二人がお似合いなのは、一目瞭然。
華奢なソジュさんが女装した姿は、知らない人が見れば、可憐な女の子だ。
「チャンミン、可愛い。よく似合うよ。」
声をかけてきたのはソジュさんだ。
ユノさんは、とっさに目をそらした。
僕に会いたくなかったんだ。
「ソジュさんこそ、、、。」
僕は悲しい気持ちをふりきってこう口にした。
「二人ともよくお似合いです。」
「ありがとう!」
ソジュさんは、見せつけるように、ユノさんの腕にしがみつく。
「こら。」
「ふふふ。ごめんなさい。」
こんなとこで、じゃれあってる二人なんか見たくなかった。
「会場行かないの?」
「ちょっと、忘れ物しちゃって。」
このまま、一緒に会場に向かう気になれず、忘れ物したふりをして、控え室に戻る。
後ろから、うさぎ役の女性があとからついてきた。
「何忘れたの?」
「すみません。先に行っててください。」
「あなたと一緒じゃないと、何の兎かさえ、わかってもらえないわ。」
「あ、、、はい。」
控え室に戻っても、忘れ物なんてない。
僕は鞄から忘れ物を探すふりをするはめになる。
「見つかった?」
「い、いえ。」
「何を忘れたの?」
そんなこと聞かれると思わなくて返答に困る。
「えーと、、、あの、、、。」
「初めからそんなものないんでしょ?」
あまりに図星で、動きが止まった。
「チャンミン君って、わかりやすいね。」
「な、何がですか?」
僕がユノさんを好きなことを気がつかれてしまったのだろうか。
変な汗が吹き出した。
「ごめん、ごめん。若い子をからかっちゃって。」
うさぎ役の方は僕にハンカチを渡した。
「汚しちゃうから。」と、返すと
「返さなくていいわ。あげる。」
と、僕の手に握らせた。
「すみません。」
「大丈夫。秘密にしてあげる。お姉さんに何でも相談しなさい。」
「は、はあ。」
きりっとした綺麗めな顔立ちのその人をどこかでみたことがある。
役者さんで、わりとくせのあるわき役が多い方だ。
どちらかというと、悪役的なものが多かったような。
ドラマなどは、あまりみない僕だが、テレビで母が誉めていたことがあって、覚えている。
「私、口は固いから。」
「いや、そんなんじゃなくて。」
「あなたのお母さんのこともよく知ってるの。これでも、昔はモデルだったのよ。あなたのお母さんに憧れて入った一人。
でたての頃、やさしく指導してもらったわ。」
「は、はい。」
わかってはいたが、この業界で、トップをしてきた母の知り合いはたくさんいる。
「私ね、バイセクシャルなの。」
「へ?」
「まあ、この業界には多いけど、あなたのお母様に本気で恋をした一人。まあ、相手にもされなかったけどね。」
僕は突然のことに言葉を失う。
「何、ぼおっーとしてんの。忘れ物のなんかないんだから、行くわよ。」
そう言ってドアを開け、待ち構える。
僕がドアを出る瞬間、背中を叩かれた。
「猫背はだめよ。堂々としてなさい。あなたは、綺麗なんだから。」
僕は胸を入って会場に向かう。
与えられた役目を果たすために。