玄関先を出て、ハナを三輪車に乗せて身支度していると、先に飛び出して行ったタロウがダダダと走り戻ってきました。
「お母さん! ありえないものが、あるよー!」
タロウに手を取られて見に行くと、
たしかにいました、ひっくり返ってモゾモゾと動く小さな虫が。
「あー、これはコガネムシだね。ひっくり返って動けなくなってるよ」
「戻していい?」
「やってみたら?」
タロウ、ひょいとコガネムシをつまみ、表にかえしました。
しかし、だいぶ弱っているような感じで、動きがゆっくりです。
男児にしては珍しく(?)タロウは特に虫に興味を持つ傾向はなかったのですが、
やはりこうやって「すごい虫」にたまたま遭遇すると、興奮するらしい。
しばらくコガネムシを興味津々に観察していましたが、やがて飽きたのか、
「あ、ぼくも自転車に乗っていこーっと」
と言い放ち、玄関へ逆戻り。
その後、自転車をこぎながらマンション廊下をまたこちらへやってきました。
踏みつぶしやがった。
「あーー!タロウ、あなた今、コガネムシ踏みつぶしちゃったよ!!」
ひっくり返っていたところを、5歳児に助けてもらったコガネムシは、
数分後に、これまた同じ5歳児の不注意で踏みつぶされてしまいました・・・
驚いて駆けつけてきたタロウ。
死んだコガネムシを、しばらくじっと見ていました。
「お母さん、今度ぼく森にいきたい」
「え?森?」
「森にいって、またコガネムシ捕まえるの」
「あ、そう…まぁいいけど」
「またコガネムシ捕まえるから、(死んでも)いいんだもん」
わかった、いいわよ、と返事をし。
とりあえずエレベーターに乗って下まで降りて、公園に向かいました。
しかし、エレベーターを降りたところで、タロウの目から突然涙が。
「お母さん…ぼく…ぼく…いきなり悲しくなってきちゃった…」
「どうしたの?」
「コガネムシ… 死んじゃったぁぁぁぁぁ」
やはり、悲しかったらしい。
さっきの態度は強がりだったのかな。
「ああ・・・そうねぇ、死んじゃったねぇ。悲しいの?」
「悲しい」
「でもさ、死んでしまったものは、もう生き返らないのよ。だからもう仕方がないの」
「うわあぁぁぁぁん(号泣)」
エレベーターホールで、私に取りすがって号泣するタロウ・・・
「だからさ、悲しいって思うんだったら、もっと気をつけなくちゃいけなかったね。
もう少し、タロウが気をつけてあげていれば、死ななくてすんだかもしれないよね」
「ぼく、コガネムシ捕まえたかった。コガネムシ逃がして飛ばせてあげたかったぁぁぁ」
ヨシヨシ、と慰めつつ、
「その、悲しいって思う気持ち、忘れないようにしてね。その気持ちは、とても大事だからね。
コガネムシさんは、タロウに命の大切さを、教えてくれたのかもしれないよ・・・」
などと。
しみじみと話したところ、うんとうなづき、なんとなく納得した様子。
しばらく泣いて、落ち着いてから、あらためて公園に出発したのでした。
しかし、私自身は、虫が大の苦手なので、
ムシの生き死にに、ちっとも感情は動かされないのだけれども(爆)
今回ばかりは、コガネムシが身体を張って(?)、タロウに教えてくれたことに、
感謝して手をあわせたい気分でした・・・
コガネムシ自身にとってはとんでもない災難だったと思いますがね
ありがとうね、コガネムシさん。
あなたの教えてくれた命の大事さ、儚さは、きっと、タロウの心の奥にしっかりと刻まれたことと思います。
。。。
ほんとはムシって、見るのも触るのもダメな私。
でも、このコガネムシに会えてよかった。
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