2016年7月読書メモ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

1990年代に日本型雇用に起こった変化は、中核に位置する雇用保障と引き替えの無限定の労働義務には手をつけず、もっぱら周辺部の非正規雇用者を拡大する形で進みました。

(中略)

世界に例を見ない雇用契約の無限定性にはほとんど目を向けず、もっぱら生活給の必要ゆえの年功的昇給を目の敵にし、成果主義を唱道しました。欧米の成果給は契約に定める職務の成果を測ります。しかし日本では、仕事に値段がつくのか、それとも人に値段がつくのかという賃金論の「いろはのい」が全く無視され、職務無限定というデフォルトルールになんの変更もなく、「成果を挙げていないから賃金を下げる」理屈付けの材料として強行されたのです。

濱口桂一郎「働く女子の運命」



すでに趨勢が見えている都知事選、主要マスコミがもっと政策をと言いつつ、議論の場を設定する能力が無い点は今さらだが、その中で週刊文春がとうとう見出し記事で主要候補を引きずり下ろす力を有するようになったことが刮目か―。この先に私の焦がれてやまない「ネガティブキャンペーン」があるはず。



働く女子の運命 (文春新書)/文藝春秋

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メンバーシップ型とジョブ型の切り口で日本の労働問題を綺麗に整理する仕事の一環。男女雇用機会均等法の理念が目指してきた何かと、現実の落差を埋めるピースを提供する。端的に言えば、メンバーシップ型→職能給へ変換され、ジョブ型→職務給と翻訳して理解するというもの。この捻れを温存したままに、男女平等に取り扱うということを企業がどのように受け止めたか、そして男女ともに等しく劣悪な労働環境に貶める方向で理念が達成されうるのかという疑問符をつきつけるところで幕引き。

労働「諸」問題を考えるにワークライフバランスを取り戻すには、メンバーシップ型の有益性を残しつついかにしてジョブ型へ転換できるかを慎重に考えていかないといけない。

ソースの歴史 (「食」の図書館)/原書房

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コンディメントソースとして体液と食物のバランスを考える=中和するものというところから始まり、ソースこそ味を決定づける快楽の領域に踏み込んでいくさまが面白い。そして、世界の食文化の多様性はソースの多様性に基づくことを納得させるバラエティの豊富さ。

エピソードとして、アメリカでケチャップの売上がサルサソースに逆転されたことが社会に衝撃を与えたというのはφ(..)メモメモ


ウォール街のアルゴリズム戦争/日経BP社

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ジョシュ・レヴィンという一人の天才が株取引を、魚市場のセリのような限られた人間の特権からIOTを通じて開放する。ただし、その先には一足飛びにアルゴリズムという人間を排除する方向に繋がったという皮肉な結末となる―その間にさまざまな抵抗勢力が生まれ、技術が生まれ、、、そして消えていく興亡史として非常に面白い。

奇襲大全 (マイナビ将棋文庫)/マイナビ出版

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将棋ウォーズでいつまで経っても戦法や囲いでコンプが進まず手にとった一冊。奇襲というと「嵌め」に過ぎず正統な応対には対応できないというのは浅はかな偏見だったことがよくわかりました。