Crying Nut





オレはいきなり耳を疑った。

今、何て歌ってんだ!?

遠くに見える星空の下の一番でっかいステージで

韓国のパンクバンドが演奏している。

その前では、韓国の若い兄ちゃん姉ちゃんが飛び跳ねて踊りまくっている。

オレはその集団が切れた辺りの、後ろの方で見ていた。

ステージでは、何度も同じ言葉を連呼している。

オレはまさかと思ながら、必死にその言葉に食らいついた。

「ルック、ルック~ア、ア、アルゼン~」

え!?いったい何て歌ってんだ?まさか!




仁川ワールドロックフェス2013

トリのWEEZERの前にでてきた韓国のバンド、Crying Nutの登場だ。

このバンド、実は10年以上前に大阪難波マザーホールで

一緒にやったことがある。

メンバーの一人のインスーに、出会っていきなりサインをせがまれた。

ギターウルフのものすごいファンだと言う。

言葉通り、ギターウルフが韓国でライブをやるときは、必ず見に来てくれる。

日本でももちろんあるし、アメリカにも来てくれたことがあった。

だが、彼のバンドCrying Nutにはあまり興味がなかった。

しかし、去年の仁川ワールドロックフェス2013で遂に一緒になった。

これは見に行かねば。

韓国では超スーパースターとは聞いていたが、まさしくその通りの

光景が目の前にあった。




さっきから連呼される言葉がわかりだした。

割合すぐにわかってはいたが、まさかそんな言葉を連呼しているとは

思わないから、何度も聞いて確認した。

やはり間違いない。

「ルック、ルック、ルクセンブルク、アッ アッ アルゼンチーナ」

その連呼だ。

ルクセンブルク!?

もちろんヨーロッパの小国だが、その単語を歌に?なんで?

オレもなるべく人が作らないような曲を作ることに命を燃やしているが、

ルクセンブルクって何じゃ!?

確かにどんな単語を歌にしてもいいが、

ルクセンブルクを歌にする感覚というのが、オレには全くなかった。

なんだか悔しいような気持ちがムラムラ沸いてきたが、

その単語を歌にしたこのバンドに好意を持ち、

そして歌と言う物の可能性に驚喜した。

曲は単純で、メチャメチャ乗りやすいパンクロックだ。

そしてステージと会場はさらにヒートアップして、

最後の瞬間、みんなが片手をあげ、何かを激しく熱唱した。

韓国の友人のロックタイガーのタイガーに聞いたことがある。

Crying Nutは、若者が韓国でカラオケをやる時、最後のシメで

みんなが必ず歌う曲を作った」

たぶん、目の前で聞いているこの曲に違いない。




東京に帰って、何年も前にインスーからもらったCrying NutのDVDを見た。

ライブ映像で、日本語の字幕スーパー付きだ。

「わるいねインスー、何年も見なくて」そう思いながら見ていると、

いよいよその曲【ルクセンブルク】の演奏が始まった。

“ルック ルック ルクセンブルク アッ アッ アルゼンチーナ!”

字幕スーパーから読み取れる歌詞の内容は、

まるでNHKの教育テレビで流れるような曲だった。

“世界地図を広げて、夢を探してみんなで歌おう”

こんな感じで始まり、そしていろんな国が次々と歌われる。

石油があふれるサウジ、レゲエ三昧 ジャマイカ、

そして、アメリカや中国も歌われる。

そうか!やはりこの曲はなんと言っても、ルクセンブルクという単語を

使ったことが、素晴らしかったのだ!と納得しかけたその時、

最後に登場した歌詞に、韓国ならではの強烈なメッセージがあった。

たぶん、あのフェスで客が一番盛り上がって熱唱していたフレーズは

これだったのだ。

いろんな国が歌われた後、最後にこう歌われる。

“そして、もうすぐひとつさ コリア!”




もうすぐ一つさ コリア か、

そりゃあ盛り上がるだろうな。

このバンドと今月末、韓国でライブをやる。

名曲【ルクセンブルク】を聞けるのが楽しみだ。

だがこの曲で歌われる国の中に、残念ながら日本は出てこない。

どうせなら、歌詞にもう一行付け加えて欲しかった。

「いろいろあるけど嫌いじゃないゼ ジャパン!」ってネ。




ライブは2日間、6/2728 ギターウルフと韓国へ行こう!