その雪の日、
身の引き締まるような寒さの中
出かけてみた近所の公園には
あいにく
雪が積もっていなかった。

おかげで
「積もったら一緒に雪だるまを作ろう」
という約束は
反故にされる寸前だった。

残念だったねー、
と言いながら帰宅。
すると、ふと見てみた我が家のベランダの
エアコンの室外機の上に
わずかばかりの雪が。

そして数分後、
ベランダには
手のひらサイズの雪だるま。
イメージしていたのよりは
ずっと小さかったけれど、
約束は果たされた。




その日はすごく寒かった。
しかし、
寒いながらも
日は射していたらしい。
再会のたびに
雪だるまは
痩せていく。

何度目かの再会の際に
これがだるま状の彼に会える
最期に違いない、
そう感じた私は
彼女を呼んだ。




ぎりぎりだるまの形状を保った
雪だるまに向かって
彼女は言った。
「ありがとう。
 また遊びにきてね」

その一言が
この寒い日の
私の心を
温かくしてくれた。

便乗して
私も別れの挨拶を。
雪だるまの頭をそっとなでながら
「それではまた。雪の積もる日に。」

指先に感じる雪の冷たさ。

それは同時に、
雪だるまが
確かにここにいて
それを二人で見送ることのできる
温かさでもあった。



「いつ会えるかなあ」
「そうやねえ、いつかねえ」
「もしかしたら、近々会えるかな」
「うん。そうだといいね。」
「うん。」

彼女は
まるで、
産まれたての小鳥をそうするように
雪だるまを
やさしく両手で覆って、
大事に大事に
持ち上げた。



「あ。」
刹那、
乾いた音。
雪だるまは
彼女の手からこぼれ落ち
ごちゃっと崩れた。

「…あ、あーあ。」
「あ~あ~」



言いようのない
複雑な空気に包まれる二人。
さっきまでのホンワカぶりは
嘘のよう。

もしも
この状況を見たら、
雪だるまは
怒るのだろうか
笑うのだろうか。




とりあえず
身体であったであろう部分の上に
頭であったであろう部分を乗せてみた。

しかし、それは
既に雪だるまではなく、
どこか
『太陽の塔』
に似た
“なにか”
だった。


で、
二人で
とりあえず
手を合わせて
拝んでおいた。