元請け側は危機管理意識の高い人を嫌います。
私は、それを親父の仕事を通して見てきました。

約44年くらい前の春先。
親父は従業員を連れて遠方の組仕事場に行った時に、その現場に潜む重大事故を引き起こす危険を瞬時に見抜き、即座に現場監督に告げて現場の危機管理を徹底してくれるように願い出ました。

が、、、、

現場監督は問答無用に、却下❗❗ したそうです。

親父は不審に思い現場監督に面会を求め話し合いをしたそうです。

で、、、、
何故、その現場の危機管理意識が欠落しているのかが理解できたのだとか。
見るからに大型船舶修理の経験は「0」といった様子の現場の《お飾り》でいる形だけの若い現場監督だったそうです。

親父は、この当時の現場監督に、
『××はんは、どないしましたんや❓ ここの現場監督は××はんと違いますのんか❓』と聞いたのだとか。


若い現場監督:『××さんは一週間前に定年退職しました。』

親父:『さようか。××はんが居らんのやったら俺は帰らしてもらうわ。命が、なんぼあっても、足らんさかいなぁ❗』

若い現場監督:『職場を放棄して帰ったら違約金が発生するぞ❗』

親父:『あんたは俺を金で脅したろ。っちゅうんけ❗』

若い現場監督:『脅しではない。本当のことを言っているだけだ。』

親父:『あんたの目は節穴け❗❓ あんたが俺とクルーに「仕事をやれ」というている場所は重大事故が発生する危険を秘めた場所やねんぞ❗ 作業をしてほしいと思うのやったら、何か対策を講じて、安全を確保してからでないと必ず死亡事故が起きるど。もし、「その安全を確保することはできへん。」と言うのやったら俺とクルーは帰らせもらうさかい。』

若い現場監督:『この現場も、すべて上からの指示で動いています。私も上からの命令で動いているから、私、一個人の意見を上に進言することはできません。』

親父:『上の命令には「絶対に逆らわれん。」ということけ?❓』

若い現場監督:『はい。上の命令には何があっても逆らうことは許されません。』

親父:『ほな聞きたいのやけど、この現場で事故が起きたら誰が責任を取りまんのや❓』

若い現場監督:『この現場で起きたことの責任は全て私が負います。』

親父:『あんたが全ての責任を負うんかいな❓』

若い現場監督:『はい。全ての責任は私にあります。上からの命令で現場の総責任者として私が任命されていますので。』

親父:『上の人間で、この現場の責任を取る者は一人も居らへんのんか❓』

若い現場監督:『居りません。現場の総責任者として私が任命されていますから。』

親父:『あんたも可哀そうになぁ。上の人間のトカゲの尻尾切に選ばれたんやさかいなぁ。この現場の、あの個所の安全対策を早急に講じんかったら、今日か明日のうちの、あんたの人生もオシャカになるで。』

若い現場監督:『上の者は「何も心配は要らん。工期までに仕上げるように。」と言っていますから、私は、それに従うだけっです。』

親父:『それやったら、あんたの好きにしたらええがな。だけどな、このままやったら工期どころやなくなるど。それだけは断言できるさかい。ほな、俺とクルーは、これで帰らせてもらいまっさ。』

若い現場監督:『職場放棄して帰ったら違約金が発生するぞ。』

親父:『好きにせんかい。』

と言い残して親父は仕事を蹴飛ばして帰りました。

そんな経緯があったなど全く知らない私は、、、、

午前9時30分ごろ。
組仕事先の現場監督から、
『社長は帰っていますか?』という電話がありました。

私:『いいえ。まだ帰っていません。』

組仕事先の現場監督:『(悲壮な声で)社長が帰り次第、「現場監督の○○××が電話を待っています。」と伝えてください。至急お願いします。』

という電話がかかってきて、、、、
私にはよくわからないが、親父に伝えればいいのだろう。と思って、ホワイトボードに伝言を書いておいた。

が、、、、、

30分おきに組仕事先の現場監督から『社長はまだ帰っていないのですか❓』と今にも泣き出しそうな声で電話がかかってくるのです。。。。

私は親父が帰ってくるまで電話機を積み重ねた座布団の間に挟んでおきたかった。

正午を少し過ぎたころ、親父は家に帰ってきました。

私:『父ちゃん、あのな、午前9時半ごろに組仕事先の現場監督から
『社長が帰り次第、「現場監督の○○××が電話を待っています。」と伝えてください。至急お願いします。』
電話がかかってきた。今にも泣き出しそうな声やった。それから30分おきに
『社長はまだ帰っていないのですか❓』
という電話がかかってくるねん。』

親父は黒い電話機のダイヤルを回しながら、、、、
『俺が帰った後、すぐに事故を起こしたんかいや。』と言って、組仕事先の現場監督に電話を掛けた。

若い現場監督が直ぐ電話に出た。

親父:『なんや、電話機に張り付いとったんかいな。
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泣きな。泣いたかて時間を巻き戻すことはできへんのやさかい。
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事故が起こってから前の現場監督の××はんや、俺の言うてたことが正しかったんや。と理解してもろうても遅いわな。
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今朝も聞いたんやけど、なんで上の人間は現場の経験も無いに等しい、ど素人同然の、あんたを現場監督に据えたんや❓
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上の人間と(前の現場監督の)××はんは、今朝、事故が起きた個所の安全対策について、毎日のように衝突しとったんかいな。
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ほんで、
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工期に後れを出さんために、安全対策に無頓着な、イエスマンの、あんたを新任の現場監督に据えたんかいな。
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そういうことやったら、今回の事故に繋がった経緯を洗いざらい事故調査員に話をすることやな。
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それが出来へんのやったら上の人間の顔色をうかごうて人身御供にでもなったらええがな。だけどな、これを機会に、あの事故が起きた場所の安全対策を講じんかったら、これからも、同じ事故が繰り返されるで。

俺から言える事はそれだけや。後は、あんたが決めるこおちゃさかいな。
あんたの好きにしたらええ。ほな電話を切るで。』


で、親父は電話の受話器を置きました。

その後、若い現場監督がどうなったかは知りません。

だけど、、、、、、

これ以後、親父に現場監督を兼ねた組仕事の依頼が増えました。