日焼けしてわずかに黄ばんだ障子が直射を遮る。

床の上で仰向けになって寝ていた望美は、鳥の声にうっすらと目を開けた。

静かだった。

鳥の声と、少し遠くから誰かの話し声がかろうじて聞こえる程度だ。

数名を残して皆、それぞれの用を足しに出かけてしまったので、宿はあまりにがらんとしている。

 

教室みたい。

 

そう望美は思った。

五時間目の化学の時間が、ちょうどこんな感じだった、と。

閉め切られたカーテンによって教室内は薄黄色の光に満ち、

しんとした中に先生の低い声とチョークだけが絶え間無い。

平和で、暖かで、それだからどうしようもなく眠気をさそう。そんな時、だ。

 

天井の色がかろうじてわかる位にしか開かれていない目を再び閉じる。

気がつくと話し声は消えていた。

 

「神子・・・?寝て、いるのか?」

 

後半は多少小さな声で問うてきた声に目を開ける。

首をのろりと横にすると、障子にはくっきりとその声の主が映っていた。

 

「敦盛さん。」

 

重い体を起こして障子と障子のとじ目を開ける。

そこには申し訳なさそうな表情で敦盛が立っていた。

 

「すまない、起こしてしまっただろうか。」

「いえ、起きてたんですけどなんとなぁくまだこうしていよっかなぁって思っただけですから。

逆に声かけてくれてありがたかったです。」

 

望美がそういって微笑むと、そうか と静かに言い、苦笑を返した。

床板の上でごろ寝していたのだから、確かにあのままだと体が痛くなっただろうし、

何より少し恥ずかしい。

敦盛が気にしないようにと思い言った言葉ではあったけれど、

あながち嘘と言うわけでもなかった。

 

「さっき向こうで話していたのって敦盛さんですか?」

 

あくびをかみ殺しながらそう聞くと、敦盛は思い出したように ああ ともらした。

 

「ヒノエが一度帰ってきて・・・その事を伝えようと思ったのだが・・・今日は帰らない、と。」

「そうなんだ。」

 

互いに突っ立ったままだったので、二人して縁側に腰を下ろす。

私はいい と軽く抵抗した手を引っつかみ、多少無理に座らせた結果だった。

 

「皆・・・忙しいんですよね。戦とは別に、自分のお仕事だってあるんだし。」

 

まだ幾分ぼうっとした頭をもたげ、ぽつりぽつりとつぶやく。

敦盛は何も言わず、ただじっとこちらの言葉に耳を傾けているようだった。

 

「それなのに八葉として戦ってくれて、守ってくれて・・・。」

 

なんだか申し訳ないな。

そう続けようとして言葉に詰まった。

別に望美自身の為に戦ってくれていると言うわけではないので、この言い方は少し違和感がある。

ありがたい。というのも違う気がした。

 

じゃあ、なんだろう。 何に、感謝したいのだろうか。

 

中途半端に止まった台詞の後を継ぐようにして、今度は敦盛が話し始めた。

 

「神子も異世界から呼ばれ来て、知らないこの地で戦っている。

それを八葉が支えるのは当然のことだろう。それに・・・」

 

いったん言葉を切ってこちらをちらりと見る。

そんな敦盛を不思議そうに見返すと、少し顔を赤くして目を逸らされた。

 

「それに・・・私は神子の役に立てるのならば・・・うれしいと、思う。」

 

言い終わるとすっかり顔を赤くしてうつむいてしまった敦盛に、

少し照れながらも、さっき自分で言いかけた続きにふさわしい言葉を思い出す。

 

うれしい、だったんだ。

 

もちろん戦うというのがうれしいわけではなくて、こうして集ってくれたことでさえなくて、

きっともっと根本的な事。

 

「私も・・・私もこの世界に来て、皆に出会えて、うれしいです。」

 

ふとした時に元の世界を思い出す。

そこはいつだって私の帰る場所だから、

どう頑張っても帰りたいという郷愁感や懐郷感はなくならない。

だけど。

だけどこの世界で皆と出会い戦って。

笑ったり、怒ったり、泣いたり、時には喧嘩とかしたりして、皆思い合っている。

それをとてもうれしく思う。

そんな皆がもう一つの帰る場所だっていい。すごく、いい。

この世界で私が帰ることの出来る暖かい場所だから。

 

「皆に会えて、よかった。」

「神子。」

 

なんとなく視線がぶつかり合い、そうして互いに笑い合った。

静かな平和な昼下がり。

そうやって感じる場所が今はかつてと違うけど、それを辛いとは思わない。

今こうしてこの世界に生きていることが、どうしようもなく幸せだと感じることが出来る。

 

いつまでもこのままではいられない。

それはどこの世界でも同じことではあるけれど、過去の出会いがなくなる事は無いのだから。

今はただ、遙かなる時空をこえて私達出会えたことに、深い深い感謝、を。

 

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企画第二作目です。これのどこがミニなんでしょう。無駄に、果てしなく無駄に長くなりました。

しかもカップリングが見当たらない。強いて言うならあっつん?あー自己嫌悪。

ちなみにこれは五時間目の化学の時間には書いていません!!断じて!!

四時間目の化学の時間に書きましたから!(ぉおい!!)

タイトルパクリ。本作をパクリ。ああ最低。

そんな駄作でも宣言したからにはフリーです。恥さらし。

まぁ、帰る場所が二つあるのも悪くない。