チャニョルとふたりだと、何も話さないでいられる。
ただ月を見て、夜風に吹かれながら歩く心地よさ。
「お前さぁ」
「・・・ん?」
突然立ち止まるチャニョルに合わせて、立ち止まる。
見上げると、チャニョル、珍しく真剣な顔してる。
「どしたの?」
何か言いたそうな顔をしてるのに、恥ずかしそうに目をそらす。
どうしたのかしら。チャニョルって、時々よくわかんない。
「カイ、のこと、気になる?」
「え?」
カイくんの名前が出て、驚いたのと同時に。
タオさんがステージの上から私を見つめてふぅっと息を拭いた姿を、思い出す。
見透かされてるみたいで、恐くって。
「そんな、こと・・・ないわよ、別に」
「いや、チョー気にしてるように見えるんだけど」
「なんでそんなこと、急に」
チャニョルを見ると、ちょっと怖い顔をして、私の両肩をつかむ。
「お前のことが・・・」
がさっと、暗闇から音がする。びっくりしてチャニョルの陰に隠れる。
チャニョルの手が私を守るように広がって。
その視線の先、外灯の向こう側にいたのは。
「・・・あ」
「ごめん、驚かせちゃったかな」
「タオ・・・さん」
チャニョルが言うと、タオさんは妖艶に微笑んで深く頭を下げる。
「姉を探してるんです。庭にいるって聞いたんだけど」
「お姉さん?」
「はい。ほんとの姉弟じゃなくて、同郷の仲間です」
タオ。遠くから声がして。
「あ、姉さん」
タオさんが声のする方向へ走っていく。やっぱり、絵になる人。
チャニョルと顔を見合わせて笑う。
タオさんが連れてきたのは、お人形みたいにきれいな人。
私を見るなり、まっすぐ近寄ってきて私の手を取る。
「かわいい! あなたかわいいね」
そのまま抱き寄せられて、頬をくっつけあう。
「私、レイ。よろしくね」
レイさんはチャニョルにも挨拶をして、タオさんに連れられてホテルに帰って行った。
チャニョルは、レイさんのいきなりの行動にあっけにとられて。
「・・・なんか、すげーな」
「うん、ちょっとびっくりしちゃった」
ふたりしてため息をついてから。
そろそろ、戻ろっか。どちらからともなく、そう言って。
ホテルに戻る。ロビーで、別れ際。
さっきの言葉の続きを、聞こうと思ったけど。
なんとなく聞けないまま、笑顔で手を振った。