アウトサイド・ナレッジ・カード | 妄想のはけ口

妄想のはけ口

説明不要

幻影美緒は悩んでいた。

『どうして私には血の通った肉体はないのか』
『どうして私はカードの中に住んでるのか』
『そもそも、私の本名って何?』

等等、悩みは浮かんでくる一方である。 「悩める女だな・・私。」
そんなことを考えながら、無風のクセにやけに暑いナレッジ・カードの中で
彼女はポニーテールに結った髪の下に隠れた頭皮をポリポリと掻いた。

ただ、彼女は掻いても掻いても頭皮に指の感覚がないことに余計むしゃくしゃするだけであった。

「あぁあぁああぁ・・・血の通った自分のための体が欲しい・・」
幻影美緒はそんなことを言いながら、青白く光った情報が飛び交う静かな空間の中で頭を掻き続けていた。




K地区・某中学校。
幻影美緒がナレッジ・カードのなかで悩みまくっている頃、美緒は自分の友達と共に
夕暮れの中をお喋りしながら下校していた。

お喋り。といっても、大体は美緒があらゆる薀蓄を言うだけの物になるのだが・・

それでも物好きな友達のみんなは飽きることなく、
目を輝かせながら聞き入っている。


そうやっていろんなことを話しているうちにすっかり日も暮れて
通いなれた通学路はすっかり暗くなってしまった。

友達とは分かれ道で別れ、
遂に一人になった美緒はなんとなくポケットからナレッジ・カードを取り出してみた。


ボウッと水色に近い色の光を放つナレッジ・カードには、
いつもどおり現在の美緒のバイタル・時間・天気・今日得た情報の一覧等が写っていた。

いつものように指の腹を使ってカードをスクラッチすると、
I phoneよろしくサッと次のページが表示される。
カレンダーでも見ようと、もう一度さすってみると今度は自分と瓜二つの少女が写った。

・・・幻影美緒である。
大体彼女がこの世界に現出しようとしているときは必ず、カードにその姿が映る。

「・・・・何?」
不意に写った幻影美緒に、美緒は何のようだ、と問いかけてみる。
すると、幻影美緒は言う。

「体をよこせ」と。

無論美緒は
「・・・・・ハァ?」
と語尾を上げる形で聞き返す。
自分と同じ姿をした幻影に、どこぞの変態みたいなことを言われても
まったくピンとこない。


「何を言ってるの・・・」
幻影美緒の急な発言の意味をもう一度問う美緒。
しかし、幻影美緒は「体をよこせ」としか言わない。

コレは困った。会話がまったく成り立っていない。
困った末、
美緒はとりあえずナレッジ・カードの開発者である母親にこのことを相談してみることにした。





翌日、
今、美緒は某大学脳神経研究開発科に来ている。


美緒の母親はここで教授として働いており、日々脳神経を利用した能力の向上について研究している。
実はナレッジ・カードもその研究の一環として創られたもので、彼女を中心に美緒の父親、
その親友が集まり、共同研究によって完成にこぎつけたのであった。

美緒は大学の中を急ぎ足で進み、ある部屋の前に立った。
その部屋のドアには「脳神経研究開発科 四十川」と書かれている。

「失礼します・・」
美緒はそのドアを3回たたき、一口断りを入れて部屋に入った。


「あらぁ。どうしたの?」
美緒の声を聞き、部屋のいすに座った教授がくるりと向き直る。

教授、というより美緒の母親は、ひざの裏まで伸びた長い髪を持ち、
顔立ちはまさに美緒をそのまま大人にしたような感じであった。

白衣に留められた名札には「四十川四十(あいかわ あい)」と書かれていた。
やけに難しい名前だが、それは四十川家の伝統らしい。

それはさておき、美緒はカードから幻影美緒を現出させ、
自身の悩みを打ち明けさせた。
『私も実体が欲しい』と。

悩みを聞いた四十教授は、しばらく黙り、それから口を開いた。

「・・・・『アレ』を試すときかな。」
「「アレ?」」

教授の核心に迫る(?)発言に、美緒も幻影美緒も即座に反応した。

どうやら、四十教授たちは以前からナレッジ・カードの情報を他の人の脳に移す研究もしていたらしく。
既にそのための装置は完成していると言う。
それを応用すれば、幻影美緒に肉体を与えることが出来るかもしれないのだ。

