M78星雲】








沖縄から帰ってきた車の中で突然聞いた。

「M78星雲って、南那覇って意味らしいですね。」

横でハンドルを握るスタッフが、昨晩、沖縄の友人に聞いたと言う。

「なるほど!」

オレは思わず激しく点頭した。

そうだったのか、全てに合致する思いがして、

頭の中が、ウルトラマンのオープニングのようにグルグル回り出した。






全ての少年が、光の国M78星雲からやってきたウルトラマンに

夢中になった。

その後の、ウルトラセブン、帰ってきたウルトラマン、

ウルトラマンエース、ウルトラマンタロウ、ウルトラマンレオ、

だいたいその辺りまでが、自分が夢中になって見たシリーズだ。

ある時、こんな事があった。

「帰ってきたウルトラマンに、ウルトラセブンが出る!」

そういう回があり、それはもうクラスで、大変な大ニュースだった。

みんなが待ちきれないくらい興奮していたはずのその日は、

自分にとって、非情にも剣道の練習であった。

練習帰りに床屋の前を通ると、中のテレビに

帰ってきたウルトラマンが流れていた。

自分は思わず床屋のぐるぐるネオンの横に立ち、

入り口の、白い曇りガラスの店名が抜かれた透明の部分から

遠慮気味に中をうかがい、音の無いウルトラマンを、

ひとりでじっと見ていた。






ウルトラマンの中でも、少年の心に、ちょっと強烈な

不思議な印象を残しているシリーズがある。

面白いのか、面白くないのかわからないような回がよくあった。

ウルトラセブンだ。

その不思議な印象は、その後の再放送を見ているうちに、

だんだん激しく心を突くようになる。

丁度その頃、NHKで、ウルトラセブンの制作過程を

スタッフ、キャストから描いたドラマを見た。

【私が愛したウルトラセブン】だ。

その中で二人の沖縄の脚本家が出てくる。

後で聞くとそのドラマ、完全なるノンフィクションではないが、

その沖縄の脚本家の一人が言うセリフのリアルさに、ドキッとした。

「このところ、宇宙人を書くと沖縄人になっちゃうんだ。

ついでにウルトラ警備隊が自衛隊、

それを助けるウルトラセブンは日本を守るアメリカの第七艦隊って

図式になっちゃうんだ。

沖縄人が、ヤマトンチュウに復習する話なんて、

オレが書いたら、金ちゃん困るだろう?」

ウルトラセブンの頃はまだ、沖縄は返還されてなかった。

自分が確か小2か3の時、沖縄返還のニュースを聞いた。

朝、長崎の県営住宅の狭いキッチンで、母親が教えてくれた。

その日は天気が悪く、キッチンは薄暗く、

ヘエ-、そうなんだとパンか何かをかじっていた。

でも子供心に、右から左に流すように聞くのでなく、

しっかり大事な事として、受け止めた記憶がある。

あの頃は戦争が終わり20数年しか経ってなく、

大人達の言葉にはいつも、何か強い戦争の映像らしき物が飛び出ていた。

二人の沖縄の脚本家が加わって書いたウルトラセブンは、

確かにいつも正義と不正義が曖昧で、

見た後、何か釈然としない物が心に残った。

だが、たぶんそれは彼らの心そのものであった。

その脚本を書き上げる時、彼らの心には激しい凹凸がいくつもでき、

そのざらつきが、ブラウン管を通し、当時見ていた少年の心もざらつかせ、

何か特異な印象を、少年達の心に今でも宿している。






ライブで沖縄に行った。

到着した那覇空港はお天気雨だった。

沖縄は4回目だ。

お昼14時にホテルにチェックインすると、その日はライブがない。

初めて何時間もかけて、沖縄の町を歩いた。

お天気雨に体を濡らしながら、国際通りから裏に裏に向かって、

脇道をほじくるように歩くと、何度も、一瞬戸惑う様な気持ちになる。

韓国で見るような家も多く、奄美以北とは完全に違う雰囲気に

改めて気づかされた。

街角、街角の独特な沖縄の色彩が、自分の網膜をどんどん占領するに

従い、自分の心にせまる物があり、変な感想を持つ。

「沖縄よ、日本でいてくれてありがとう」

琉球王国が日本に編入されて沖縄になった歴史はまだ浅い。

例のセブンの脚本家は、昔、琉球王国が島津家に侵略された事を題材に

【3百年間の復讐】という話を書いた。

しかしその話が映像化される事はなかった。

東京に帰って翌日に調べたのだが、

M78星雲が南那覇から来たと言うのは実際は違うらしい。

M78星雲自体が、本当にある星雲だ。

それを南那覇と読むその当て読みは、ただの偶然であるには違いない。

だが、それをそう読んでしまう強烈な沖縄の匂いが、ウルトラセブンには

ある。






沖縄2DAYS!

あの雨がかすかに落ちてきた沖縄の夜空に、乾杯!

オレ達のロックを響かせる事ができて最高だったよ!

またM78星雲に戻りたい。