家に入るとトイレから
おかえり」と
旦那の声がした



年末までの1ヶ月
騙し合いを重ねた末
泥試合が待っているかもと
これまで見聞きした経験から
行く末を想定していた



その場合
旦那のウソは虚偽の申告として
謂れのない抗弁には身の潔白を
証明出来るように物的証拠を
少しでも多く取り揃える必要がある
常に最悪の事態を考えて……



急いでいつもの場所に置いてある
旦那の財布の中身を確認し
そっと元の場所に戻した


旦那の金銭感覚に任せて
私が干渉することはこれまでなかったが
お金の出入りからも
何かわかるかもしれないと
思ったからだった



そこへ
手洗いを終えた旦那が
開口一番


スープ温めようか?


あーひらめき電球やっぱりこの人、食欲あるんだ……


確認せずとも
答えが決め打ちされる

 しかもまだスープあるんかい


私はお腹いっぱいだからいらないけど
お腹空いてるでしょ?どうぞ食べてください


オレはいい、それよりお昼は食べれた?


そんな事、今さら聞いてどうするんですか?


気になったから……


ご心配には及びません
お腹いっぱいって言ったでしょ
それより今日は1日何をしてたんですか?


……ずっと家にいて色々考えてたよ
考えごとしてると、頭が煮詰まって気休めに
時々、漫画は読んだりしたけど……



マンガの件は旦那のことだから
絶対にウソをつくか
黙秘すると思っていた


それだけに
予想がハズレ
ホッとするどころか
一瞬だが面食らった



ホントに?
実際は〇〇〇〇さんに連絡してたんじゃないんですか?



してないよ、するつもりもないけど
何一つ削除とかしてないから携帯確認していいよ



ちょいちょい出てくるタメ口に
イラッとしつつも
一芝居で得られたチャンスは
ムダにはできない



手早くクリップLINE通話の履歴を確認したが
不倫相手への履歴は過去日も含め
1つもなかった


ついでにクリップ飲み会に参加していた女性のほうも
LINE通話履歴を確認したが
そちらは飲み会当日と過去日が
数件残っていた



旦那がLINE通話の削除方法を
熟知しているとは
とても思えないが
だからといって旦那の行動を
信じたわけでは勿論なかった



スマホを旦那に返しながら

私は昨日LINEで答えてって言ったのを覚えてます?

と聞いてみた


覚えてる……でも文章で書いて
もし自分が思ってるのとは違う風に
受け取られたら……もうイイって言われそうだし
実際、違う風に受け取られそうだから
それなら直接、口で伝えようと思った



じゃあ、今LINEの質問全てに答えてください


旦那は私が送ったLINEに
もう1度目を通していた



その姿を見た時……


休みだったのに
考える時間は十分あったはずなのに
サラッと答えられないのか?
LINEを見返さないと内容を覚えていないのか?



と、旦那の答えを聞く前に
すでにガッカリしていた


それは決して旦那に対してではなく
所詮、妻である私に対してはそんなもんよね
と、ぞんざいな扱いを受ける自分自身の
存在価値に対してだった