しかし、その実験のためのクローンも既に知り合いの医師によって用意されていたのだが、
クローンの脳がナレッジ・カードの膨大な情報を受け止めきれないのでは?という懸念から、
この計画はつい最近一旦中止された。

が、莫大な情報が幻影美緒として一つの小さな情報に圧縮され、
その懸念がぬぐえた今、実験を再開する価値はある。

なぜなら、普通、脳に膨大な情報を脳に与えれば、脳はたちまちパンクしてしまうが
幻影美緒のように、大量の情報が小さく圧縮された状態で
脳にインプットすれば負担も少なからず軽減されるはずだ。

そう考えた教授は、早速夫の友達である「タキ」に連絡を取った。
早期の段階で作られていたクローンは、来るべき実験再開の日のため彼が保管していたのだ。

すぐにそれを持ってくるように。とタキに通達した教授は、
クローンが運ばれてくるまでの間、美緒(と幻影美緒)と久しぶりに色々話す事にした。

部屋の奥のほうから小さめのテーブルを持ってきて、
美緒と、自分と、幻影美緒でテーブルを囲むようにして座った。

最初のうちはぎこちない空気がしばらく漂っていたが、
それは幻影美緒からの発言により破られることとなる。

「私の本名って何ですか・・?」
幻影美緒の率直な質問に、教授は即答した。

「ない。でもなんなら付けてあげようか?」
教授は即答する。が、彼女の幻影美緒に対する言葉もまた、
自らの娘を思うようなやさしい口調であった。

彼女からすれば、幻影美緒もれっきとした娘の一人なのである。

それからも美緒・幻影美緒・教授の三人はどうでもいいことからある意味重要なことまで、
色々話した。

散々話して、話して、話しまくった結果、話すネタもそろそろ尽きてきた。
そんな時、四十のケータイが着信音を発する。

「はい。」
胸のポケットからケータイを取り出し、電話に出る教授。
相手はタキ本人であった。

タキによるとどうやら、たった今実験用クローンが大学に届いたらしい。
それを聞いた3人は、「待ってました!」と言わんばかりに実験室に急行した。

実験室にいくまで、教授の助手らしき人物が3人に話しかけてくるが、
3人はすごい目をして助手らしき人物を同時ににらむ。

3人とも、早く実験をスタートさせたいがためであった。

そのまま急いで実験室に向かった3人は、実験室のドアの前でタキともう一人の男と合流した。

彼は「四十川朱鷺」。四十教授の夫であり、美緒の父親であった。
もしものときに備えて、脳神経外科である彼をタキがよんでおいたのだ。

準備は整った。

タキと朱鷺を含む5人は、早速冷気の漂う実験室の中に入っていった。


実験室の中はとても寒い。
無論、この冷気はクローンの肉体の変質を防ぐためのものである。

四十と朱鷺は装置の調整のため別室に行き、タキと美緒、幻影美緒は来るべき実験開始の時を
クローンが安置された部屋で待っていた。

クローンが入ってると思われるカプセルはまだ、開けられていなかった。
どうやら少しでもあけると腐敗が始まってしまうかららしい。


しばらくすると、タキのケータイに連絡が入った。
装置の準備が完了したらしく、
「クローンをカプセルから出して、装置の上に寝かせてくれ」という旨のメールが入った。

早速美緒たち3人はカプセルの安全弁を解除し、
冷気によってこわばったクローンの体をカプセルから取り出した。

そしてゆっくりと、着実にそのクローンを装置の上に安置する。

と、そのとき、美緒が鼻血を噴く。
クローンが裸であったためである。

