、エイズ・マラリア・その他の感染症、その他多くの解決困難な問題。これらにより人は、奪い合うことでしか生存する道を選べず、紛争に発展し、周辺の国に緊張が増し、結果的に数え切れない死者と事後修復のための莫大な資金を要する。

それを防ぐために、力で脅えさせるのではなく、支援することで、信頼を勝ち取るべきである。

サックス氏によれば、最貧国への資金援助の推定は、豊かな先進国の年間所得の0.7%さえあれば、農業、医療、教育、インフラなどが可能となる。豊かな国の総年間所得を35兆ドルとすると、その0.7%の2450億ドルの援助をすれば、資金難が解決できる。世界同時多発で、日本でいえば、1000万円プレーヤーが年間7万円未満(※収入ではなく、所得)の援助をすれば、貧困を世界からなくす大きな大きな前進となるのだ。

たったそれだけの支援で、紛争を防げるならみんな喜んでやるよね。
しかもこの0.7%という数値は、既に国際的な合意に至っている数値である。

ん?だったらもう世界からは貧困は消えつつあるやん!!
と思いたいのはやまやまだが、先進国がたった0.7%のお金を渋っているのだ。
そうこっからが問題なんですよね。

発展的な変化に向かおうとする新しい考え方に対して
最初は「やっても無駄だ」、つまり問題自体解決不可能だという主張
次に「逆行する」、つまり解決しようとして、逆に問題を悪化させているという主張。
最後に「危険だ」、つまりもっと重要な問題があるはずなのに無駄遣いしているという主張。
こいつらが邪魔をする。特に頭のかたい目の前のことしか考えていない政治家たちによって。
しかも合意を無視してしまえるほど、すごい力で押しつぶすんですよね。

しかしこのような否定的な言葉は人間心理から生じたもので、まったく根拠はないとサックス氏はいう。
人類の最大の敵は、案外そういった否定的な人間の心理状態なのかもしれませんね。
それならば、これらの障害を乗り切るために今こそ全ての人、集団、機関の協力が必要である。

国連は、横断的に部門同士が協力して相乗効果をつくりだし、
国家は、国際経済、世界人口、環境ストレスに立ち向かうために、国家ではなく、ユニオンとなり、
地方自治体は、文化の多様性、伝統を維持し、地球規模の問題に市民とともに立ち上がり、
企業は、市場とは関係ないフィールドで、ビジネスの本質を保ちながら、企業活動を展開し、
NGOは、斬新な発想と起業家精神から問題解決のリーダーシップをとり、
研究大学は、垣根を低くし、技術の掛け合わせによってイノベーションをはかり、
僕たちは、地球市民として、以下に示す8つのできることをやる。
・現在の課題について知ること
・なるべく旅をすること
・持続可能な開発を推し進める団体を作るか、参加すること
・周辺の人々にも参加をうながすこと
・SNSを介して、持続可能な開発を促すこと
・政治に参加すること
・職場を巻き込むこと
・自分自身がミレニアム・プロミス の基準に沿って生活すること

ほらほら、だんだん世界が秩序に保たれた青写真が浮かび上がりませんか??

実際に敬愛するユヌス氏だって、マイクロクレジットがあれだけダメダメ言われたのにやってのけた。
本気でやろうとしている意志、掲げた旗を降ろさず、最適な戦略と十分な資金をもってさえすれば、絶対に貧困をなくすことも、温暖化をとめることも、予防・治療可能な命も救っていける。

ゴールも明確で、戦略も戦術もあって、やればみんなに気持ちいいことだってわかってる。あとは覚悟だけ。その大きな一歩を僕たちの世代で作ってやると・・・そんなことをこの本を読んで思いました。


他にも
・社会福祉国家>市場主義国家
・地球環境システムの閾値
・プラグイン方式ハイブリッド車と二酸化炭素回収・貯留技術で温暖化を食い止められる。
・生物多様性は緩衝材になる。
・950人の億万長者の資産の利子で極度の貧困を終わらせる。
などなどなどなど。おもしろい切り口で書かれている本書はお勧めです。