時空を超えたすば屋 | M竹教授のBO・YA・KI

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ありがとう。


時空を超えて、


想い出す「すば屋」がある。


首里は寒川通りに


すすけた赤瓦屋根のすば屋があった。


民家をそのまま すば屋にした様子で


かまど口から店に入って、


畳の敷かれた仏壇間の座布団に


あぐらをかいて座った。


夏の日には、扇風機の風が


心地よかった。



畳に置かれた長机に、出されるすばは、たいそう旨かった。


少しちぢれ具合で、腰のある細めの麺だった。


鰹だしがよく効いた旨みのある僕の好きなあっさり味。


ほどよい大きさの三枚肉ののったそばは


とても美味しかった。



くつろぎのある空間は、すこし実家のようだった。



長机には、


小さな壺や焼きに入った、すば屋にはおきまりの紅生姜と


小瓶に入ったこーれーぐーすーが、置いてあった。



すば屋はきっと副業で、


本業は、泡盛の酒造所だった。



知人が来ると壺に入った古酒


「玉友」という名の泡盛を買って土産に持たせたものだ。


店には、テニス杯のポスターやトロフィーが飾ってあった。


店主に聞くと、なんでも息子がテニスをやっているのだとか



当時、すば屋の紹介本など存在しなかった。


すばを語るには、自分の足で


一軒、一軒食べてみるしか術はなかった。


あそこのすばは旨かった、と仲間と語る


そんな会話は今も昔も変わらないだろう。



けれども、一元で入った店の


すばが旨かったその味の刹那は、



いつまでたっても、離れていても


忘れない。



空を超えることはできても、時は遡れない。



石川酒造所という名前だった。


1990年ころ、西原に移転して以来


訪れたことはない、が


その前からすでにすば屋はやめていたように覚えている。