美緒には、女子の裸体に対する耐性がない。
そのことを知っていたタキは特に気に留めなかった。

クローンが入っていたカプセルから冷気が漏れ出す中、
タキはあらゆるコードがつながったヘルメットをクローンの肉体にかぶせた。

ちなみに、このクローンは美緒の細胞から作られたもので、顔たちはまさに美緒そのものであった。

タキが配線作業を終えたことを確認した幻影美緒は、美緒の持つカードの中に戻った。


「では・・実験開始といきますか。」
朱鷺が装置のメイン電源を入れる。

すると部屋に明かりがつき、その次に装置が起動する。
美緒は、緊張しながらも装置にカードを入れる。

カードを入れたとたん、カードと装置が光り出し、
カード内の情報が装置にロードされる。

「ロード指数、70、80、90、・・・・100」
朱鷺がカードの情報がすべて装置にロードされたことを伝える。


そのことを確認した四十教授は、装置からクローンに情報のロードを開始する。
教授がロード開始ボタンを押したとき、

幻影美緒の眼前には驚くべき光景が広がっていた。

真っ暗な空間の中に、水色に光った情報が流れている。
ここまではナレッジ・カードの中と同じ光景なのだが、

何かが明らかに違う。
よく見ると、空間のずっと奥に、何か白い光がある。

まるで、天国へ行くためのゲートのようである。

「あそこへいけば、私は・・肉体を・・」

おぼろげながらそう考えた幻影美緒は、我武者羅に走り出した。
走って、走って、走り続けた。

そこに何が待っていようと、とりあえず走り続ければ何かいいことが起こる。

そんな気がしたのだ。

無我夢中で走り続けた結果、
急に彼女の視界がまばゆい光で満たされていく。

あまりにもまばゆすぎて、目がくらみそうだ。

必死に目を光からガードしているうちに、いつしか幻影美緒の意識はなくなっていた。









「・・・・り・・」

「・・・・・・おり・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・しおり!!」

どこか聞き覚えのある声に、彼女は目を覚ました。
眠い目をこすりながら、辺りを見回すと、

壁が白い。

どうやらここは病院かなにかの一室らしい。
彼女はもう一度辺りを見回し、自分を取り巻く状況を一瞬のうちに把握した。

『右横にいるのは・・・美緒か。左横にいるのが母さんで、壁の近くにいる人がタキさん・・
んで、私の頭をなでているのが父さんか・・・
そうか・・アレから私はクローンの脳内に入り、この体を手に入れたんだ・・・』

なぜかボーっとしている頭をフル回転させ、今時分の周りにいるのが誰なのか、
ここはどこなのか、自分は誰なのかを必死で分析した。

すると、手に取るようにここがどの国のどこなのか、自分がどこのどいつなのか、自分の周りにいる人たちが誰なのか、今時分が見にまとっているものが何なのかがわかっていった。

「・・・・・っあ・・・!」

自分を取り巻く状況を必死で分析するうちに、眠気が覚め、
彼女は我に帰る。

そうか・・私は四十川美緒。・・・の幻影で、肉体を手に入れる実験に参加して、
見事この体を手に入れたのか・・・

二三回、瞬きした幻影美緒は
はっきりした口調で四十教授に質問した。

「教授・・いや、母さん。私が目覚める前、なんと言っていたんですか?」
幻影美緒、目覚めてから始めての一声は
いつもの幻影美緒からは想像も出来ない、固い口調であった。

