「運動不足が病気を招く」とばかりに、老若男女走り回っている人が目立ちます。
ところが一方で激しいスポーツは医学的にみて「体に悪い」ものだという考え方が注目され始めました。 その理由は、運動は活性酸素を多量に発生させるからであり心身にストレスをもたらすからです。 「スポーツ健康法」のどこに盲点があったのか、本当に体にいい運動とは何か、を探ってみます。 参考文献:東京大学理学部 加藤 邦彦氏・林 義人氏 |
「たとえば過去のオリンピック選手を見ても、早死にしている人がかなり多いことに気づきます。
記憶にあるだけでもメキシコオリンピックの体操で銅メダルを取った加藤選手は39才で直腸癌。 日本初の8mジャンパー(走り幅跳び)の山田選手は39才で脳血栓。 同じく陸上の猿渡選手は39才で心不全。東京オリンピックで日本選手団の旗手を勤めた水泳の福井選手もガンが原因でなくなりました。52才でした。」 老化のメカニズムの研究を専門とする東京大学理学の加藤邦彦氏は、いま大きな話題を呼んでいる「スポーツは体に悪い」(光文社)という本でこんなショッキングな指摘をしています。 1993年3月21日東京オリンピックの柔道無差別級銀メダルの神永昭夫しが57才の若さで死亡し、また東京オリンピック優勝の女子バレーボール監督の大松博文氏も57才で死亡しています。 さらにマラソンの銅メダリスト円谷幸吉氏や80mハードル5位入賞の依田郁子さんは残念ながら自殺されました。 オリンピック選手以外でも、スポーツ選手の早死にされる方は多いです。 例えば元プロ野球選手で名球会入りした大杉勝男氏は92年に47才でガン死亡していますし、第51代横綱玉の海は71年27才の若さで他界しました。 甲子園を沸かせ読売ジャイアンツに入団したばかりの湯原という選手がキャンプ中に急死した事件もあり、さらにジョギングやゴルフ中に急死する人や学校の体躯の授業やマラソン大会で死亡する事故は後を絶たない状況です。 |
体にいいはずのスポーツが障害を招き、短命化を導いている
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大妻女子大の大澤清二教授らは独自の調査により、生涯を通じて激しいスポーツを続けるスポーツマンが一般人に比べて6才も寿命が短いというデータを導き出したそうです。
この調査は体育専攻の学部がある国立大学の卒業生で没年がはっきり判っている人を選び、これを体育系・文化系・理科系に分けてそれぞれの平均寿命を産出したものです。 |
種 別 | 平均寿命 |
体育系 | 60.6歳
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文化系 | 66.8歳
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理科系 | 66.1歳
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スポーツが健康の代名詞であり運動が健康づくりに欠かせないという
これまでの「常識」が揺らいできます。
スポーツを「毒」に変える活性酸素の働き
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スポーツで何故活性酸素が増すかといえば呼吸量が増えるからです。
もし2倍呼吸すれば活性酸素量も2倍になりますが、同時に筋肉温度が上昇して体温が上昇するとそれまで呼吸した酸素の2%くらいが活性酸素に変わっていたものが、その割合が上がり最大10%くらい(約5倍)にまでなってしまいます。 例えば炎天下でトライアスロンなどを行ったりすると呼吸量も最大10倍近くまで上がるので毒性の強い活性酸素がふだんの50倍近く体内で発生していることになります。 体はそうした状況を想定していないので防御系が追いつきません。 これにより体に目に見える疾患が出たり、寿命が縮まることにつながります。 東京大学理学部 加藤 邦彦氏 |
スポーツによる快感は危険信号!!
