2016年3月読書メモ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

「名ばかり管理職」という言葉を噛み締める日々―ボス交代で来月からが地獄。



米国の原子力規制委員会では、すでに福島第一の過酷事故をそっくり予想していたかのような改良方法を提示しており、現場ではそれを実行していたことがわかった。


(中略)


いわゆる”B.5.b”というコード番号で呼ばれる行政命令であるが、福島第一原発事故直後の一時期だけに公開され筆者も入手出来た。そこには、直流電源を含めて電源喪失したら、何とかして安全弁やベント弁を開けて圧力容器を減圧・注水すべきである、と書いてあった。つまり、手動のハンドルや自動車用バッテリー、ガスボンベ、エンジン付きコンプレッサ、可搬ポンプ、燃料プール補給水用配管、などの小道具を準備せよ、と書いてある。防災というより、減災である。


(中略)


上述の”B.5.b”はテロ対策なので、原則的に未公開だった。日本の保安院は特別に2006年と2008年に秘密裡に説明を受けた、ところが、保安院は「日本ではこのようなテロは起きません」と答えて何ら対策を打たなかった。事故後、「ホアインゼンインアホ(保安院全員阿呆)」という回文が巷に出回ったが、結果からみればその通りである。


(中略)


原発でやるべき対策は、浜岡原発が1200億円かけて作った”万里の長城”的な高価な防火壁ではなかった。せいぜい数億円で揃えられる、上記の小道具群だったのである。ところが、驕りとは恐ろしいものである。東電は勝利の方程式を知っており、それから必要とされる小道具群も理解していたのである。しかし、「そのような小道具は事故が起きた後でも、近場のホームセンターでいくらでも買える」と思ったのか、全く準備していなかった。


                              中尾政行「続々失敗百選」


続々・失敗百選 「違和感」を拾えば重大事故は防げる-原発事故と“まさか”の失敗学/森北出版
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まだまだ知らないことがあって驚愕…。「ホアインゼンインアホ」という言葉に尽きる。決して反原発ではないが、反東電・反保安院としてこいつらにだけは原発を扱わせたくないという意味で結果的に反原発になる―。

東電関係者こそ国家転覆罪などの内乱罪で人民裁判(それこそ裁判員裁判!)で裁かれるべきだと心の底から思うのだが。
林知己夫の生涯: データサイエンスの開拓者がめざしたもの/新曜社
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日本のデータサイエンスの父の生涯を愛弟子が記したノン・フィクション・力作。神風特攻隊の命中率の計算などの苦悩を経て「データの中から血が零れている」なる名言に結実する。

「日本人の読み書き能力調査」で文盲率1.6%という米国を上回る調査結果が出なければ日本語も危うかったというエピソードが脳裏に焼き付いた。きちんとした手法による調査、そして調査による施策の重要性は今日も揺らがない。


検証 バブル失政――エリートたちはなぜ誤ったのか/岩波書店
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検証した結論は読者に委ねられる。米国側の(経済・政治)事情による圧力なのか、財政を第一に金融を捧げる大蔵省なのか、正しきと思うことを貫けず結果的に資産インフレの兆候を感じ取りながら物価上昇は許容値というだけで意思を貫けなかった日銀なのか―結果的に三重野総裁が、わずか1年3ヶ月で公定歩合を2.5%→6.0%に引きあげ(しかも根拠は何となく5%が正常という感覚値)、国土庁が銀行局に反旗を翻した総量規制でバブルどころか日本経済ごと息の根を止められた。

福井氏や白川氏など後の日銀総裁も登場し群像劇としても十分に楽しめる歴史的資料(個人的にはBIS規制を巡り日本が強硬に株・債券含み益を自己資本に含むよう主張したことが結果的に銀行の暴走を許し、傷を深めた下りが国益を担う外交交渉の難しさを示し唸らされた)。


将棋戦型別名局集2 四間飛車名局集 (.)/マイナビ出版
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ただいま勉強中。森安九段の新手、棒銀対策の4三金上がりを称して「鋼鉄のマシュマロ」という呼び方が好き。


アニメスタイル008 (メディアパルムック)/メディア・パル
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雑誌の理想。一生手元に置いておきたいと思うし何度でもページを繰りたくなる。例えば復刊1号でとりあげたとらドラ!の面々がチーム化して「ここさけ」に通じる。雑誌を通じてたびたびインタビュー記事があがっているのでその変遷を追うことでよりいっそう作品が楽しめる。個人的には、作画に力が入っており、画集としても超オススメ。ワンパンマンの修正原画の数々の熱さがタマラナイ。

13日の朝7時4分に、1Fの従業員に向けて「自家用車のバッテリを持ってきてください」と呼びかけていた。その結果、1,3号機用に10個以上は集まったが、2号機用にはまだ足りない。そこでさらに1F資材班は「買い出し用の現金を貸して欲しい」と従業員に呼びかけた。発電所には金庫がなかったのであろうか、1個2万円としても、100個買うのに200万円が必要になる。確かに200万円を財布に入れている人はいないだろう。


13日7時17分27秒、1F資材班:「資材班です、すいませんこれからバッテリ等を買い出しに行きます。現金が不足しております。現金をこちらに持ち出している方ぜひお貸しいただきたいと思います。すいません、申し訳ありませんが、現金をお持ちの方貸していただけないでしょうか。よろしくお願い致します。」


東電社員は紳士である。バッテリが東日本を救う命綱であるとわかっているのならば、ツケで買ってきても、またはメモを置いて黙ってもらってきてもよいではないか、有事なのだから…。


                              中尾政行「続々失敗百選」