2018年3月読書メモ | あざみの効用

あざみの効用

或いは共生新党残党が棲まう地

 

 

 

ようやく異動―、これでワークライフバランスを取り戻せる見込み。ただ、色々と異動先に関する勉強をしないといけないので来月から暫く読書量を減らさなければあきまへん。

 

 

 様々な利害関係者が絡み、大金が動く重要な諸政策を検討するに、その手段は費用便益分析しかない。ただ、それこそ源流の功利主義批判を参照に比較考量するには左右の天秤に同じものが乗るのか、そもそも天秤にのせられるのかどうかといった問題をさけられない。それに対して机上の空論ではなく「現実政治」として立ち向かうにどういった考え方をなしたかが開陳される。 

 究極の「人命」について「人の命は地球よりも重い」といった考え方ではなく保険的『統計的生命価値(Value of Stastical Life)』を採用、ブレークイーブン分析(コストではなく便益側を上限・下限幅で考える)などの具体的なものさしや、費用便益分析が鈍る「恐怖」の取り扱い方など経済と心理・社会学が融合調理されていく。

いずれにしてもキャス・サンスティーン好きとしては政府高官に採用できた米国が羨ましい限り―。

 

MONEY MONEY
 
Amazon

 貨幣とは信用の具現化であり、信用が乏しい社会は発展できない。しかしときに信用は過剰に膨張し、ときに過剰に瓦解する。それがバブルと恐慌の金融史となる。処方箋は信用をコントロールする機関を設けることにある。ただし、そういった機関の設立の社会的合意に至るのは「貨幣」に関する不信感と「国家権力」に関する不信感が相まって結構難しかったことを具体的に、アメリカの連邦派と中央集権派の文脈下でFRBが根付くまでの歴史を遡りつつ紐解く。

 インフレとデフレのそれぞれの害悪に触れた後にアベノミクスについても触れられるが、この点は訳者即ち、日本にリフレを紹介した立役者と言って過言ではない山形浩生氏が補足をしている。即ち物価は上がらなかった、原因は日本の生産性にキャパがあった、金融政策だけでなく財政政策が必要と。

先日上記、ブログエントリーを読むと矛盾しているように思える。つまりデフレは貨幣現象であり、金融政策で打開できると主張していたわけだから金融緩和が不徹底なだけだろうと述べているが、上記あとがきの通り既に財政政策の必要性(財政出動+消費増税反対)が説かれているわけで、いくら金融政策だけでは限界があることは明らか、即ち過去の発言に責任を問わないリフレ派界隈に対しての皮肉だろう。

 本気でケチャップを撒けと思っているとしたら正にはてブ欄に指摘があった「インパールは兵力10倍なら勝てた」風。思い起こすのはかつて小泉改革で経済成長に対する処方箋が「構造改革」、いくら「構造改革」的施策に取り組んでも成功しないのは構造改革が足りないからという無敵宗教論法。

 ブレイディみかこ本の下地ともいえる、英国人の英国人向けの怒りの本。要はサッチャー(保守党)の労組解体とサッチャーの正統後継者たるブレア(労働党)メリトクラシーの合わせ技で、地域社会が空洞化し、分断され新たな階級社会が誕生したが、その点を不問に付した結果可視的なチャブそして昨今は移民を貶めることで英国社会はある種の均衡を保っている。社会保障という正の手ではなく、軽蔑や憎しみといった負の感情で問題を先送りしてもそこに未来はあるのか?

 日本でも根拠なき若者批判が00年台に展開されたことを思い起こすと少し苦いものが混じる。