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良くストレス解消のためにスポーツが良いと言われますが、実はスポーツによって心身ともに想像以上に大きなストレスがかかります。
しかしストレス反応自体は、元来は身体防御反応なのです。 昔、人間が原野に住んでいた頃オオカミやクマと出会った時これと戦うか走って逃げるための反応で、瞬間的に血糖値や血圧・脈拍を高めて運動能力を上げるわけです。 こうしたことは日常的に起こるものではなく、当時でもせいぜい月に1回とか年に数回というペースだったでしょう。ところが毎日スポーツをしている人はそういうことが毎日続きます。 体のほうに過度の負担がかかり障害が発生することになるわけです。 人間の体内でストレスを受けた時、ストレスホルモン(副腎皮質ホルモン)といわれるものが大量に分泌されますが、体の免疫機構を担うリンパ球がこれに対して非常に弱いです。 リンパ球がつぶされれば免疫機能が低下してしまいます。 これは「軽いエイズ」にかかったようなもので、この結果いろいろな感染症にかかりやすくなりますし、ガンに対する抵抗力も減退するのだから長生きできるはずがないのです。 また、やっかいなことにストレスは二次的に体のほうぼうで活性酸素を発生させます。 すなわち体が防御反応をとる時、血液は手足に集中して消化器や生殖器で虚血状態が続きますが、緊張がとけて血が戻る(血液再環流)時、それらの部分で活性酸素が発生して傷めることになります。 例えば女子の長距離走選手に消化管出血や貧血や生理不順が多いのもそのためだと考えられまし、女性ホルモンが止まって骨粗鬆症になりやすく骨も折れやすくなります。 スポーツで大量に汗をかくと気持ちが良くなり、いかにも体にいいことをしているような感覚になります。 ところが実はこれは脳内で麻薬物質が分泌される錯覚であり、これは体の危険信号です。 脳内麻薬物質はいつもストレスがかかった状態でストレスホルモンと一緒に出てくるのです。 例えば敵にずっと追いかけられた時、ストレス反応によって血糖値とか脈拍数をあげて運動能力を上げますが、この時脳は一時的に麻薬を出して体の苦しさをごまかして逃げ切れるようにしてあげるわけです。 マラソンなども麻薬が出て苦痛がやわらげられなかったら走りきれるものではありません。 ですから毎日定期的にジョギングしていれば麻薬中毒と同じ状態になり、走らなくてはいられないというふうになってしまうわけです。 東京大学理学部 加藤 邦彦氏 |
様々な形で現れるスポーツの「害」
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92年1月の大阪女子マラソンを最後に現役引退した当時28才の増田明美さんが、大会直後の精密検査で両足の骨7カ所に疲労骨折があることが分かり注視を浴びました。
骨そのものがもろくなっていて「骨の質は65歳ぐらい」と診断されています。 一流の長距離選手は1ヶ月に1000km前後を走るトレーニングを積んでいて、疲労骨折を招くことが多く日本陸上競技連盟が女子長距離選手十数人に行った検査でも4人が70歳代に近い骨の質だったといいます。 疲労骨折は無理な減量や激しい練習・ホルモンの分泌異常などのために骨のカルシウム量が減りもろくなるのが大きな原因とされています。 その骨に力が繰り返し加わることでひびが入ってしまうのです。 野球選手が肩の骨・ゴルフのプレーヤーがろっ骨に疲労骨折を起こす例も知られています。 日本のスポーツトレーニングは「ゴムを伸ばしっぱなしにするようなもの」とたとえられるように、コーチは選手をギリギリまで引っ張ることによって力をつけようとし、やたらに「根性」が強調されるますが、その結果線香花火のように消えていく選手も多いです。 先日京都で開かれた全国高校駅伝に出場した女子選手の1人が骨盤の疲労骨折を押して完走しました。恐ろしいことにレース中、苦痛のために泣きながら走るその選手を実況のアナウンサーは賛美する口ぶりでした。 |
スポーツに欠かせないビタミンC
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活性酸素を抑えるには、抗酸化物質が有効です。 詳細は「SODと活性酸素」 アスリートには、通常より多くの抗酸化物質が必要
代表的なものはビタミンC・E、緑黄色野菜に含まれるベータカロチン、生物の細胞質などにあって活性酸素を取り除く役目をしている酵素SOD(スーパーオキサイド・ディスムターゼ)プロなどで、これらを使えば活性酸素による障害の発生を抑えたり改善したりできます。
SOD様作用食品はスポーツ障害などの治療にも大きな効果を挙げています。 スポーツ選手や一般の方でも激しいスポーツの後には、通常より多めに SOD様作用食品を摂取されることをお薦めいたします。 スポーツマンは活性酸素の害を抑えるためにビタミンなどをうまく摂ることが特に大切です。
「ビタミンEは油溶性で体に入ると出にくいので必要以上に摂らない方がよいです。 一方ビタミンCは不必要なら体外に流れ出すので摂りすぎても比較的安全とされていますが、ビタミンCについても多量の摂取障害の例も最近報告されていますので、極端な摂取には注意してください。バランスが大切です。 またEは活性酸素と出会ってこれを消去すると自分も壊れるのですが、ここにCがあるとリサイクルします。 Eは欠乏しない程度に摂り、Cは多少多めに摂るというのが有効です。 かつてイギリスの登山隊でビタミンE剤を飲ませたグループとそうでないグループに分けてエベレスト登山をした例がありますが、前者の方が障害がはるかに少ない結果でした。 こうした激しい運動をする時には覚えておくと良いでしょう。」東京大学理学部 加藤 邦彦氏 現在、社会人の約7割がスポーツをしているといわれますが、大半は運動をしないと健康を維持できないのではないかという強迫観念につき動かされているようです。 その結果裏目に出て障害が出たり寿命を縮めることになります。 「運動が好きなら良いのですが好きでもないのに健康のためだからと無理をするのはやはり改めたほうが良いです。 スポーツはやり方によっては気分転換になりプラス面もあります。 なるべくマイナス面が出ないようにするにはうっすらと汗をかく前くらいで止めること。それくらいなら活性酸素の害やストレスはそれほど大きくはありません。 スポーツをしないと肥満になるといいますが、オフィスでも家庭でも体を動かす機会が減っているからです。本当は一番健康的なのは日常生活でこまごま動いて筋肉を使うということなのです。」 東京大学理学部 加藤 邦彦氏 |