読み切り小説:心のキャンバス | 勝利だギューちゃんの、果報は寝て待て

勝利だギューちゃんの、果報は寝て待て

変わらない今日と、変わろうとする明日を・・・

こちらでも・・・

 

読み切りなので、全員に公開

 

☆心のキャンバス

 

「何を描いているの?
「・・・海・・・」
「ここには、海はないよ・・・」
「知ってる・・・」
「じゃあ、何で描いてるの?」
「僕には見れるから・・・」
「何が・・・」
「海・・・」

 

ここは山奥にある田舎・・・
内陸地なので、海はどんなに高い山に登っても見えない。
でも彼は、海を描いていた。
しかも、まるでその場にいるように、正確に描いていた・・・

 

「君には、見えるの?・・・海が・・・」

彼は絵を描くのが好きでよく描いていた。
でも、人物とか動物とか、一切描かなかった。

抽象画も描かなかった。

 

彼がいつも描いていたもの・・・それは風景・・・
彼は風景画しか、描かなかった。

 

その理由を尋ねたことがある。
「僕は、背景だから・・・」
それしか答えてくれなかった。

 

彼の描く絵のは、不思議な点があった・・・
いくつもの絵を見せてもらった。

しかし、その全てあるべき物が、ひとつも描かれていなかった。
それは、太陽・・・そして、月・・・

彼の描く絵には、全て太陽と月が、描かれていなかった。


確かに、描かなくてもおかしくはない・・・
でも、全部に描かれていないのは、疑問だった・・・

 

素人考えかもしれない・・・でも、気になった・・・
それも、彼に尋ねてみた・・・

 

「僕には、必要ないから・・・」
そう返ってきた・・・


おそらくは、『僕の絵には』という意味なのは、理解出来た・・・

彼の描く絵には、不思議な魅力があった・・・


なんだろう・・・
そう、まるで妖精の世界のような・・・
そんな感じだった・・・

 

(君の見えるのは、過去?それとも、未来?)

 

いつしか、田舎のみんなで海へ遊びにいった。
みんな、珍しそうに、そして、楽しそうに遊んでいた。

そんな中でも、彼はひとり離れて、絵を描いてた。


みんなは、もう近寄ろうとはしていない・・・

でも、私は彼がどんな絵を描いているのか見てみたくなった。
そして、後からそっと、覗いてみた・・・

すると、キャンバスには、横線が一本だけ描かれていた。


「海は、描かないの?」
「うん」
「空は、描かないの?」
「うん」
「どうして?」
「僕には、見えないから・・・見えない物は描けない・・・」

彼の発した意味が、その時は理解出来なかった。

 

白いキャンバス・・・
それは、人の心を映す鏡・・・
見た目の風景より、心の中の風景が、そのまんま表現される。

(君の心は、純粋で・・・そして、繊細だったんだね・・・)

 

一度だけ無理を言って、彼に絵を描いてもらった。
そこには、彼には珍しく、女性の肖像画が描かれていた。

「最初で、最後」と、彼は言った。

 

「この女性は誰?」
彼に尋ねた。
「・・・君・・・」
そう答えが返ってきた。
「私、こんなに美人じゃないよ」
そう尋ねた。
すると彼は、こう答えた。

 

「僕には、こう見える」