WBS　スミスの本棚　司馬遼太郎 著『竜馬がゆく』

石巻赤十字病院外科医　石井正（49歳）　～指揮官の心得～
津波に襲われた宮城県石巻市、災害医療の拠点となったのが石巻赤十字病院だ…地震直後の病院ではマニュアルに沿って被災者の受け入れ準備が整然と行われていた。

石巻赤十字病院 外科医　石井正（49歳）
「マニュアルを1年がかりで作り変えたんです、リアルなものに…本番だったのに訓練みたいだと思いました。」

しかし行政とほとんどの医療機関が機能を失うマニュアルにない異常事態が発生する。…地域の22万人の命を守るため合同救護チームの立上を決断し、指揮官となったのが石井だ。

それは全国から石巻に駆けつけた、延べ3633の医療チームを指揮する事だった。

森本智子
「何が一番、大変でしたか？」

石巻赤十字病院 外科医　石井正（49歳）
「支援に来たチームは、”なんでおれたち日赤の下に入らなきゃならないんだ”という雰囲気がありました。…それをこれは日赤のチームじゃないんだと説得しました。

日赤の救護班は赤い服を着てるんですが…”そんなもん着てるらら日赤のチームだと思われるんだ”と言ってですね脱いだんです…以後、私服になりました。」


司馬遼太郎 著『竜馬がゆく』
東日本大震災後の大混乱の中で全国から集まった医療チームを指揮し石巻一体の医療を守った石井さんのお薦めする一冊は、司馬遼太郎著『竜馬がゆく』。

幕末の動乱の中で薩長連合、大政奉還を成し遂げた坂本龍馬の一生を描いた長編小説です。

「竜馬は議論しない。議論などは、よほど重大なときでない限り、してはならぬ、と自分にいいきかせている。…もし議論に勝ったにせよ。相手の名誉を奪うだけの事である」（『竜馬がゆく』より）

石井さんは、いわば寄せ集めの医療チームのまとめ役、意見も立場も違う関係者と調整を続ける時、「議論しない」　という一節が心にあったという。

石巻赤十字病院 外科医　石井正（49歳）
「『すべき論』だとか『役所がやるべき』とか理屈をこねても仕方がないので…相手を理屈で打ち負かさないで『そこはなんとか』という感じで持って行った方が結局、みなさん納得して動いていただけました」

竜馬は、本で人の動きとか働きは、8割までが気持ちの発作で決まると言っている。

震災3日後から日々の活動を記録した石井さんのノートには、3月17日の会議でチームへの奮起を促した言葉が残されていました。

「我々には、個別に丁寧な医療救護を行う時間的余裕は残されていない…いかに300ヶ所の避難所に均点化した最低限の医療を提供するかで助けられる人数が決まる」



一方でメリハリも忘れませんでした。

石巻赤十字病院 外科医　石井正（49歳）
「ミーティングでも肩の力が　”フッ”と抜けるように1ミーティング、1爆笑を心がけていました」

竜馬がゆくでは、武力で幕府を倒すしかないという中岡慎太郎に対し、竜馬はこう話します。

『しかない』ろいうものは世にはない。
人よりも一尺高くから物事を見れば、
道は常に幾通りもある。

森本智子
「災害対応では、こういう場面というのは多かったのですか？」

石巻赤十字病院 外科医　石井正（49歳）
「みんないろんな組織に所属しています。…その立場からいろいろな意見をしてくれます。それを自分の価値観だけで評価してはいけないと考えました」



震災3日後から日々の活動を記録した石井さんのノートを元に活動の記録を出版しました。…『石巻震災医療の全記録』には、本当に生々しい当時の記録が残されています。

石井さんがリーダーとして人を動かす中で竜馬から学んだ教訓は、人間は頭ではなく気持ちで…理屈で迫るよりも相手の感情に訴える事が一番人を動かせるんだ…まさに今回実践されて多くの人を動かしていったのです。


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