四十教授は、幻影美緒の得た肉体の目をしっかりと見たうえで質問に答えた。

「『しおり』って言ったのよ。漢字で「知識」って書いて『しおり』。」

「・・・・え?」
一瞬、彼女はそれが誰の名前なのかわからなかったが、
実験開始前に母親に「幻影美緒」に変わる新しい名前をつけてもらっていたことをおもいだした。

頭に残っていた疑問が解決した幻影美緒改め、「四十川知識」は
どこからか、心地よい旋律が聞こえることに気がついた。

ある一定のリズムで聞こえるそれは、単調な旋律ではあるが
どことなく生命感あふれるものであった。

「・・・・・」
もっとこの旋律を聴いていたい。と思った知識は、
自然に自らの胸に手を当て、
自らが始めて生きた体を持った人間になったことを確かめた。

ドクン・・ドクン・・ドクン・・
一定の間隔を保ち、自らの体内で鼓動を刻む心臓。
その鼓動を肌で感じながら、知識は生きた体を得た率直な感想を述べる。

「これが・・人間の体・・・人間の体って、暖かいんですね・・・」

観想を言うと同時に、知識は不思議な感情を抱いた。
何も悲しくない。痛くないのに、なぜか涙が出る。

・・・これが、感動と言うものか・・・

生きた感動に酔いしれる知識を前に、晴れて姉(義姉?)となった美緒も
今までじかに感じたことのなかった、生命のありがたみに酔いしれるのであった。
















ーーー

登場人物

幻影美緒/四十川知識(あいかわ しおり)

以前、ナレッジ・カードの異変によって美緒の精神がカード内に侵入したときに発生した
美緒のコピー体。幻影と言うよりも、性質上ホログラムに近い。
もともと彼女の体はカード内の情報のみで生成されており、
知力だけは恐ろしいほどある。(この知力は実体にも反映されている)
自らのモデルとなった美緒以外その体に触れることは出来ず、
(彼女から触れることは出来るが、投下してしまうため物を持つことが出来ない)、
自らの体にもはっきりした感覚がなかったが今回の実験によって
遂に自らの肉体を手にすることとなった。
幻影だった頃は決まった名前も無く、ただただカードの中に存在していただけであったが
母親である四十教授の好意により、「知識(しおり)」という名前を付けられる。
おそらく美緒の妹に当たる存在。 

ちなみに肉体を得た今でもカード内の空間と彼女の脳内は共有されており
カードに新しい情報が入れば、知識の脳にも情報が届く。


四十川美緒

あらゆる事象からその情報を得る不思議なカード、「ナレッジ・カード」を持つ少女。
以前カードの中に精神体として現出して以来、
自分の幻影=幻影美緒と共にジュニアハイスクールライフを送っていた。
今回、晴れて知識(元・幻影美緒)の事実上の姉となる。

やはり、女子の裸体を見て鼻血を噴くという謎の性癖(?)は健在のようだ。


四十川四十(あいかわ あい)

某大学で教授を務める。美緒・知識の母に当たる人物。
今回、幻影美緒の懇願を受け、中止していた実験の再開を決意する。
実は彼女もナレッジ・カードに似たようなものを持っているが、現在はあまり使っていないらしい。


四十川朱鷺(あいかわ とき)

美緒・知識の父親で、四十の夫に当たる人物。脳神経外科の医師をしている。
なかなかかっこいい顔をしている所謂「イケメン」であるが、実はオクテで
ロクに女性と話したことが無い。ナレッジ・カード開発チームの一人で、
ナレッジ・カードのバイタルアプリ(使用者のバイタルや今日の日付を表示するアプリ)を創った。


タキ

外科の医者で、朱鷺のライバル兼親友兼悪友。実は一部の記憶を失っており、自分が何歳なのか、
どこから来たのか、まったく覚えていない。が、
外科手術の腕は超一流で、医療界に名をはせる人物の一人。ナレッジ・カードの開発にも携わっており、
知識の肉体を生成した張本人。 常に和服でいる。


美緒の友人達

今回名前が登場することは無かったが、美緒のよき理解者達。3人いるのだが、どの子も
記憶力や知識の量が凄いらしい。実は美緒の両親達以外で初めて幻影美緒/四十川知識の存在を知った
一般人たちでもある。


~~~~~~
急に思い立って書いてしまいました。
幻影美緒ちゃん主役のストーリーです。。w

なんだか支離滅裂な部分があるやもしれませんが、
どうかご了承ください。

・・・・あ、今回も長ったらしいけど、読んでる途中に寝ないようにね!(何)

後、記述が無いですが、タキ先生もまぁまぁイケメンですw
今度このメンバーの集合イラストでも書いてUPしたいと思います。

一応、美緒の友人ズ(笑)一人一人の名前もぼんやりとは考えているのですが、
それはまた別の機会に。